ボクがこの『月下美人は夜に咲く』に出会ったのは、ちょうど自分自身が「投資」と「恋愛」をテーマにした女性の成長譚を書いている最中のことだった。
偶然だった。
いや、偶然というには少し出来すぎていて――どこか運命的なものを感じた。
というのも、ボクが描いていたのは「水商売で自分を育てた母に反発する娘」の視点。そしてこの作品は、「同じ境遇の母自身が主役」で語り手になっている。
真逆の視点で、でも不思議と同じ景色を見ているような、そんな気がした。
物語の主人公・朝倉美紀は、夫を亡くしたあと、娘を育てるために夜の街へ踏み出す。
いわゆる“熟女キャバ”という舞台設定だけを見れば、ちょっと刺激的に映るかもしれない。
でもこの物語は決して派手ではないし、安直な逆境ものでもない。
むしろ一貫して静かで、丁寧で、何より真摯だった。
誰かに頼って生きてきたことへの後悔。
知ろうとしなかったことへの悔しさ。
そして、“もう一度生き直す”という覚悟。
それらが、美紀の視線と声で綴られていく時間は、ボクにとって、とても優しく、そして刺さるものだった。
特に印象に残ったのは、「学び」と「恋」が、同じ文脈の中にあること。
経済的に自立したいと願う中で、誰かに出会い、揺れ、惹かれていく。
この二つの要素が、どちらも等しく“生きる力”として描かれているところが、本当に素敵だと思った。
人は何歳からでも学べるし、何歳からでも恋をしていい。そう思わせてくれる物語だった。
ボク自身も自分の年齢よりもずっと若い登場人物を描いているけれど、この作品を読んで思った。
「歳を重ねる」というのは、成長の終わりじゃなくて、新しい始まりの合図なんだと。
そして、ボクの物語の“娘”も、いつか“母”になって、こうしてもう一度歩き出すのかもしれない。
そんなことを思いながら、静かに最後のページを閉じた。
この作品に出会えたことが、なんだか少しだけ、自分自身の背中を押してくれたような気がする。
ありがとう、と言いたい。
そんな不思議な読書体験だった。