第13話 記憶と心のあれこれ

「記憶と心は……そうやな、今回の莉愛ちゃんの場合は、心を司ってたデータの一部が記憶に似たような形になってたんや」

「……せんせー、意味がよくわかんらんです」


 ただでさえ混乱してるとこに、言葉の洪水をぶっかけられるのはよろしくない。


「トラウマやな、良い意味での」

「良い意味でのトラウマ……」


 ぶっちゃけ、それでも意味がよくわからない。


「心に刻み込まれた記憶やな。今回は莉愛ちゃんが妹として大切にされてたという記憶」

「莉愛が誰かの妹……」


 なんとなく理解できたような、できないような。


「結論から言えば、莉愛はもう完全に弓子の妹として仕上がってる」


──妹として仕上がってる?


「ほんまやったら、ここから姉妹関係を自然に振る舞えるように学習させて経験積まんとあかんのやけど、そういうのはもう要らんっちゅうことや」

「えっと、それってつまり」

「弓子と莉愛ちゃんは正真正銘の姉妹。君らの間に入れるのは誰もおらん」


 私は莉愛をもう一度見た。


「弓子姉様?」


 莉愛は首を少し傾げてあたしを見つめてきた。よくわからない温かみが、じんわりとあたしの胸の奥に灯ったような気がして──


「なんにもない、なんにもないんだけど」

「……姉様、なぜ泣いていらっしゃるのですか?」


 あたしはもう耐えられなかった。


「……あー、弓子。うち、ちょっとコンビニでお菓子買ってくるわ」

「菜々子?」

「15分ぐらいで戻ってくるから、それまでゆっくりしといて。無茶なことはせん範囲でな」


 菜々子は立ち上がり、そさくさと玄関から出ていった。


「ありがと、菜々子」


 あたしはそう言ってから、莉愛に近寄って──


「莉愛、莉愛……待ってた」

「弓子姉様……」


 あたしは妹を思い切り抱きしめた。


────────────────────


「あと残ってんのは……純正バッテリーへの載せ替え、足を使った行動制御データの入力、足の皮膚の張り替え、と」


 あたしは莉愛と一緒に、菜々子のパソコンの画面を見ていた。


「菜々子様、これが終われば私は……」

「そやな、晴れて完治ってことや」


 莉愛がパッと笑みを浮かべた。


「よかったね、莉愛!」

「まぁまだ一人で出歩いたりするんは危ないでな……暫くは杖使って貰うことになるし」


 菜々子曰く、二足歩行で使うデータは莉愛専用のものじゃないから、ある程度歩いて学習させないといけないらしい。


「とはいうものの、あたしは来週明けには大阪戻らんといかんし、弓子もずっと付き添う訳にもいかんしな」

「うっ……確かに」


──どうしよう……莉愛を会社に連れて行く? いや、それは流石に……


「まぁこんなこともあろうかと、あたしの方で一計を講じといたんやけど」

「は?マジ?」


 持つべきものは友達だ、ほんとにそう思った。


「そろそろ連絡が来る筈やけど……お、きた」


 パソコンの画面の片隅に、テレビ会議の着信が表示された。菜々子は素早く通話ボタンをクリックする。


「もしもし、菜々子ちゃん、聞こえてる?」

「おう、聞こえてるで!カメラ映像もバッチリや!」

「こちらも菜々子ちゃんの顔、見えてるよ!」


 あたしの会社でも使ってるテレビ会議のアプリに、この前お世話になったお千代さんと、もう一人見覚えある子が映し出された。


「……こんにちわ。志乃と申します」


 お千代さんのお店の看板娘の子だ。お千代さんの隣にちんまりと収まって画面に映ってる。


「お千代ちゃん、例の話やけど」

「昨日連絡くれた件ね。弓子ちゃんが仕事で留守の時間は、うちの店で莉愛ちゃんのお世話するって」


 え、なにそれ聞いてない。


「あら、弓子ちゃんの顔に"何それ知らん"って書いてあるよ?」

「すまんお千代ちゃん、今から言おうとしてたところやってん……」

「じゃあここで説明とか全部済ませばオーケーさね!」


 あたしと莉愛は顔を互いに顔を見合わせ、ぽかんとなってしまった。

 



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