第36話 キュンキュンします

「そうでしょうね。清らか過ぎるモノは魔獣にとって近寄りがたいでしょうね」


 神父様の言葉です。

 もしかして、私が今まで道で遭遇したモフモフたちを追いかけて行っていたのを、馬鹿な子を見るような目を向けていたのは、そういうことだったのですか。


「うー。モフモフを飼っていいと言ったのは、私にはモフモフが懐かないだろうとわかっていて言ったっていうことなの?」

「契約で縛れば関係ないでしょう」


 それは主従の契約ですか? 私はもふもふとお友達になりたいのに、それは嫌です。……ということは一生モフモフたちと戯れることはできないということですか!


「俺が思うに、その垂れ流しているのをやめればいいのだろう?」


 俺様アークが私の横で食後のお茶を飲みながら言ってきます。が、モフモフアークが、食べている姿も堪能できないなんて酷いです。


「本人はヤル気はあるのですがね。聖女の力は心身の状態に影響をうけるので、仕方がないところもありますね」


 たぶん、最終的に常に浄化していて教会がある区画が神域のようになったから、このままでいいのではとなったのだと思います。


「さて、今後の予定ですが、老公直属の護衛が追加で同行することになりましたので、残念具合を周りに振り撒かないようにしなさい」

「え? アスタベーラ老公、直属の護衛って……」

「今回の非礼のお詫びと、聖女の安全のためです」

「お礼はモフモフが……はい、何でもありません」


 目が笑っていない笑顔を向けて来ないでください。怖いです。


「アークジオラルド皇子は基本的に黒魔豹ラフェシエンの姿でお願いします」

「それは今までと変わらないだろう。さっきもオリヴィアが転ばなければ、姿が変ることはなかった」


 はい。何もない床で足がつまずいて転びかけたところにモフモフアークがいて、モフモフを堪能……支えてもらったときに、我慢ができなくてモフモフに抱きついてしまったのです。


 わかっているのです。モフモフを堪能すると俺様皇子化することに。

 しかし健気に私を支えてくれるモフモフアークにキュンキュンするではないですか!

 思わず手が出てしまうことは仕方がないことです。


 そしてすぐに襲ってくる残念さ。


「オリヴィア。いちゃいちゃしたいのなら、個室でしなさい」

「神父様。いちゃいちゃしたいのはモフモフアークであって、俺様皇子ではありません」

「だから、どっちも俺だと言っているだろう」


 全然違います。大事なのはモフモフかモフモフじゃないかです。

 そして神父様の大きなため息が聞こえてきました。


「そういう残念なところを表にはださないようにしなさい」

「はい、わかっています」


 人々が望む聖女像を壊さないようにしないといけないとは、昔から言われていますからわかっています。

 そう言えば、気になる言葉を思い出しました。


「あの? 私って人形聖女と呼ばれているのですか? どういう意味なのですか?」


 あのアスタベーラ公爵子息様に言われたことが引っかかっていたのです。

 私は別にそんな二つ名を言われるほどおとなしい性格ではありませんわ。


「可愛らしいという意味ですよ」

「え? 本当に?」


 どちらかと言えば、操り人形的な意味合いがあるように思えたのですが?


「ファルレアド公爵子息も言っていたではないですか。しゃべらなければ、可愛いと」

「ロベルト様の微妙な褒め方ね。私は違う意味に聞こえたのだけど?」

「さて、その名を聞いてどういう印象を持つかは、その人次第でしょう」


 確かに、神父様の言う通りその名前から行けば、可愛らしいとも取れるし、何もしゃべらないとも取れるし、操り人形ともとれます。


「民からすれば、聖華会の予定を引き伸ばして、奇蹟の力を使っていく聖女に抱く印象は、まさに聖女というものでしょう。頑張ればお借りた護衛を返しに、またこちらに寄ることになるでしょうね」

「神父様! 三日でも一週間でも頑張れます!」

「お前、濁されたと気づいたほうがいいぞ」


 アーク。モフモフパラダイスが堪能できるか、できないかの差は大きいということです。

 気合が入るではないですか。


「おい、オリヴィアに大事なことを伝えていないだろう」

「何がですか?」

「こいつは理解していなくても、俺には教えろ。聖女を狙っているのは本当にベステイル法国なのか?」


 え?法国が聖女を狙っているのは昔からですよね?何故かは知りませんが。


「それは本当のことですよ」

「だったら、何故聖女の無事を国に伝えない。俺を侮るなよ。」


 聖女の無事? 私が攫われたままになっているということですか?


「そうですね。ハイエント聖王国では教会の権力は国王と同等です」

「え? 神父様が国を牛耳っているってこと!」


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