坩堝の咢(るつぼのあぎと)

甘乃夏目

坩堝の咢(るつぼのあぎと)

 道の端に腰を下ろした旅人は、大きく息をついた。


 ひと目でわかる、長旅の疲れだ。砂埃にまみれた衣、重そうな足取り、そして腰の水筒を無造作に掴み、ごくごくと喉を鳴らして飲む。


 水を染み込ませた手拭いで、首筋、額、そして腕までも丁寧に拭っていく。


 「いやぁ、長かったな……。歩くってのは思ったより骨が折れるもんだ……」


 独り言の相手は、自分の影。


 人里が遠いことを悔やむように、ぽつりぽつりと呟いては、どこか浮世離れした微笑を浮かべていた。



 そんな彼の影に、ふたつの影が重なった。

 気配に気づいた時にはもう遅かった。


 ――「ガツン!」


 乾いた音が響き、旅人の意識はその場で途切れた。

 「ドサリ」という重い音を残して、草の茂る道端に崩れ落ちた。


 血のりがべっとりと付いた棍棒を持つ男ゴステロと、短剣を逆手に握った細身の男チャックが、その場に立って倒れた旅人を嘲るように睥睨へいげいしていた。


 「ちょろいな……で、中身はどうだ?」


 棍棒の男――ゴステロが顎をしゃくると、細身のチャックが倒れた旅人の懐を探る。巾着を引き出し、手の中で重みを感じる。


 「おおっ、ずっしりきてますよぉ~♪ こりゃ今日は、旨い飯が食えそうだ」

そううそぶいたチャックが唇を舐め、両手を揉み合わせる。


 「兄い、今日はご馳走あり付けそうですねぇ~」


 「……オラ」

 ゴステロは巾着をひったくると、中身を無造作にぶちまけた。銀貨や銅貨がジャラジャラと地面に散らばる。金貨も数枚混ざっていた。


 チャックは目を輝かせてかき集める。


 「こいつ、まだ持ってるかもしれねえ。もうちょい調べて……」


 「もういい」

 ゴステロは空になった巾着を捨てると、旅人の体を足で転がした。


 「う……うぅ……」呻き声と共に旅人がかすかに目を開けた瞬間ゴステロと目が合った。

 

 その瞬間ゴステロが切れた。

 

 「この若造が!きちんと仕事しやがれってんだ!!クソがぁ」いうなり力いっぱい腹を蹴り上げた。


 鈍い音と共に身体はゴロリと転がり、地面にぐったりと倒れ込んで動かなくなった。


 慌ててチャックが旅人の様子を窺うが、息をしてないのに気付いて声が上ずる。「あ、あにぃ…し、死んでやすぜ?」青い顔をしてそう呟く。


 「ケッ。こちとら朝からケチの付きっぱなしで、むしゃくしゃしてたんだよ!それをコイツと来たら呑気に物見遊山なんぞと洒落やがって!この若造が!舐めやがって!!」


 「そうですよね…そういや、この近くの開拓村に、えらくうんめぇ豚汁を振舞う店があるらしいですぜ?そこ行きやしょう?」


「おお♪そうだな!ゲン直しだ。いっちょ派手にばら撒くか?えぇ?」


 ゴステロはつばを吐き捨て、二人は意気揚々と開拓村へと向かった。


****


 夕暮れの村の食堂で、ゴステロとチャックは久しぶりの贅沢に舌鼓を打っていた。名物の豚汁に肉、酒、野菜の煮込み、パン、スープ。食い散らかした皿が机に山のように積まれている。


 「くはぁっ!やっぱ命懸けた後の酒は格別だなぁ!」


 「いやぁ、兄いはさすがッスよ、あの一撃、ほんとスッキリしたッス!」


 満足げに店を出て村の頼りなさげな門番に声をかけ、これまた貧相な村の出入り口の門をくぐり村の外に出ようかとしたその時だ。


 「待ちな!!」


鬼の形相をした飯屋の女将が怒声を張りあげた


「そいつらぁ逃がしちゃいけない。取っ捕まえるんだよ!」


 その言葉に呼応して村人が、村の中や村の外で仕事をしていた者たちがあっという間にふたりを取り押さえてしまった。


 この世界の開拓民の気性は荒い。普段は柔和で大人しい村人達も、時には村人総出で悪事も働くし、隙だらけの旅人を陥れる事も日常茶飯事だ。

 

