僕が知りたいのは事件の真相であって、君の気持ちじゃない

イコ

第1話 涙の出会い

 僕の祖父は、ちょっと変わった職業をしていた。


 私立探偵だ。


 爺さんの時代では、多くいたそうだが、現代では流行らない職業だと僕は思う。


 自称「平成の名探偵は俺だ!」とお酒を飲むたびに言っていた。


 いや、平成に名探偵って本当にいたのか? 


 シャーロック・ホームズや金田一耕助なら聞いたことはある。けれど、どちらも本の中の人物だ。実在していたかどうかも怪しい。


 メガネをかけた少年探偵といわれる、死神ぐらいしか僕の小さな脳内では思いつかない。


 ドイル先生の作品は好きだし、横溝正史先生も大好きだ。青山先生の漫画は僕のバイブルと言ってもいい。


 ただ、僕にとっての探偵は、いつだって祖父だった。


「令和の名探偵になれ」


 それが、祖父から僕に託された願いであり、命令だった。


 もちろん、成れと言われて簡単になれるものではない。


 ただ、少しだけ人よりも観察する癖がついたのと、違和感に気づくことができるようになった。


 親友からは「お前はなんでそんなこと気づくんだ?」と言われる程度には観察眼に自信がある。


 何よりも自他ともに認める好奇心の塊だと思う。


 だから、気になったことにはすぐ首を突っ込む。


 それは完全に祖父譲りの性格と言えるだろう。


 おかげで、女子にはまったくモテない。女子から鬱陶しい存在だと思われてしまうのだろう。


 十七年間、彼女なしという不名誉な称号を、親友の京本正木からありがたくも押しつけられている。けれど、恋愛に興味があるかといえば、そうでもない。


 確かに好奇の対象ではあるが、女心は難しい。

 未解決事件の方が、まだマシだ。


 謎には一つの答えがある。


 だが、恋愛は解けたと思ってもすぐに別の難問が突きつけられて、僕の観察眼でも全てを見通せないアンノウン。


 答え不明だとしか思えない。


 そんな僕にも、祖父からもう一つ叩き込まれたことがある。


「女を泣かせる男はクソだ。泣いてる女がいれば、絶対に助けろ。燈真トウマ! これは鏡原カガミハラ家の家訓だと思え!」


 名探偵になることと、女性を助ける。


 この二つの教えは、耳にタコができるほど聞かされてきた。


 そして、今。


 目の前で泣いている女子がいる。


 僕は彼女のことを知っている。


 学年トップの優等生、綺麗な黒髪ロングにスタイルが良く。凛とした雰囲気は、他者を寄せ付けない孤高の女神なんて二つ名がついている人物だ。


 端島澪ハシマミオ、十七歳。


 彼女は幻燈高校ゲントウコウコウでは、知らぬ者はいない。

 文武両道な優等生、そして何よりも美人なのだから、有名にもなるだろう。


 さて、話を戻すが、昼休みの隠れた僕のランチスポットである校舎裏に、彼女がいて……僕がどう動くべきかを迷っていると、彼女の目から一滴の涙が落ちた。


 そうなると、話は別だ。


「ハンカチ、どうぞ」

「えっ?」


 彼女は意味が分からないという顔で僕を見た。仕方なく、僕はハンカチで彼女の頬に伝う涙を拭ってやる。


「何をするの?」

「泣いているよ」

「えっ?」


 キザなことをしてしまったと思うが、自分が泣いていたことにすら気づいていなかったようだ。


 驚いた顔をして、涙で濡れたハンカチを受け取ってくれた。


 泣いている女性がいる。声をかけて助けるのが、鏡原家の流儀だ。


 それが僕という人間の行動原理にも繋がっている。


「まずは、君の名前を教えてもらってもいいか? おっとその前に、僕の名前は鏡原燈真カガミハラトウマ。一般科、2年D組だ」

「私は端島澪ハシマミオ、進学科2年A組です」


 相手が有名人であろうと質問を投げかける。


 こちらが勝手に知っているなど、話しかけられる方にとっては気持ち悪いだろうからね。


「うむ。やはり学園の孤高の女神か、僕のことはカガミハラでも、トウマでもどちらでも構わない」

「孤高の女神?」


 どうやら自分の二つ名も知らないようだ。


「不快だったならすまない。では、端島君でいいか? 僕のことは好きに呼んでくれ」

 

