第13話 獅子の屋敷と失われた地図
屋敷の扉を押し開けると、かび臭い空気が鼻をついた。
中は予想以上に荒れていて、床には
中央には重厚な階段がそびえ、その両側には無数の扉――部屋が連なっていた。
階段の手すりには、
未桜は足を止め、その装飾にそっと触れる。
どこか懐かしく、そして切ない表情を浮かべながら。
「ここ……やっぱり、何か思い出しそうな感じする?」
美羽がそっと声をかける。
「んー……まだ、ここにいたような気がするなぁってだけどね」
「休憩する?それとも探索する?」
美羽がみんなに問いかけると、凪が一歩前に出て言った。
「未桜と優、休ませてあげたい。無理してほしくないし……」
未桜はすぐに首を振る。
「平気だって、気になるし、ちゃんと見ておきたいんだよね」
灯が少し悩んだあと、優に目を向けて言う。
「でも、優はさっきのショックもあるし、ここで少し休んでて。未桜は…言っても聞かなそうだから、私達と探索しましょう。でもあんなに戦ったあとなんだから、1人になっちゃダメよ」
「へいへーい」
未桜が灯におどけて返す。
「……そやな。ちょっとだけ、ここで座っとくわ……」
「私も残る。何かあった時に優一人やと困るし……この階段周辺、入り口も見えるから、監視もできる」
霞が優に付き添うように近づいて言う。
「霞もやっぱり怖いんでしょ?!なんかあったら、ちゃんとあたしらを呼ぶんだよ!!」
翔花が霞の顔に覆いかぶさるようにして、真剣な顔で言う。
「ちゃうわ。優はここ来た時最初一緒だったから。翔花じゃあるまいし、お化けくらいで怖がったりせぇへんよ」
霞が翔花の顔を手で制しながら突っ込んだ。
「なんか、姉妹みたいやねぇ。霞ごめんな。ありがとうね」
優がふふっと微笑ましく笑い、目を伏せてお礼を言った。まだ少し先ほどのことを引きずっている様子だった。
こうして、未桜・灯・かおる・翔花・凪・美羽の6人が屋敷の探索へと向かう。
―――
廊下には割れた窓から風が吹き込み、カーテンが幽霊のように揺れていた。
一つ一つ扉を開けていくと、中には崩れたベッドや、カビだらけの風呂場、割れた皿が散らばる台所……生活の名残が朽ち果てて残っていた。
「……“偉い人”が住んでたって感じだ」
と、かおるが呟いたその時だった。
「……ここ、見て」
未桜の声に全員が集まる。
未桜が立っていたのは、大きなベッドのある部屋だった。
明らかに、この屋敷の主が使っていた部屋ではないかと思えるほどの広い部屋だった。
その中の朽ちた机の上に、一枚の地図が無造作に置かれていた。
端は焦げ、文字も判別できない部分が多いが、それでも明らかに何かの"国土図"であることが分かる。
「……これって」
「……この地図、島の地図っていうより、"国全体”の地図かもしれない。―島じゃなくて、国、だったのかも…」
灯がそっと埃を払うと、いくつかの都市のようなマークが見えた。
地図の中央に星と花”の紋章。
海辺付近には“龍と水流”の紋章。
そして、おそらく図書館があった都市の"狼と月"の紋章。
今8人がいると思われる位置には、未桜の先ほどの姿と同じ“ライオンと炎”の紋章があった。
「これは……この大きさなら“都市”レベルだよ。街なんかじゃなくて。しかも……紋章が都市を表してるものなら、他にも都市がたくさんあるみたいだ」
かおるがそれぞれの都市を見ながら呟く。
そして、地図の中央には、“城のような構造物”が描かれていた。
凪と優達が出会った、神殿のような場所の柱に刻んであった"星と花"の紋章
「この真ん中の"星と花"の紋章、最初の優達とあった時の石造りのところにあったよね?」
翔花は最初に優達と出会った場所を思い出して、凪の方を向いた。
「うん。でも神殿とかだと思ってたけど、地図でみたらお城じゃない?」
凪も考え込む。そして地図にあるものを見つけて、指を差した。
「ね、ここ見て」
凪が指さしたのは、ライオンの紋章から、狼の紋章へと繋がる“矢印のマーク”。
よく見ると、それはただの矢印ではなく、双方向の交換のような印だった。
「……これ、ワープしたところじゃない?」
「ほんと…このお互いに矢印になってるマークが“都市間ワープできるところ”の場所を示してるってこと?」
灯が凪を見ながら答える。
凪も自信がないながらも、そうとしか思えなかった。
そして、その視線が自然と一つの場所に集まる。
ライオンと炎の紋章の隣――
そこには、亀と
「……これさ、うちらが思った通りだとしたら、隣の都市に行けるところってことになるよね」
かおるが皆をみる。
「うん。明日は、ここに行ってみようか」
「この都市と、あたしに起こった変化、絶対何か関係ある気がするよ」
未桜が呟く。
灯が静かに続けた。
「確信はないけれど、都市を調べていけば、この島と私達との関係の謎に近づける気もする」
「きっと、他の都市も誰かに関係がある。それが“あいつら”が言ってた、"思い出してない"っていう何かに繋がるかもしれない。自分たちで確かめなきゃだな」
かおるも未桜と灯と同じ考えだった。
その言葉に、皆が静かに頷いた。
「それに…」
かおるが小さい声で言い淀んだ。
「ん?なに?かおる」
灯が気づいて声をかける。
「いや…なんでもない」
かおるが首を振る。
「新しい都市さ!何があるんだろうね?ちょっとワクワクもするけど!とりあえず地図の文字が読めないから何書いてあるかはわからないねー!」
直後、美羽が元気な声を発し、地図を覗き込んで文字をマジマジとみる。
「これなに文字なんだろ?象形文字?」
「絶対違うよ」
翔花が首を傾げながら、本気かボケたのかわからない回答に、凪は思わずツッコんでいた。
かおるは1人、考え込む。
―あの亀と蔓…見覚えがある、ような―
屋敷の中に眠っていた“過去”のかけらが、ようやく口を開きはじめていた。
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