俺の母さん、実は魔王でした⁉
@KuRoNia
第一章 育児、それは突然に
第一節:ボフッと来たのは救世主?それとも災厄?
魔王城・玉座の間。
静寂と荘厳の支配する空間に、今日も変わらぬ魔族の王の姿があった。
魔王エステア。威厳と気品をまとい、紅のマントを翻しながら文書に目を通す姿は、まさに“王”。
「……また人間界からの要請書ね。“盗まれた聖杯を返せ”って……盗んでないわよ、拾っただけでしょうに」
ふと、エステアが眉をひそめる。
さっきから、なんだか胸騒ぎがする。静かなはずの空間に、微かに……違和感。
「セス。何か妙ね。感じる?」
「いえ、魔力の濃度も通常通り──いや、少々……?」
そしてその瞬間。
「ボフッ」
玉座の間の中央に、突如として淡く青い魔法陣が出現した。
それは見たこともない、乱雑で不安定な形。転移の魔法にしては未熟で粗い。
そして、魔法陣が弾け飛ぶと──
そこに、小さな人影がぽすんと落ちてきた。
「……赤ん坊!?」
「……は?」
エステアとセスの声がぴたりと重なる。
黒い髪。くしゃくしゃの上着。ほんのり青い右目。
ぽつんと座り込んだその存在は、まぎれもなく──人間の子どもだった。
「な、な、なんで!? なんで人間の子どもが!? うちの城に!? しかも魔法陣!? えっ!? 誰!? え、どういう!? あわわわわわ!!」
珍しく、いや、かつてないほどに取り乱す魔王。
「魔王様、落ち着いてください」
「落ち着けるわけないでしょ!? 急に現れたわよ!? なに!? 時限爆弾的なやつ!?」
「もしこれが爆弾であれば、すでに爆ぜているでしょう」
「論理的ッ!!!」
とにかく、泣いてない。
びっくりしていたノクスは、キョロキョロと辺りを見回していたが──目が合った。
黒髪の少年の目が、魔王と真正面から合った。
「……あ」
「えっ、喋った!? 喋った!? 今『あ』って言った!? 喋れる系赤ちゃん!? 賢い系!? 怖いッ!!」
「少しは冷静に努めてください」
セスが肩をすくめる。エステアは慌てふためきながら、ノクスにそっと手を差し伸べる。
「え、えーと……こんにちは? わたくしはエステアっていいます……敵じゃないですよ? 撃たないでね?」
「それはどちらかというと、赤ん坊のセリフでは」
「そうね!?そうなんだけど!?」
だが次の瞬間──
ノクスが、にこーっと笑った。
「……ああああああ、笑った……! やばい、かわいい。
かわいい。ちょっと、セス!? かわいい!! なにこれ!? 世界救った!?」
「一先ず魔族会議の招集をするべきかと」
「やって!今すぐやって!ちっちゃい人間が降ってきた件について、マジで議題にして!」
魔王の静かな一日が、崩壊した瞬間だった──。
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