 彼女の瞳は迷いなく、受け答えはハッキリしている。

 心は、まだ保たれているようだ。


 精神的に追い込まれた人間は、何をしでかすのかわからない。彼女からは、そのような兆候は見られない。


「そっ、そんなにじっと人の顔を見ないでください!」


 どうやら悪い癖が出ていたようだ。


 不躾に女性の顔をマジマジと見てしまった。


 これだから僕はモテないのだと、マサキにいつも怒られる。


「ああ、すまない。これは癖のようなものなんだ。それにしても端島君は、綺麗な顔をしているのだな」

「なっ! あなたはからかうために、声をかけてきたのですか?」


 彼女が怒って、僕を睨みつける。


 ふむ。どうやら容姿が美しくて、声をかけられることが多いのだろう。


「残念ながら、君が絶世の美女だから、声をかけたわけじゃない。泣いている女性がいたからハンカチを差し出しただけだ。不快な思いをさせたなら謝るよ」

「絶世の美女?!」


 僕は正直に事実を伝えて謝罪をした。


「いえ……こちらも勘違いしてしまってごめんなさい」


 気まずそうに顔を向けながら、涙を拭う彼女は、真面目な人間なのだろう。


「いや、人の容姿を褒めるのも気にしていることなら、こちらが悪い。申し訳ない」

「そういう意味ではないのですが……わかりました。謝罪を受け入れます、もうこの話はやめましょう」

「ああ、ありがとう」


 さて、改めて話ができるわけだが、僕にとって容姿などどうでもいいことだ。


「さて、君の問題を解決しようか?」

「問題の解決?」

「ああ、困っているのだろ? まずは僕に話してみないか? よく言うだろ? 人に話すだけで、その人の問題の九割は解決してしまうと」

「本当にそんなことで解決できれば、どれだけ楽でしょう……」


 怒っていた女の子が、今度は奥歯を噛み締め、自らの体を抱きしめるように腕で体をギュッと握る。


 それは己の心を守ろうとする。心理行動だ。


 彼女は確実に何かを隠していて、己を守ろうとしていた。


 ここで彼女のことをズケズケと言い当てたところで、相手は有名人だ。知っていて当たり前か、もしくはストーカー認定されてしまう恐れがある。


「それも話してみないとわからないさ。僕に話してごらん。君の抱える事件を!」

「事件?」


 彼女が首を傾げる。


 ついつい僕にとって事件という言葉が日常的なために使ってしまっているが、普通は事件などという言葉は使わないな。


「そうだ。他の誰かにとっては大したことない事件であっても、当事者である君にとっては大きな事件だと僕は思う。どうかな?」

「あなたには関係ないですよね?」

「いいや、すでに関係があるんだよ」

「どういうことですか?」


 君が僕の前で泣いていた。僕が動くには十分な理由なんだ。


「僕は探偵だからね!」

「探偵?」

「ああ、探偵が事件に遭遇してしまった。だから、すでに僕も関係者だ」


 彼女は驚いた顔をして、固まってしまう。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 学園ミステリー初参戦です。


 誤字脱字を極力少なくミステリーは書きたいと思っています。


 しっかりとチェックして書いていくので、更新は不定期です!


 応援いただければ幸いです。


 一つの事件の終わりまでは、今回はプロットを組みました。

 そこまでは必ず投稿をしていきます!


 どうぞよろしくお願いします。


 

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