チョーカー・チョーカー

ざんじ

第1話「白いチョーカー」





「ソレルさん、このッ、コロッセオに、ハァ、チョーク症に罹った人間がいるんですね?」


 十数分前に来た急な任務の連絡のため、目的地に向かって全力疾走した俺は、絶賛息切れ中である。


 二十代も後半で、日頃からさほど動く方でもないのに「ティーン向けの任務を寄越してくるなよ」と、誰かに当たりたい気分になってくる。


 目の前には、この国でも有数の巨大なコロッセオ。

 人通りも多いが、ほとんどが会場から出てくる者ばかりだ。丁度、試合が終わったところだろうか。


 人をそこここに観察していると、40代くらいの男の声が、低く無線から聞こえた。


「うーん。そうだと思うんだけどねぇ」


 おそらくこちらの疲労も知りつつも、飄々と無視してくる様子に危うく舌打ちしそうになり、唇を噛んで止めた。


「……曖昧な返事ですね隊長。このコロッセオに、全戦全勝、人間離れした力を持つ剣闘士がいるって情報なんだろ?異常な身体能力は、チョーク症を患った、いわゆる『チョーカー』の特徴だ」


 男は、息の上がった体を落ち着かせるように、深くため息を吐いた後「あなたも知っている通りな」と言葉を付け足した。


 それに、無線越しの声は余裕そうに笑う。


「ははは、急に任務を頼んだからって、皮肉を言うなよラバン。もうちっと体力つけようなあ」


 ソレルは、ラバンの所属している対チョーカー組織の設立者だ。


 路頭に迷っていた俺を拾ってくれた恩のある人だが、現在脳裏には、ソレルの人をからかうようなにやけ面が浮かび、イラっとした。


 それでも上司は上司であるし、任務は任務だ。俺の目的のためにも、話は聞く必要がある。


「まぁ、確かに聞く限り、能力はチョーカーのそれさ。だが、肝心な黒い痣の情報が一切ないんだ。これは一体どういうことだ」


 この上司には珍しく、怪訝な声を出して聞く。


「飢餓または、興奮状態の姿を誰にも見られていないとか」

「殺し合いをする場所だぜ?血も流れりゃ、気も高まるはずさ」


 それに合わせて周囲を見る。先ほどから歩いている人々や、聞こえる声はまさに、興奮冷めやらぬといった具合だ。


 こんな中、剣闘士だけが冷静でいられるわけもない。


「首に装飾品を……」

「そんな話もないねぇ」

「…………」


 確かに、これは奇妙な話だ。


 チョーカーなら、耐えられないほどの食人欲つまり飢餓状態であるか、または、著しい興奮状態にあれば必ず、首に黒い痣が表面化する。


 それだってさほど小さくない。まるで首輪のような、首を一周する特徴的な痣だ。気づかないはずもなし。


 チョーク症の進行がまだ極軽度で済んでいるならあるいは。軽度であれば、痣は薄い。

 一方で、くっきりとさらに、常に痣が顕在化しているチョーカーは、『重度』と呼ばれ、任務にも危険が伴う。


 ……やはり、軽度のチョーカーが、噂になるほど超人的な身体能力を手に入れているとは考えにくいが。


「てわけだから、それも含めて調査任務よろしく。いつも通り、重度じゃなければ保護も視野にね。落ち着いたら連絡してくれ」

「了解」


 なんにせよ、入ってみろということか。


 ソレルの言葉に端的に返し、無線を切った。


 コロッセオからの熱気が、短く整えている黒い髪を攫って行く。大きな建物を見上げるついでに、空を見ると、太陽は真上に陣取っていた。


 任務が終了するころには夕方だろうか。



◎◎◎



 予想通り、中は外よりも賑やかだ。


 またすぐに試合が始まるのだろうか、歓声や怒号がぼんやりと聞こえる。賭け事も果敢に行われているようだ。


「どこから調査したものか」


 とりあえず聞き込みを開始しようとしたところで、奥がまた一層騒がしくなる。足音もどたどたと荒々しいが、何かあっただろうか。