 同じような出自のふたりも、こんな時の村人の豹変ぶりは何度となく見て育ったのだ……ここで言い逃れ出来ないと、どんな結末になるかは誰よりも判っているふたりなのだった。


 ふたりを取り押さえている村人たちが怪訝な顔で女将を見る。村人の視線に少し緊張気味に女将は懐から、先ほどチャックがよこした袋を出して見せた。

 「こいつ等が飲み食いして代金だって、あたいによこした袋だよ」


そう言って袋を逆さにひっくり返すと、土塊がボロボロと道端に広がり落ちた。


 「食い逃げだよ、あたしたちをたばかろうって魂胆さ」



 「なんだってぇ?食い逃げぇだぁ!? 俺たちゃ、ちゃんと払ったぞ!」


 「ち、違ぇんだッ! ちゃんとホントに金貨だったんだ……あんたも見たろ?それに、その銭は俺らのじゃ……」


 「も、もらったんだよ!旅人から!俺らも騙されたんだってば!」



 「そんなこたぁ知らないさ!土塊なんぞよこして。あんたらどうなるかわかってんだろうね?」

 


 ふたりの必死の言い訳は届かず、散々に殴りつけられ、蹴飛ばされ、ふたりの叫びは、村人たちの無慈悲な暴力の嵐と地鳴りのような怒声に潰されていった。


 やがて、静まり返った村の外れ。泥にまみれた空の巾着と、息絶えたゴステロとチャックの死体が無造作に捨てられていた。


 そんな喧騒の後。


 ゴステロに蹴り殺されたはずの旅人が、ゆっくりと目を開けた。


 「ふぅ」と息を吐いて身を起こすと、立つ時に握った土塊を手のひらでクルクルもてあそぶと数枚の金貨と小銭に変わった。


 旅人が死んでしまったら、数時間で土塊に戻る金貨――あれはこの旅人の力によって造られた”まがい物”だったのだ。


 「……悪銭、身に付かず、か……」


 パチンと旅人が指を鳴らす。


 あきらかに死んでしまったはずのゴステロとチャックの身体を一陣の風が吹き抜ける。


その直後、まるで眠気を振り払うように、ぼやけた視界を正すように、頭を左右にゆっくりと振りながらふたりは起き上がる……。

 

 そうして、焦点の定まらないまま、ふらふらと、どこかへ歩き去った。


****


 陽が中天に差しかかる頃、旅人は空を見上げ、額の汗を手の甲でぬぐった。少し先には、腰を下ろすのにちょうど良さそうな木陰と、大きな石がある。


 旅人はその石に腰を下ろし、懐から握り飯を取り出した――その瞬間。


――ガツン。


 何かが後頭部を直撃し、握り飯を落とすよりも早く、旅人の意識は闇に吸い込まれていった。


 倒れた旅人の懐から、巾着がするりと抜き取られる。中の銀貨や銅貨が、地面にバラバラと音を立てて散らばった。


 その中でひときわ目立つ金貨を、目ざとく拾い上げたチャックが、満面の笑みを湛える。


 「へっへっへ、ようやくツキが回ってきましたねぇ?あにぃ」


 にやけ顔で銭を拾い集めながら、チャックが振り返る。軽薄な口調に似合わず、手際は慣れたものだ。


 そんな弟分を横目に、ゴステロ――が腕組みをし、やや渋い表情を浮かべていた。


 「……なんだかなぁ。妙な感じがするんだよなぁ」


 地面に横たわる旅人を見下ろしながら、ゴステロは頭を掻く。


 「どうかしたんですか? これから街に戻って、飯食って、ちょっとイイ女でも抱きに行こうって話してたじゃないですか?」


 不思議そうな顔で問いかけるチャックに、ゴステロは数秒間黙り込むと、首を振って疑念を払うように言った。


 「……まぁ、そうだな。気のせいか。俺たちはこれから、腹ぁ満たして、楽しむんだからなぁ……」


 言い淀む自分を奮い立たせるかのように、こぶしを突き上げ無理にでも気分を切り替えるように笑うゴステロ。その隣でチャックも陽気に笑いながら、小銭の入った巾着をポケットにねじ込む。


