EP 7

牛丼の幸福な余韻が食卓を満たしている中、ルーナがハッと何かに気づいたように手を叩いた。


「そうだわ! 貴史さんがスキルを使えるようになったのって、もしかしてロードの傷を治してあげたからじゃないかしら!?」


その言葉に、貴史は先程の女神システム(仮)の無機質な声を思い返した。


「確かに…『善行を確認。丼ポイントを加算します』とかなんとか、そんな事を言っていたような気がするでござる…」


自分のスキルが、ただ空腹を満たすだけでなく、何か良いことをしなければ発動しない(あるいはポイントが得られない)という事実に、貴史は改めてその特異性を認識した。


「それなら!」ルーナはぱっと顔を輝かせ、貴史の手を握った。「私やお母さんが、貴史さんに薬草のことや、簡単な治療の仕方を教えてあげるわ! そうすれば、もっとたくさんの人を助けられるし、貴史さんのスキルももっと使えるようになるはずよ!」


活発な彼女らしい、前向きな提案だった。


「まぁ、ルーナの言う通りね」ナーラが優しく微笑む。「実は私、若い頃にこの村の小さな教会で、巡回の僧侶様のお手伝いをしていたことがあるの。だから、薬草の知識や、傷の手当ての心得くらいなら、貴史さんのお役に立てるかもしれませんわ」


穏やかなナーラの意外な過去に、貴史だけでなくルーナも少し驚いた顔をしている。


サンダは腕を組み、ふむ、と一つ頷いた。


「なるほどな。ルーナ、お前の考えていることが少し見えてきたぞ。貴史君は、その不思議な力で美味しい食事を出し、そして人助けをすることでその力を維持する…。まさに一石二鳥、いや、助けられた者も幸せになるなら一石三鳥か」


「ん? どういうことでござるか?」


貴史が首を傾げると、サンダはニヤリと笑った。


「つまりだ、貴史君。君は困っている人を助け、その礼ポイントで人々に美味い飯を食わせる。助けられた者は喜び、飯を食った者も喜ぶ。君はポイントを得て、さらに次の善行に繋げられる。…まさに聖人のような生き方ではないか?」


「せ、聖人!?」貴史はその大げさな言葉に目を丸くした。元中二病の心は、その響きに少なからずときめいたが、自分自身がそうなるとは到底思えない。


「ええ、お父様の言う通りね」ナーラも納得したように頷く。「貴史さんのその素晴らしいスキルが、もっと使いやすくなるように、生活の中で自然と善行を積めるように、色々と確立していくのね。素晴らしい考えだわ、ルーナ」


「おぉぉ…!? な、なんだか、とんでもない話になってきたでござるぞ…!?」


貴史は圧倒されつつも、自分の力が、ただ丼を出すだけの奇抜な能力ではなく、もっと大きな可能性を秘めているのかもしれないと、胸が高鳴るのを感じていた。


「ふふん、そうでしょ!」ルーナは得意げに胸を張ると、貴史に向かって力強く言った。「だから、頑張りましょう、貴史! 私たちがしっかりサポートするから!」


その真っ直ぐで力強い励ましに、貴史は思わず背筋が伸びるような気がした。


「あ、ありがとう…ルーナ。皆さんも…」


こうして、田中貴史のララリララ大陸での生活は、サンダによる基礎戦闘訓練に加え、ルーナとナーラから薬草の知識、傷の応急手当、包帯の巻き方といった治療法を教わるという、新たなカリキュラムが追加されることになった。


朝はサンダの容赦ない剣術・体術・弓術のしごきに耐え、昼はルーナと森に入って薬草の種類や効能を覚え、夜はナーラから怪我人の手当ての仕方を学ぶ。


(YouTubeのサバイバル動画でもこんなハードなのは見たことないでござる…! まるでリアル育成ゲームの主人公じゃないか…! いや、拙者が主人公なのか…!?)


貴史は心の中でそんなツッコミを入れながらも、地球での怠惰なコンビニバイト生活では決して得られなかったであろう充実感(と筋肉痛)を、少しずつ感じ始めていた。


「どんぶりマスター」への道は、人助けの道と交差し、そしてププル村の温かい家族の支えと共に、着実にその一歩を踏み出そうとしていた。


その先にどんな冒険と、そしてどんな絶品丼が待っているのか、今の貴史にはまだ想像もつかない。

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