 丁度、こちらへぶつかるように走ってきた男性を呼び止める。


「おい、そんなに慌ててどうした。あちらで何かあったのか?」


 そう聞くと、男性は恐怖と動揺で上手く口が回らないながらも、俺に答えた。


「と、闘技場で、猛獣が!次の試合のヤツが、急に暴れて逃げ出したって!」

「それは大変だ」

「それでッ、け、剣闘士もそこで戦ってて!ああ、逃げねぇと……ッ!!」


 その光景を思い出したのか、すぐさま去ろうとする足に、もう少し待ったをかけて問う。


「待て。剣闘士が場外で、その猛獣と戦ってるのか?」

「あああそうだよッ!もういいだろ、あんたも早く逃げろよ!あの剣闘士、強えけどイカれてんだ!周りのことまるで気にしちゃいねェ!あいつらが外に出たら大惨事だ!!」


 そうまくしたてるように言った後、男性は俺を振り切って外へ逃げていった。




 そろそろ中にいた人も逃げ切っただろうか。これでやっと思い通りに足を進められる。


 男性が言っていたイカれた剣闘士が、おそらく例のターゲットだろう。なんとか接触できないだろうか。


 先ほどから、『どん』だの『がん』だのと、激しい戦闘音が聞こえてきている。

 俺は、愛用のリボルバーを手に、音の方へ近づいていった。


「チョーカー特有の並外れた身体能力を持つが、一方で痣の報告がない。ソレルの情報に間違いはないはずだが、一体————は?」


 その時、何かが真横を凄まじいスピードで通り抜けていった。


 直後、『どうん』という鈍い衝突音と共に床が揺れた。

 一泊遅れて振り向くと、そこには人一人簡単に飲み込めそうなほどの、巨体が、壁に埋まっていた。


「な……猛獣……?」


 その衝撃に思わず漏れた言葉は、この広い空間で誰にも拾われないと思われた。


 しかし、



「———人、まだ、いた?」



 声のした方へ即座に向くと、そこには一人の男が立っていた。


 隈の染みついたぎょろりと大きな色素の薄い黄色い目。痩せたがさがさの肌。肩ほどまで伸びたぼさぼさの髪は土埃がついていて灰色だ。


 おそらく俺よりも少し高い身長を猫背で台無しにしたその姿は、その体躯に合わず幼げなのが印象的である。


 そしてなにより、



「『白い』痣…………?」



 首には、一周するような痣が、白く落ち着いて鎮座していた。



◎◎◎



「ん?あ、怪我、ある?」


 男は俺の言葉に、きょとんとした顔を見せた後、こちらを適当に見て言った。


 それは、本当に体を心配している風では全くなく、今思いついたというような口ぶりだ。


「……ないさ。あれはお前がやったのか」


 男は、それに素直に頷く。


 これは、思わず本人に接触できたということだろう。

 相手は落ち着いているように見える。少なくとも、こちらに敵意はない。

 何か、情報を引き出したい。


「オレ、戦う、する」

「あれはもう死んだのか?」

「多分?動く、しない。オレ、勝ち」


 ここは明らか戦闘して良い区間ではなさそうだが、コイツはそれを理解しているのか。どうも、たどたどしい口調に余計、頭を使う。


 痛くなってきた眉間に手を当てていると、男はいきなり踵を返した。


「勝つ、した、帰る」

「待て待て待て……って、力強すぎだろ!止まれオイ!」


 流石に、このチャンスを逃すわけにはいかず腕を掴むが、そのままずるずると引きずられる。


 くそ、今までぼーっとしていた様子だったのに、なぜこうも急に強引に。


「オイ、俺と話をしろ……ってお前……」


 コイツ、口からぼたぼたよだれを垂らしてやがる。

 男は絶句する俺を見て、ようやく止まったようだった。


「お腹、空く、した。手、放す」


 右手でお腹をさすりながら、俺が掴んでいる左手を見ている。


 腹が減った?