 去りかけたところでチャックが踵を返し、旅人の首筋にナイフを突き立てた。

血が地面に広がるのを見て、眉をひそめながら小さく呟く。


「うへぇ……慣れねぇなぁ、こればっかしは……」

 ゴステロは後ろで聞こえた肉を抉る音に、眉間を寄せた


 これで何人目だろう――そんな考えを首を振ってかき消した。


 血に塗れたナイフを旅人の服で拭い、いつもの軽薄な笑みを浮かべながら、チャックが足早にゴステロの後を追う。


 朝からツイてなかったぶん、ふたりの足取りは軽かった。先ほど手にした臨時収入のおかげで、気分も上々。陽炎の揺れる道を街へ向けて歩き出した。


 チャックは銭を掌の中で転がしながら、まるで宝石でも愛でるように笑っている。

「へっへ、やっぱ世の中うまくやったもん勝ちっすよねぇ」


 そんな弟分を横目に、ゴステロは意識の中に浮かぶもやのようなものを振り払うように問いかけた。


 「なぁ……前にも、似たようなこと、しなかったか? 俺たち」


 チャックの手がぴたりと止まる。

 「あにぃも……そんな気がしてたんすか?」


 「うん……なんかこう、モヤッとしてんだよ。頭ん中がさ」



 最初の浮かれ気分もどこへやら、すっかり会話の途切れたふたりに、街の大扉の前で待ち構える番兵たちの鋭い視線が突き刺さる。

 

 だがゴステロとチャックは、そんな視線にも気づく様子はなく、そのまま街の中へと足を踏み入れていった。


 その姿を見送る番兵の視線は決してふたりから離れる事は無かった。


****


 ここは<天の羽衣亭>――この街では割と上等な飯と酒。そして接待女の質も良いと評判の酒場であり、高級宿である。 そしてそんな高級宿でのふかふかの寝床での一夜のお楽しみは接待女たちにも人気の的となっている。


 陽気な笑い声、怒号、女給仕たちの嬌声とも悲鳴ともつかぬ叫び――

喧噪が渦巻く酒場の一角では、ひときわ豪勢な料理が、女たちを両脇にはべらせたゴステロとチャックの座るテーブルに、これでもかと並べられる。


 手掴みにしたモモ肉にかぶりつくチャック。油まみれの指を舐めながら、どこか得意げに頬を膨らませる。

 

 ゴステロもまた、肉を噛みちぎり、酒を流し込む。育ちの良さなど微塵も感じさせない豪快な食べっぷりだ。


 もっとも、この場にいる客の大半が似たようなもので、誰もそれを気に留める様子はない。


 ――ただ、数人だけは違った。

 

 先ほどから、鋭い視線がふたりの一挙一動を捉えて離さない。


 満腹になり、酒で気が緩み、これからの“お楽しみ”に鼻の下を伸ばしきったふたりに、その不穏な気配を察する術などあろうはずもなかった。


 たっぷり食い、たっぷり飲んで、たっぷり遊び、ふたりはふかふかの寝床に包まれて極上の眠りに落ちていた。


「グォオオオ……グガァ……」


 弛緩しきった体から漏れる爆音級のいびき。


 深夜。宿の静寂を破る騒めきが起きた時――それは、ふたりの耳には届かなかった。


――が、次の瞬間。ズキン、と全身に走る痛み。


 まぶたの奥に、強烈な光が差し込む。

 

