紫煙
猫又テン
忘れ草
乾燥した葉を紙で巻いただけの嗜好品。ただそれだけ。くだらないことこの上ない。
紙煙草を指で挟んで、ライターで火をつける。
ライターは、思いの外火の勢いが強かった。
しかし、驚いたことなど周りに悟られないように。フィルターを噛んで、煙を口に含むと、深呼吸をするように息を吸って、煙を肺へと送り込んだ。
これは毒だ。
ずっしりと重たい毒。
深く、更に深く。無遠慮に肺を汚染していく。
鼻につんと突き刺さって、喉を焼いて。口から吐き出すと同時に、耐え切れず咳き込んだ。
貴女はこんな物を吸っていたのだ。
どうやら、自分の体質はニコチンを受け付けてはくれないらしい。
クラクラと揺れる脳からは知性が零れ落ちて、視界の平静すら奪っていく。
馬鹿になってしまった。猿と同じだ。
獣に成り果てるその間も、貴女の姿がちらついて消えはしない。
紫煙を燻らす、貴女の姿を。
誰も居ない喫煙所。面影の跡を、その所作を、硝子細工でも触るように、無意味に真似る。
この行為は、「子供みたいだ」と笑う貴女が正しかったことの証明に違いなかった。
虚無は決して埋まらない。貴女のような泰然さを取り繕うことすら出来やしない。
迫る灯火が、終わりが近いことを報せる。
静かに滲む涙は、目に沁みた毒のせいに違いなかった。
紫煙 猫又テン @tenneko
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