 チョーカーの特徴である飢餓が始まったのか。それにしては、俺を襲うそぶりはない。食人欲ではないのだろうか。ますます意味不明だ。


「……俺を、食えばいいだろう」


 そう鎌をかけるように言うと、男はそれこそ『すごく引きました』という顔をして俺を見つめた。

 その顔には無性に腹が立った。


「お前、人、食べる、する?おいしい……?」

「バカ言うな。俺が人を食べてるわけじゃねぇ。お前が食べねぇのかって聞いただけだ」

「人、食べる、ない!」


 ぶんぶんと男は首を振る。

 ついでに、ずり、と後ずさっているような音もするが気にしないことにした。


「分かった、悪かったって」

「ん。オレ、帰る」

「だから待て」


 そうだった。こいつ引き留めて隊長に報告しなければ。コイツの特異性につい調子を崩されちまう。


 どうあれ、こいつは保護対象……

 いや、待てコイツ、


「お前、その痣どうした」


 俺は首を指さして問うた。


「どう?」

「いつから付いてる?」


 男は、思い出すように首を傾げた後、


「あんまり、覚える、ない。けどここ、来た、あった」

「ここに来た時には既にあったってことか?ここにはいつ来た」


 男は首を横に振った。


「覚えてないか?質問を変える。その痣、常に首にあるのか」

「……ん!」


 それには、大きく頷く。ついでに、質問に答えられたことが嬉しいのか、にぱっと笑う。


 自分の体躯の何倍もある猛獣を軽々と吹っ飛ばす身体能力と、よだれを垂らすほどの空腹感。

 それに常時顕在化している痣。最後のは白く、例外といえばそうだが。


 特徴だけ見れば明らかに、重度のチョーカーと断定できる。

 そして、重度のチョーカーは、組織では『処分対象』だ。


 一方で、俺は初めて見た。重度のチョーカーが理性的に会話している姿をだ。チョーク症が進行すれば、抑えきれない飢餓感と食人欲により段々と理性が溶けていく。


 重度になると、ほとんど本能だけで動く獣のようになってしまう。

 万が一、誰かがチョーカーに教育を施していれば、簡単で明確な命令くらいは遂行できるかもしれないが、それも非常に稀な話だ。


 それを、こいつは。

 重度のチョーク症を完全に『コントロール』しているとでもいうのか。


 それが本当だとしたら、確実に俺の目的に一歩近づける存在になる。


 その身体能力がそばにあれば、非力な俺でも危険なチョーカー調査任務にも行ける。より多くのチョーカーと接触すれば、いつかあの人も見つけられるかもしれない。


 頭では分かっている。今すぐソレルに報告しなければ……


 しかし、そうなればコイツは処分されるかもしれない。もしソレルが許したとしても、組織内の全員が重度チョーカーを放っておくような甘い人間なはずはない。


 組織に報告したどの未来をとっても、コイツが俺の手から離れるのは目に見えている。



 ならば隠すしかない。俺のために、コイツを。



「俺と、来てくれないか。白いチョーカー」

「来る?白い?オレ、のこと?」



 いきなりの提案に、コイツの頭の上でクエスチョンマークが泳いでいる。


 ぼんやりとしたアホ面に拍車がかかって思わず笑ってしまったが、それにはむっとした表情をしている。


「ここに居る必要があるのか?親がここにいるのか」

「分かる、しない、どっちも」

「さっきも自分のことを覚えてないと言っていたな。何か事情があるのか」


 コイツは「じじょー」とただ真似て、黙った。


 これは、好都合だ。コロッセオの剣闘士は、奴隷も多い。コイツもその口だろう。


 ……正式な奴隷契約をしているのかは不明だが、譲渡の手続きは面倒だ。一方で、剣闘士という職はいつ死んでもおかしくない。それもまた承知しているはず。

 ならばどうするか。


「よし、今からお前には、死んでもらう」


 目の前の男は少し、緊張したように体をこわばらせるが、同時に俺に敵意がないことも理解しており、「おー?」と一人で混乱している。


「お前は、今、あの猛獣に食われた。いいな?」

「アレ、殺す、した。でもオレ、死ぬ?」


 薄々気づいていたが、コイツ言葉はたどたどしいが案外、人が何を言っているかは分かっているらしい。

 何も知らない幼児というわけではなさそうだ。


「今からそういう話にするってこと。お前をこのまま連れ去るために」

「オレ、お前と、ここ出る?みんな、怒る、しない?」

「怒られないように、偽装すんだよ。ついでに、お前は俺と来る以外に選択肢はない」


 今の俺に必要なものを、コイツは持っている。ここで腐らせてたまるか。


 俺の言葉を咀嚼しているのか、考えるように上を向いた後、ゆっくりと視線を合わせた。


「行く、したら……ご飯、食べる、できる?」

「簡単さ。できるよ」


 瞬間、口をよだれまみれにしながらパーッと顔を輝かせるコイツに、苦笑しながら答える。


 今のコイツの最も優先すべき事項は、やはり食なのだろう。


「オレ、行く、良い」

「もちろん。来てもらわないと困る」


 そうして俺たちは、契約を交わした。

 俺はコイツに食を与え、コイツは俺についてくる。なんてシンプルな利害の一致か。




 ひとまず、コイツの顔が下手に晒されないよう、俺が来ていた羽織をそのまま頭を覆うようにかぶせた。

 肌ざわりが気に入らなかったのか、不服そうな顔をされたが、無視した。


 外に出ると、思っていたよりも日は傾いていなかった。これから車に乗り、家に着く頃には丁度日が暮れるだろうと察せた。


 猛獣に食われたという話は、少しの小細工と風聞の力を使うことにする。