 ふたりとも両脇をがっちり押さえつけられて、眩しい光から顔を背ける事しかできないでいた。


 「な、なにしやがんでぃ!」「あにぃ!!グゥッ…」何が起こっているのか?二人には皆目見当もつかない。


 「こいつらで間違いないか?」

 「へぇ、間違いありやせん。あっしらを襲ったのは、こいつらです」


 別の男の声が重なる。


 「おいらも襲われたぜ。まぁ、返り討ちにしてやったがなヘヘン」

 「間違いねぇよ、あのつらだ!憎たらしい顔しやがって……!」

 「おいらのマリエちゃんと懇ろねんごろごろしやがって…ちぃくしょうー」


 口々に呪詛じゅそが飛び交い、ようやくゴステロとチャックの頭に“嫌な予感”が湧き始めた……それも飛び切りの……前にも味わった嫌な予感が……


 そこへ、この宿の女将が血相を変えて駆け込んでくる。

「ちょいと!なんだいこりゃぁ!?土塊だらけじゃないか!」


 女将が袋を床に叩きつけると開いた口から、ゴロゴロと土塊つちくれが転がり出る。

 それは、ふたりが飲み食いして渡した巾着袋きんちゃくぶくろ。“旅人から奪い取ったお金が入った袋”だった。


 こうして彼らは――日を置かず、「強盗」の数々(中には言いがかりと言える明らかな冤罪まで背負わされて)と「無銭飲食」の罪で処断される事になった。


 磔台の上でゴステロは怒声を上げ、チャックは涙ながらに無実を叫んだ。

だが最後まで耳を傾ける者など、この場には誰もいなかった。


 そして、ふたりは――二度目の死を迎えた。


 それから間もなくして、チャックに止めを刺されたはずの旅人が、むくりと目を覚まして何事も無かったかのように、伸びをした。

 道端の土をひとつかみすると掌で弄び始める。


 すると、土塊は金貨銀貨銅貨に姿を変えた。おもむろにどこからか取り出した袋に無造作に放り込むと、「パチン」と指を鳴らした。


 同時に処刑場で晒し者にされていたはずのゴステロとチャックの死体が忽然こつぜんと姿を消した。


 街の治安部隊は、ふたりの死体を血眼に探したが、見つけることは出来なったと言う。


****


 青い空に白い雲が流れ、太陽の光が田舎道を柔らかく照らしていた。

 遠く、陽炎の向こうから一人の旅人がゆっくりと姿を現す。

 足取りは重く、どこか疲れた様子が滲んでいた。


 その背中に目を光らせていたのは、道端に腰を下ろしただった。


 「こんな辺境を、護衛のひとりもつけずに歩いてるとはな……不用心なヤツだな」ゴステロが低く呟く。


 「そうみたいでやすね。旅慣れてねぇのかなぁ無防備もいいとこっすよ?」チャックが肩をすくめながら続ける。


 「だったら俺らが行って、殴り倒して──」ゴステロの言葉に、チャックが小さく頷く。


 「今朝からツイてなかったですからねぇ。あにぃ、あいつ、いいカモっすよ?」


 ふたりは苦笑を浮かべる。


 今日も追い剥ぎは失敗続きで、手持ちの金もわずか。少ない成功も肝心の金目のものは手に入らなかった。


 ──だが。


 「でもな……さっき顔をチラッと見た時、背筋がゾクッとしやがった」

 ゴステロの声に、どこか迷いが生じていた。道の先を行く旅人の後姿を見やりながら、チャックに視線を移す。


「どうするよ?」


 しばらくの沈黙の後「……おいらも、やらねぇ方がいい気がしてるんすよ」チャックが首をすくめる。「あの老人、なんつーか……ぞわぞわして、いや~な感じがして……」思いを確かな言葉に出来ないでいるようだった。


