第14話 陽キャと陰キャ

 翌朝、校門へと続く坂道を歩きながら、僕は手帳の隅に挟んだメモを頭の中で反芻していた。


 相田芽衣。A組からB組に落ちた唯一の女子生徒。


 ・引っ込み思案でコミュニケーション能力は低い。

 ・端島澪と関わりがある友人関係だった。


 今のところ、確度の高い手がかりはそれだけだ。


 噂を辿るためにも、彼女に話を聞く必要がある。だが、慎重にやらなければならない。相手は人と話すことに慣れていない。


 下手に踏み込めば、それだけで口を閉ざされてしまう。


 そんなことを考えていた矢先だった。


 昇降口に向かう途中、通学路の一角で相田芽衣の姿を見つけた。


 彼女を見るのは二度目なので、正確に彼女だとはわからない。だが、僕の記憶が確かなら間違いないはずだ。


 薄い青のヘアピンで前髪を留め、うつむき加減に歩いている。

 制服の裾を気にするように指先で何度も撫でていた。


 その隣にいたのは男子生徒がいて……御影一誠だった。


 奇妙な組み合わせに僕は立ち止まって、凝視してしまう。


 御影は整った顔立ちに、無駄のない動きで相田芽衣に微笑んで話しかけていた。


 周囲の生徒から声をかけられて挨拶をするたびに、彼が人気者であることは理解できる。だが、その隣にいる相田のことを誰も見ていない。


 御影一誠は生徒会に属していて、2年A組の次席として目立つ存在だ。


 あまりにも対照的な二人が、並んで歩いている。


 御影の歩調は明らかに相田芽衣に合わせられている。


 あの二人はどういう関係なのだろうか? 元クラスメイトという繋がりは理解できる。そして、どちらも端島澪の友人や知り合いであること。


「やぁ、トウマ」


 横から唐突にかけられて振り返ると、京本正木がいた。ネクタイをゆるく締めたまま、どこか飄々とした笑みを浮かべて立っている。


 正木は二年C組だったはずだ。


 どのグループにも属さず、いつもどこか達観した態度を崩さない。


「……正木か、友人たちは良いのか?」

「うん。トウマの姿が見えたから、それで? 御影さんと相田さんを見てたの?」

「ああ、ちょっとな。あの二人ってどういう関係なんだ?」

「僕は詳しく知らないよ。だけど、昨年は同じクラスだったんじゃないかな? 多分、その時に仲良くなったんでしょ」


 肩をすくめるようにして、正木が視線を相田芽衣のほうへ投げる。


「トウマに、また御影君に喧嘩を売るの?」

「僕は喧嘩を売ったことはないぞ」

「はいはい。そうだね。それで? なんで見ているのさ」


 僕が御影一誠と相田芽衣を見ていたことは事実で、正木に誤魔化す必要もない。


「意外な組み合わせだって思ったからだよ」

「意外?」

「ああ、御影一誠は、生徒会として成績も端島澪に続く二番手。顔も良くて人当たりも良い。それに対して、相田芽衣は成績が落ちてA組からB組に落ちて、引っ込み思案でコミュニケーション能力も低い。俗にいう御影が陽キャラなら、相田は陰キャラだろ?」


 僕の言葉に正木は呆れたようにため息を吐いた。


「現実で陽キャラとか陰キャラとか分類するトウマが変わり者なのは認めるけど、実際に話してみないと、御影君の良さも、相田さんのこともわからないんじゃない?」


 爺さんの言葉が正木の言葉に重なる。


「第一印象で全てを決めるか」

「そうだよ。人はトウマが思っているよりも単純じゃない。僕らが知らない一面を持っていて、それぞれが違う事情を抱えているのかもしれないよ」

「違う一面?」

「ああ、たとえば、あの二人が幼馴染とか?」


 幼馴染という言葉に、綾瀬エミリの顔が浮かんでくる。


 この場で言うなら、エミリも陽キャラだ。そして、俺は陰キャラになるのだろう。それを御影と相田に当てはめれば、確かに違和感はない。


「幼馴染なのか?」

「いや、違うと思うけど」


 正木にジト目を向けるが、正木は全く気にしていない。


「だって、二人のことを詳しくないけど、そんな話を聞いたことがないからね」

「そうか、まぁ確かに仮説だな」

「そうだよ。それに趣味が合うとか、馬が合うのにキャラなんて関係ないでしょ?」

「言われてみればそうだ。僕と正木が一緒にいることも不思議だからな」

「はは、トウマのことが面白いから一緒にいるんだよ」


 そう言うと正木は肩を組んで昇降口に向けて歩き出す。


 相田芽衣と御影一誠の関係。


 それが、今の状況とどう結びつくのか?


 相田芽衣との距離は慎重に進めるべきだ。接触のタイミングは、今じゃない。


 僕はやると決めたなら徹底的に責める。今、それを行えば、御影が邪魔してくるように思えた。


 僕は校門を通りながら、心の中でそう結論づけた。


「ねぇ、何か事件を追いかけているなら、手伝うけど?」

「お前は友人でいてくれるだけでいいさ。こうして頭の整理にも役立ってくれている」

「はは、そうなのかな? でも、トウマを心配しているからね。無理しちゃダメだよ」


 校舎に入ると、それぞれの教室に向かって棟が違うので、歩き出す。


 相変わらず正木には良いやつだ。

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