 コイツの足首に着けられていた、おそらく識別のためのドッグタグを適当に猛獣の口に突っ込み、あとは噂を流して終いだ。


 そもそも、コロッセオ自体、今回の騒動でかなり崩れているし、話さえ作ってしまえばあとは勝手に尾ひれがついて回っていくだろう。


 なぜ、一般的な首にドッグタグを付けていないのかと聞くと「首、いや」と端的に言われた。

 痣を隠すために包帯でもさせようかと考えていたが、それではまた嫌がられそうだ。こんな環境で生きてきた割には、一端に物の好き嫌いがあるらしい。


 さて、どうやって首を隠そう。

 そう考えながら、自身の愛車に乗り込んだ。



◎◎◎



 俺はハンドルを握りながら、そういえば、コイツの名前をまだ聞いていないことに気づく。


「お前、名前は?」


 速いスピードで流れる景色を珍しそうにぼーっと見ていた男が、こちらに視線を移す。


「名前、A7?」

「それは、コロッセオでの識別記号だろ」


 コロッセオでは、剣闘士や奴隷、獣が多くいる。その中で、A7という記号を与えられていたのだろう。


「そうじゃねぇ。親からもらった名前だ」

「親、覚える、ない。名前、も」

「思い出せ」


 その言葉に、最大限眉間にしわを寄せ、うなっている。


 生まれてすぐ奴隷の身にされたとあれば、名前など適当に与えられたかもしれないが、なんとなく、コイツはどこか人に愛されて育ってきた経験があるのではないかと思えた。


 それは、身体の暴力性に反し、幼い言動をするせいか。怒涛の展開にも、動じこそすれ、怯えた様子は見せないせいか。

 はっきりとは分からないが。



 しばらくして、車が美しい草原地帯を走っているとき、唐突に口を開いた。


「カミル!」

「あ?」

「思い、出す、した。カミル、言う、される!」


 カミル。それがこの男の名前か。


「いい名前だから大事にしろ」

「ん!」


 自力で思い出せたことが嬉しいのだろうか、窓の外の景色に依然として目を奪われながらも、時折自分の名前を口ずさんでいた。




「……おい、起きろ」

「んむア」


 着いた頃には、やはり、日が暮れる直前で、大きな夕日が煌々と燃えていた。


 隣で寝こけていたカミルを揺さぶる。


 まだコイツ、よだれを垂らしてやがる。腹の音がうるせぇから、俺のカロリーバーを与えたはずだ。それも何本も。


 やはり、食人欲ではないが飢餓感はちゃんとあるってことか。今日の夕飯、家にある食材で足りるかな。


「俺の家に着いた。降りろ」

「着く?寝る、してた?」

「もうぐっすりと。疲れてたのか?」


 カミルは目を雑にこすりながら、もぞもぞと体を動かす。


 助手席側に回り、俺がドアを開けてやる。

 すると、ようやく外へ顔を向けたカミルは、眠気なんてどこに行ったのかというように、目を丸丸と開け、眼前の風景を目に焼き付けた。


「あ、わ、おお!きれい、色!」


 夕日に照らされ、柔く赤に光っている芝生と丁寧に手入れされた花壇。右には、季節の野菜や果物を植えた温室もいくつかある。


 奥には雰囲気の良いレンガ造りの家があり、さらにそれへ向かうタイルの敷かれた美しい道が続いている。


「ようこそ、俺達の家へ」


 庭の手入れをしているのは俺ではないのだが、こうも素直に「感動している!」という顔をされると、つられて少し口角が上がった。

 カミルにも、この家を取り仕切っているもう一人の住人のことを紹介しないとな。


 カミルが車を降りると、さくっという新鮮な草が倒れた音がした。

 その感触に一々リアクションしているところ悪いが、カミルには早速やってもらわなけらばならないことがある。


「おいカミル、早く来い」

「えー」


 不服そうな顔をするカミルの額を、軽く指で叩く。


「後でいくらでも庭を歩かせてやるから。早く、風呂に入ってくれ」

「ふろ?」


 そう、風呂だ。今のカミルは、猛獣との戦闘や日頃の環境もあり、土も付いてりゃ髪もぼさぼさ。まるで俺が許容できる状態ではない。

 風呂の準備なら、言えば『彼女』がすぐにやってくれるだろう。


「まさか、風呂に入ったことがないなんて言わないよな?」

「ふろ、入る、ある。水、かける」

「……水じゃねぇ。分かった。風呂の仕方も頼んでおく」


 いまいち理解していない顔をしたカミルを、俺は引っ張って扉へ向かった。



 がらんという音を立てて扉を開ける。中も物は多いが綺麗にしているため、突然の来客にもまったく動じなくて大変良い。


 俺は、おそらくリビングで夕食の準備に取り掛かっているだろう『彼女』を呼んだ。


「レディベリー!こちらへ来てくれ」


 すると、とととっ、と軽い足音が聞こえ奥から女性がやってきた。


 今日は、その名の通りベリーの実でも『食べた』のだろうか。露出の低い品の良いドレスや、簪でまとめられた美しい髪は、淡い赤色をしていた。


 彼女は、俺の隣にいるカミルを少し見上げ、「まぁ?」と首を傾げた。


「俺が拾ってきた。今日からここに住む。説明は後にして、とりあえず風呂の準備をしてくれないか」

「まぁまぁ!」


 レディベリーは珍しい来客に気合が入っているようだ。


「風呂の入り方すら碌に知らない。なるべく怖がらせないように頼む。何かあれば呼べ。俺はリビングでソレルに報告をしているから」


 彼女は俺の言葉にすぐさま頷き、カミルの手を取って風呂場の方へ歩き始めた。


 カミルは早い展開に目を白黒とさせながら、レディベリーに引きずられていった。


 一応、カミルに聞こえるように、レディベリーに害はないことを伝えたが、耳に届いたかは不明だ。




 しばらく、風呂場から「あ!」だの「お!」だのカミルの声が聞こえていたが、今は落ち着いている。

