アイドル戦士くーねたん!~歌って殴って浄化して☆異世界アイドル、終末世界を救いますっ!~
あわぐり
第1話 崩壊する世界 1
「これで、、、終わりです!」
少女の拳に、白く煌めく光がぎゅうっと収束していく。それは希望の結晶のように清らかで、そして強い意志を宿していた。
「まだ、、、終わらんよ」
相対する男の手にも、禍々しく黒い光が集い始める。闇の濁流のように、ねっとりと、だが確実に力を増していく。
ここは、どこでもない次元の狭間。二人きりの、決戦の舞台。
身体は限界を超え、息も絶え絶え、次の一撃が全てを決める。
だからこそ、この一撃にすべてを込める。
たとえ自分がここで終わったとしても。
「守りたいものが、あるからッ!この暗い世界をっ・・・私が照らすっ!!」
二つの光が、極限まで高まり、空間が軋む。
「しゅーーてぃんぐすたああぁああああ!!」
少女が絶叫とともに放つ、白い流星。
「エクリプスッ!!」
男が応じるように放つ、闇の爆発。
白と黒。光と闇。”希望”と”絶望”。
交差した閃光の中で、すべてが、塗り替わっていく。
――その瞬間、世界が2色に分かれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
昼休みの教室は、いつもと変わらず賑やかだった。
机をくっつけて弁当を広げるグループ、スマホを見ながら笑ってるやつ、後ろの席ではカードゲームが始まりかけている。先生が来たら速攻で片付けられる程度の、日常的な騒がしさ。
エイタは自分の席で、紙パックのミルクティーを片手に、ぼーっと窓の外を見ていた。
友人のユウスケは購買へパンを買いに行っていて、帰ってくるのを待っているのだ
(腹減った。ユウスケまだかな)
そんなことを思いながら、空を見たそのとき。
空の端に、一瞬“ひび割れ”のような黒い線が走った。まるでガラスが割れたかのように。
しかしまばたきした次の瞬間、それは消えていた。
(ん?今の、なんだ?)
目をこすってみても、そこは普通の空だった。ただの見間違えかな?と思いまたミルクティーに口をつけようとして、
ズドンッ
不意に、地の底から突き上げるような衝撃が教室を揺らした。
「えっ!?」「なんだ?!」「地震っ!?」
叫び声が重なると同時に、ロッカーが倒れ、黒板の上の時計が落下する。天井の板が浮き、蛍光灯がぐらついた。
「やばいっ!」
エイタはとっさに机の下に潜り込んだ。中にある教科書が崩れ、床が波打つように揺れる。
(・・・やばいっ!。これは普通の地震じゃないぞっ!)
長い。揺れが長すぎる。しかも、上下と横揺れが交互に来ている。教室で誰かが絶叫し、泣き出した声が聞こえた。
数秒か、数分か、やっとのことで揺れが収まり、静寂が訪れる。割れた窓ガラスの破片がきらきらと舞い上がる。
「外に出ろ!校庭へ逃げろ!」
廊下のほうで教師の叫びが響く。
エイタは机の下から這い出して、倒れた椅子を飛び越え、廊下へ出た。クラスメイトたちが半狂乱で走り抜けていく。
ここは3階だから階段を使って下に降りなければならない。皆階段がある方へ向かって走る。あちこちで天井の一部が落ち、壁のひびが深くなっている。まるで、学校そのものが壊れていくみたいだった。
階段の分かれ道に差しかかる。誰もが我先にと階段を降りようとし、場は混乱に満ちていた。
そのときだった。
「・・・っ、たすけて・・・!」
小さな声が、背後から聞こえた。
エイタの前を走っていた生徒たちは迷うことなく下の階へ駆け下りていく。
校庭へ出るには、それが最短ルートだ。誰もが命の危機を感じ、足を止めることなく下っていく。
エイタもその後を追おうと、一歩を踏み出そうとし――
「だれか・・・たすけてっ」
かすかな声が、しかし今度ははっきりと逆方向。階段とは反対側の廊下の奥から聞こえた。
(・・・今のは)
誰も止まらない。聞こえいるのか、いないのか。
いや、何人かはエイタ同様反対側を気にした後、苦虫を噛み潰したような顔をして階段側に駆けていく。この状況では皆自分が助かることに精一杯なのだ。
反対側の廊下は酷い有様だった。天井はところどころ崩れ、照明は点滅している。そんな暗がりの奥に、誰かが取り残されているかもしれない。
エイタは立ち止まったまま、階段と廊下の分岐を見比べる。
(やめとけ・・・こっちから逃げたほうが安全だ)
そう思考が告げる。けど、あの声は確かに助けを求めていた。
(ああもうっ!このまま逃げても、あの声が頭に残こっちまう!そういうの、たぶん俺は無理なんだよな)
エイタは小さく息を吐いて、反対方向の廊下へ向かって走り出した。
崩れかけた天井、歪んだ床、バチバチと火花を散らす配線――廊下の奥はさっきよりも酷く、まるで廃墟だった。だが、その先からかすかに聞こえてくる。
「・・・誰か・・・っ」
エイタは声の方へ走る。曲がり角を抜けた先、廊下の突き当たり、半壊した図書室の扉が軋んで開いていた。
中に入ると、本棚が何列も倒れて崩れ、本が散乱していた。天井の一部も落ちている。
その瓦礫の山の隙間から、小柄な女子生徒が一人、倒れていた。
「おい! 大丈夫か!」
エイタが駆け寄ると、彼女がかすかに顔を上げた。
不安そうな目がエイタを見て見開かれる。
「・・・動けなくて・・・棚が、足の上に・・・」
見ると、本棚の角が彼女の足のあたりを押さえつけていた。完全に挟まっているわけじゃないが、重みで身動きが取れないようだ。
「待ってろ。すぐどけてやる!」
エイタは周囲を見渡し、倒れた椅子の脚を手に取ってテコのように使う。ぐっと力をかけると、棚がわずかに浮いた。
「今だ、足抜けるか!」
「う、うんっ!」
彼女は苦悶の表情を浮かべながらも、慎重に足を引き抜いた。擦り傷と、軽い打撲程度に見える。
「あ、ありがとう」
「よし、行こう。ここも危ない」
エイタが手を差し出すと、彼女はそれを取って立ち上がる――その瞬間。
ドンッ――ッ!!!
再び、大地がうねった。
図書室全体が突き上げられ、天井がきしみを上げる。
「わっ、またきた!」
「きゃっ!」
「あぶない!」
エイタは彼女を庇うように押し倒し、身をかがめた。
直後、とてつもない浮遊感に襲われる。足場が崩れたのだ。さらには天井までもが崩れ落ち、二人を包み込むように――
ガシャアアアンッ!!
轟音とともに、エイタの視界が真暗に染まった。
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