 ふたりはしばらく黙り込み、ため息をついた。


 ──お前も俺も同じ思いか。


 「なぁ、村に帰るか?」ゴステロがぽつりと呟いた。


 チャックは一瞬目を見開き、それからどこか晴れやかな顔で頷く。


 「ですね。おいら、向いてねぇのかも知れないっす、こういうの」


 ゴステロはチャックの肩にそっと手を置いて、静かに言った。

 「……俺たちは、だろ?」


****


 「俺のかかぁとガキに、何か土産でも買って帰らねぇとな」ゴステロが、ふっと笑う。


 「ちげぇねぇ。おいらも母ちゃんに、くわでも買って帰るかね」チャックが照れくさそうに笑った。


 「それはいいな」ゴステロも笑いながら、パンパンとチャックの肩を叩く。


 「なあ、あにぃ。覚えてるか? ガキの頃、川で魚捕って婆さんに怒られた時のこと」


 「おう、懐かしいなぁ。あの時、おめぇがびしょ濡れのまま逃げ出したの見て、笑いすぎて腹いてぇ思いしたっけな」


 「で、そのあと、すっ転んで泥まみれになったおいらを、あにぃが見て、大笑いして、おいらもつられて笑いあったんでしたっけ」チャックが懐かしそうに、軽口を返す。


 ふたりの笑い声が、すきとおった空と、どこまでも続く田舎道に柔らかく溶けていく。


 「村の広場でやる祭り、もうすぐだったよな。今年はちっと早めに帰れそうだぜ」

 「へへ、おいら、あの祭りで売ってた甘い団子、また食いてぇなあ。今食ったら、昔よりうまく感じるかもしれやせんね」


 チャックが空を見上げて、小さく笑う。


 「そうだな。帰ろう。村に帰って、ちゃんと働こうや。鍬でも担いでよ」


 「はい。もう後ろめたい気持ちになるのは、こりごりでさぁ」


 「だな!」


****


──つい先ほどまで獲物として狙っていたはずの旅人の横を、ふたりはまるで最初からよこしまな思いなどなかったかのように、陽気に、当たり前のように通り過ぎながら挨拶を交わした。


 「よぅ、旅人のあんちゃん。今日は良い天気だからって、あんま無理すんなよ?」


 旅人は少し驚いたような顔を見せながら尋ねた。

 「おふたりは、これからどちらへ?」


 「おいらのおっかぁと……で、あにぃのカカァとガキんとこ、っすね」

チャックはそう言いながら親指でゴステロを指した。


 「それはそれは。きっと、ご家族もお二人のお帰りを心待ちにしておられるでしょう」


 「そ、そうか?……なんか照れるな。お前、気ぃ使いすぎだよ。ありがとよ」

 そう言って、ゴステロは照れ隠しのようにそっぽを向き、足早に通り過ぎていった。


 「おふたりとも、お気をつけて……」

 旅人は満面の笑みを浮かべ、ふたりの背を見送った。


 そうして、ぼそりと――

 「私を襲わなんだか……少しは成長した、か……」


 呟いたその姿は、やがて静かに風景に溶け込み、消えていった。


****


 ひと旗揚げようと、希望と夢を胸に村を旅立ったふたりは、やがて挫折し、道を違えた。

 そんな若者たちと、旅人の数奇な運命は交差し、やがて、それぞれの新たな道を歩み始める──。


 蒼天の下、上機嫌に鼻歌を歌いながら歩むゴステロとチャック。


 だが、事態は突如として一変する。


 「野郎ども! カモが葱背負ってやってきたぜぇ!」

 「ひゃっほぅう!」

 「オラオラ、有り金全部置いてけやーッ!!」


 道の脇からわらわらと野盗の群れが湧き出すように現れ、ふたりを取り囲んだ。


 突然の事に青ざめるふたり。

 「や、ヤメロ―っ!」

 「助けてくれー!」

 「ぐわぁっ……」

 「ぎゃあっ!」



 ──しばらくの喧騒のあと、



 道端に静かに横たわるのはゴステロとチャック。ふたりの上を一陣の風が舞いしばらくつむじを巻いた後──唐突に──消えた。



 そして再び、青い空に白い雲が流れていく。


 まるで何事もなかったかのように、太陽は田舎道を柔らかく照らしていた。


 横たわるゴステロとチャック。

 

 ふたりは今度こそもう──二度と生き返ることはなかった──。



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坩堝の咢(るつぼのあぎと) 甘乃夏目 @nekodake774

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