 レディベリーも、こちらに来る様子はない。


 随分遅くなってしまったが今のうちに、ソレルに連絡をしておこう。

 付けっぱなしにしていた無線にスイッチを入れる。


「隊長、ラバンです。今報告よろしいですか」


 そう呼びかけると、昼間と変わらない声が聞こえてきた。


「ああ、ラバン。遅かったねぇ?何かあったでしょ」

「……それなりに」


 不安な始まりだなクソ。

 今から俺は、この人に対しカミルのことを、嘘で誤魔化さなければならない。勘が鋭く、頭も回るソレルにどこまで通じるかは分からないが。


「結論として、件のチョーカー疑惑の人間は、見つかりませんでした」

「おや、それは残念」

「順を追って説明を」


 俺は机にあったペンをさらりと取り、手を慰めるように回し始める。


「コロッセオに入場した際、試合前に暴れ逃れた猛獣と、剣闘士が戦闘しているという情報を得、調査に当たりました。しかし、私が発見したころには戦闘は終了していました」


 ソレルは、口を挟まず黙って聞いている。


「猛獣は倒れ、その口には多量の血痕と剣闘士のドッグタグがありました。つまり」

「予期せぬ戦闘の末、件の剣闘士は猛獣に食われたと?」

「はい」


 嘘なんて吐き慣れている。今更声が震えるなんてことはないが、ソレルに向かって吐いたことはあまり無い。

 手元が狂い、回していたペンを机にからりと落とす。


 無線から、ため息が聞こえた。


「はぁ、そうか。遅かったか。仕方ないね」

「…………」


 本当に残念そうに話すソレル。ひとまず納得してくれた様子だ。俺は薄く息を吐いた。

 まだ、話すことはある。


「それと、戦闘に巻き込まれたであろう青年を一人保護しました。怪我をしており、また、身寄りもないとこのことで、俺の家へ」

「ええ、お前がそんなことをするなんて珍しいね。どういう風の吹き回しかな?」


 確かに、俺が人を保護するなんて今までしたことないが……それにしても、『そんな優しさを持っていたのか』などと言ってきそうな声はどういうことだろう。


「吹き回しも何も。ただ、最近俺も、体力勝負の任務に自信が無くなってきたので、都合の良い小間使いが欲しいなと思っていただけだ」

「はは!正直でいいね!しかし、というと任務に同行させると?その青年はチョーカーのことを知っているのか?」


 ソレルのニヤついた顔が思い浮かぶ。事実もそう変わらないだろう。


「今から教育する。先に言っておくが、同意は得ています」

「……お前がそこまで情を与える存在なんだね。分かった。それに関して僕は何も言わないよ」


 ソレルが指揮しているこの組織も、身寄りがなく誰かに拾われ、そのままメンバーになった奴がいる。


 そもそも、チョーカー自体そう頻繁にみられるものでもないため、普通に生きていれば組織の存在すら知られない。メンバーがほとんど紹介制であるのはそれが理由だ。


 今更、誰が誰を拾ってきたところで口出すことでもないのだろう。今はそれが功を奏したようだった。


「急がないけど、いずれその子と一緒にこちらへ顔を出しにおいで。任務に当たるなら、他のメンバーとも交流があった方が良いだろ?」

「了解。報告は以上だ」

「ああ、お疲れ様。その彼と仲良くねぇ」


 そう言うと、ぷつりと無線が切れた。耳からそれを外し、机に置く。


 はぁ、疲れた。くそ、バレてないといいが


 柄にもなく、座っていたソファに深く沈みこみ、目を隠すように腕を額へ当てた。



◎◎◎



 そろそろ、カミルが風呂から上がるころではないだろうか。そう思ったところで、風呂場からどたどたとこちらへ走ってくる音が聞こえた。


「カミル。上がったか……ハァ」


 そう、リビングの扉へ目を向けると、そこにはタオルを一枚腰に巻いただけの男が立っていた。

 髪からは、ぽたぽたと水滴が落ちている。これ、廊下大丈夫か。


「まず体を拭いてこい」

「あ!忘れる、した!」

「待て、動くな!また水が垂れる!」


 そのままの体で、風呂場へ去っていこうとするカミルを止める。丁度、レディベリーが、タオルを持って慌てたように走ってきた。


 体を拭こうとしたら、カミルが勝手に飛び出したのだろう。かろうじて腰にタオルは巻けたというところか。


 レディベリーと目線を合わせ、二人で頭を悩ませた。当の本人は楽しそうにしているのが、また何とも言えない。


「レディベリー、頼む」

「まぁまぁ……」


 レディベリーが若干眉を下げながら、その場で留まっているカミルの体を優しく拭いていく。


 風呂で良く体を洗い流してきたのだろう。カミル本来の色味が晒され、素直に驚いた。特に汚れの付いていた髪がきれいに現れ、緩く癖のある毛がさらりと揺れている。


「お前、そんな髪色だったんだな。白く光を反射している」

「ん!」


 カミルは久しぶりにさっぱりして、やはり機嫌が良いようだ。隈の消えない瞼が、惜しげもなく弧を描いている。見違えた姿にレディベリーも嬉しそうだ。


「服を着たら飯にするぞ」

「ごはん!」

「レディベリー、夕食の支度は俺も手伝う。とにかく今日は量を用意したい。カミルがどれだけ食うか分からない」


 レディベリーは手を止めずに、こくりと頷いた。


 カミルがまたよだれで体を汚さない内に、さっさと食事に取り掛かろうと、俺はキッチンへ向かった。



◎◎◎



「お前、まだ食うのか」

「まだ、お腹、へる!」

「マジかよ」


 レディベリーと1時間かけて十数品を作り上げた。


 調理中、段々と大きくなるカミルの腹の音は、BGMにするには少々耳障りだったが、「まだ?いい?」と鼻をすすりながら聞いてくる様子に同情し、外へ放り出すことはしなかった。


 それにしても、そのぺらぺらな腹のどこに入ってるのかと思うくらいには食べている。

 残れば明日に回そうかという量はあったが、この調子であれば平らげてしまいそうだ。


 コロッセオでは、ここまでの食事を出されたことはないのだろう。カミルのカトラリーを握る手は止まらない。


「いっぱい、おいしい!初めて!もっと!」

「口に入れたまま話すな。料理は逃げない。俺ももう腹は満たされてるから、あとは全部お前のだ。落ち着いて食えないのか」

「ん!」


 矢継ぎ早に述べた俺の話を聞いているのかいないのか。口に入れるスピードは収まらないが、飲み込んでいないのに話すのは止めたようだ。


 またしばらく腹を満たすことに集中していたカミルは、ふとレディベリーの方を見て怪訝な顔をした。

 彼女は夕食が始まってから、気持ちよく食べるカミルの方をにこにこと観察しているだけで、食事に手は一切つけていなかった。


「レディ、腹、へる、しない?」


 と、どこか気の毒そうにしている。丁度良い。ここでお互い紹介しておこう。

 そして、チョーカーという生き物についても。


「レディベリーは、俺達みたいな食事はしない」

「なんで?」

「人間じゃないからだ」


 それを聞いて、カミルはようやっとフォークを止めた。


「人間、ない……レディ、なに?」

「簡単に言えば、木でできたドールさ」

「ドール?」


 カミルは、彼女の顔をまじまじと見ている。


 レディベリーは、ずっと昔、古い樹木に作られた人形だ。

 詳しく言えば、その樹木にとりついた木霊だが、長く行き過ぎてもはや、ただの精霊で収まるような存在ではなかったという。


「レディベリーは、何日かに一度、新鮮な草花や実、種を摂取する。そんで、摂取したモノによって、見た目がほどほどに変わる」

「今、赤い!」

「そうだ。レディベリー、今日は赤いベリーを食べたのか?」


 そう聞くと、レディベリーは「正解!」とでも言いたいように、大きく頷いた。

 納得した様子のカミルが、徐に食事を再開しながらまた問う。


「人間ちがう、いっぱい、いる?オレ、知る、初めて」

「早々いないさ。普通に生きてりゃ、会うことなんてない」


 これは長い話になりそうだと、レディベリーに2人分紅茶を入れるように頼んだ。彼女は一つ頷いてキッチンへ向かった。


「この世界の大部分を占めているのはもちろん人間だ。しかし、この星では『それ以外』も存在する」

「レディベリー!」

「ああ、彼女や彼女を作った精霊、他にもまるで物語に出てくるような奴もいるらしいな」


 レディベリーが、紅茶のポットとカップ、それとジャムクッキーも追加で持ってくる。

 それを見て、またカミルは目を輝かせた。


「さっきも言ったように、基本会えない見えない。それが常識だ。何がどれだけいるのか、俺もよくは知らん。誰も彼も、会えるままに、会うだけさ」

「んー」

「全部を一遍に理解する必要はねぇ。彼らにもそれぞれ個性があるしなぁ。知ってるやつだけ気に掛ければいい」


 レディベリーで言えば、人の世話を焼くことが趣味だ。あと、庭の手入れや家事全般。

 彼女はソレルの伝手で紹介されたが、関係は良好だ。綺麗好きな俺にとっては、願ってもない人材とも言える。


「レディベリーのような、俺達が時たま『隣人』と呼ぶ存在は、全部が友好的とは限らない。万が一見つけても無暗に関わらないことだ」

「わかる!する!」

「本当かよ」


 口の周りをソースでべたべたにしたまま返事をするカミルに、またぞろ心配になってくる。

 レディベリーが、未だににこにこしながら、布巾でカミルの口周りを拭いた。


「そんで、お前の話だ。カミル」

「ん、オレ?」

「お前は、十中八九『チョーカー』だ」


 昼間も聞いた単語だからだろう。カミルは目を数度瞬いて、俺の方をじっと見た。


「チョーカー、なに?」

「今から説明する。食べながらでいいから、真面目に聞いておけ」


 俺は、レディベリーが淹れた紅茶を一口飲んだ。



◎◎◎



 チョーカーとは、チョーク症に罹った人間のことを指す。

 その特徴は、食人欲の伴う飢餓感や、高い身体能力、そして首を一周するような黒い痣が挙げられる。


 特に痣は、分かりやすい指標であるが、重度チョーカーでもない限り、飢餓や著しい興奮時にしか表面化しない。


 そして重度チョーカーというのはそのまま、チョーク症が極めて進行したチョーカーのことだ。



 チョーカーは、チョーク症の進行度によって、軽度から重度に分けられる。


 発症したての軽度であれば、飢餓感も薄く、体も常人より丈夫というくらいだ。痣も、シンプルな線がうっすらと現れるのみだ。


 中度になると、食人欲が増大する。

 高い身体能力を使い、人を襲うこともある。痣も条件下でくっきりと現れ、その模様も個性が出るようになる。

 波打ったり、2本に増えたりと様々だ。


 そして、重度になると完全に理性が本能に成り代わる。

 耐えられない飢餓感と凶暴性に苛まれるが、超人的な身体能力を得る。痣も常に顕在化し、中度より個性的な模様になる。

 首全体に痣が広がったり、ネックレスのように複雑なデザインになったりと多様だ。



 ひとまずここまでを話し、また一口紅茶を飲んだ。

 カミルは、依然として食事を続けているが、もうそろそろ満足してきたのか、食べるスピードは落ちてきている。

 目はこちらを捉えているので、聞いてはいるのだろう。


「カミル、ここで問題だ。お前が特異である点は何だ」


 カミルは、口をもごもごと動かした後、眉間にこれでもかという皺を刻んだ。

 俺はヒントを出すように、自分の首元を指さした。


「お!オレ、白!」

「正解」

「おー!」


 褒美にカミルの皿へ、クッキーを一枚添えてやった。

 レディベリーも、小さく拍手をしている。


「そう、お前のその白い痣……と、もう一つ。欠如した食人欲もそうだ」

「人、食べる、ない!」

「分かってる。だが、チョーカーとしてそれは異常だ」


 ぶんぶんぶんと横に頭を振り回したカミルを慰めつつ言う。

 例外が2つもある重度チョーカー。よくよく考えてもコイツは原因不明の変異体チョーカーと言える。

 だから、今ここにいるわけだが。


「お前のそれが、ただの個性で済ませられるものなのか。それとも何か理由があるのか。今は分からない」

「オレ、変?ダメ?」

「いや、今は好ましいものさ。少なくとも俺にとっては」


 カミルは「このましー?」と復唱しながら、置いてやったクッキーを口に含んだ。

 もう少し、話は続く。

 俺は足を組み替え、その膝に組んだ両手をゆったりと置いた。



 …………チョーク症は、およそ25年前、発祥地不明で流行した。流行と言えど、20年近くほとんど都市伝説扱いの代物だった。

 それが、つい5年ほど前から急激に発症者が増えた。それも、中度から重度の者。


 ソレルや組織の科学者連中が、チョーク症の発生や増加の原因を探ってはいるが、分かっていないことの方が多い現状だ。

 そのため、増加し暴れるチョーカーを対処するために、俺ら調査戦闘員が日々、任務に駆り出されている。


 俺は、体力のない三十路なだけに専ら調査に行かされることが多かったが、それでも愛銃を片手に戦闘をすることもある。


 そして組織の方針として、一つにチョーカーの保護が挙げられる。

 まだ試作段階ではあるが、食人欲や飢餓を抑える、抑制剤が開発されているためだ。


 まだ人を襲っていない軽度や中度であれば、組織で保護される。資金も限られている今、豪勢に手厚くとはいかないが、できるだけ不自由はさせないようにしている。


 ただ、あくまで抑制剤であるために、完全な治療には至れない。保護下にあれど、飢餓やチョーカーの本能に苦しめられている人は多い。

 …………その、完全な治療薬開発が組織の目標の一つ。未だ、手がかりすら思うように掴めていないがな。


「ああ、それと。忘れてた。もう一つチョーカーの特徴と言えるものがある」

「体つよい、お腹すく、首のあざ……と、4つ、め?」


 カミルの食事がようやく落ち着いたのか、片手で指折り数えながら、もう片方で紅茶を飲んだ。


「ああ。重大だが、なかなか気づきにくい特徴……」


 俺はそのカミルの仕草を注意深く見た後、告げた。



「—————不老だ」



 目の前で、「ふろー」と小さく呟いたのが聞こえた。


「身体的な成長が、チョーク症の進行によって、徐々に止まっていくってこった」

「しぬ、しない?」

「いや、不死になるわけじゃない。心臓を刺せば当然死ぬだろうよ」


 自分の心臓を刺して言うと、カミルも同じように心臓へ手を当てた。


「でも、衰えないってのは厄介だ。重度になれば、完全に成長も止まる。老人や体の弱いチョーカーならまだしも、若い人間がそうなれば、その身体能力も相まって、捕縛すら困難になる」

「ずっと、つよい、まま?」

「そういうこと。そんで、お前もそうなっている可能性がある」


 例に沿えば、カミルの成長はすでに止まっているだろうが、果たしてそうだろうか。

 不老であるかを確かめるには、コイツがいつチョーカーになったのか、いつ重度まで進行したのかを知らなければならない。


 だが、記憶や自身のこともままならないコイツには、まだ難しい。

 コイツの特異性を図るためにも、コイツには早急に記憶を明らかにしてもらわなければならない。


「オレ、ずっと、このまま?」

「さぁな。ただそういう可能性があるってだけだ」

「おー……」


 レディベリーがそこで、ひと段落着いたのだろうと席を立ち、テーブルの皿を片付けキッチンへ持っていく。

 カミルは腹を満たせたのに加え、長話を聞き慣れない思考をしたことで、少しぼーっとしているようだ。

 いや、眠たいだけかコレ。


「とまぁ、とりあえずチョーカーの説明は、今はこんなところだろ」

「んー」

「まだ起きてろよ。最後にこれからのことを話す」


 「眠気覚まし」と言いたげに、戻って来たレディベリーがカミルに冷たい林檎ジュースを渡した。


「お前が、これからするのは2つ。俺の任務を手伝うこと。そして、お前の記憶を少しでも取り戻すこと」

「ラバン、ついてく、分かる。でも、記憶?」

「お前は、知らなきゃならんことを忘れている。何が原因かは知らないが、これからはそうはいかない」


 今までのことを思い出しているのか、カミルは上を向いて目をきょろきょろとさせている。


「辛いことを無理やり思い出せとは言わん。が、お前に関して言えば、思い出すのもイヤな記憶ばかりでないと思う。現に、名前は思い出せただろ。嬉しそうに」

「ん!」

「なら、思い出せないわけでも、全てを思い出したくないわけでもない」


 今度は、こくりこくりと頷いている。


「お前のことを知る。俺の目的のためにも」


 俺がコイツを上手く使えるように。カミルの特異性を解明する。


「ん?目的?」


 カミルが首を傾けこちらを見る。それに俺は、少し悩んだ後、言葉をこぼした。


「……人を探している。おそらくチョーカーだ」

「だれ?」


 その純粋な疑問に、今度こそ言葉が詰まった。


 俺は、コイツと違って、忘れたくても忘れられない記憶を背負って今まで生きてきた。目を閉じればすぐにでも思い出せるような、どかせない頭の重し。

 …………今思うと、俺はカミルとは正反対の人間なのかもしれない。


「———は……母親、だ」

「おかーさん、チョーカー?」

「お前……ずけずけ聞いてくるなぁ」


 乾きだした喉を潤すように、冷めた紅茶を一口啜る。


「……俺がまだ3歳か4歳の頃、俺を孤児院に置いていった母親。多分そのころにはチョーク症を患っていた。その後、行方知らずになったが、未だ死体が上がってきたとは聞いていない。どこかで生きているはずだ」

「おかーさん、生きる、する。から、探す?」

「そうだ。探して……探し、て…………」


 またも途中で言葉を無くした俺を、カミルが覗き込むように見ている。

 レディベリーも、静かになった俺のことをじっと心配そうに目を向けている。


「……いや、治療してやりたいだろう?」


 必死に言葉を探して、たどり着いたのは、ごく当たり障りのないモノだった。

 それでも、彼らは満足したのだろう、笑って頷いた。


「ん。オレ、同じ、思う!」

「まぁ!」


 レディベリーもそれに同意するように、手をぱちんと合わせた。



◎◎◎



 その後、レディベリーと片づけをした。カミルはもう眠気が限界だったので、来客用の部屋へ連れてやる。今後はそこがカミルの部屋となる予定だ。

 時々掃除していたし、埃もそれほど溜まっていないと思うが、明日もう一度、部屋を整えるか。


 かく言う俺も、久々の賑やかな食事と任務の疲れで、風呂から上がったころにはもう半分瞼が落ちていた。

 それに気づいたレディベリーが、カミルにしたように俺の手を引いて部屋へ連れていこうとしたので、丁重に断って自分の足でベッドへ向かう。


 アイツに影響されてか、レディベリーがいつもより過保護だ。なんだか、表情も良く動いていた気がする。

 彼女なりに歓迎しているのだろう。


 今後は、カミルを連れての任務になる。

 今日の選択が未来へどう転ぶか、今は分からない。ただ出来るだけ良い方向に行ってくれと、そう願い、目を閉じた。



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