第2話 女神さま、ヒドイですよ!

「……気にするな、ルークよ。魔法だけが力の全てではない」


 父であるテオドール・アッシュバーンが慰めてくれる。


「そ、そうだぞ、ルーク。剣術であれば、お前は私よりずっと筋がいいのだ!」

「そうそう。俺なんか身体強化の魔法がなければ、とても――アッ!?」


 いつもは沈着冷静な長男のエディ兄さんが慌て気味に、あまり人に気を使わない次男のリック兄さんもすまなそうにして、俺に慰めの言葉を掛けてくれる。まあ、リック兄さんのやつは、あまり慰めにはなっておらず、長女のリズ姉さんに脚を蹴られて途中までだったけど。


「ルークは可愛いから、そのままで十分よ!」


 いやいや、リズ姉さん。そういう事ではないと思うけど。


 どうしたのかというと、それは俺の六歳になった日だった。わざわざ王都から呼んだ上級魔導士に、俺の能力を【鑑定】してもらった時、その事実が判明した。


 俺には魔法の適性が無かった。


 そもそも、この世界における魔法とは、古来より伝わる魔法陣を使用するものだ。魔法陣を覚えて、その形と意味、そして魔法が起こす現象を、頭の中にイメージする。イメージが弱い場合には、呪文を詠唱することで、それを補完する。


 例えば、初歩の攻撃魔法【火球ファイヤー・ボール】だけど、火球の魔法陣を頭に思い浮かべながら、火の玉が自分の手から飛んで行く様子をイメージすると、火球が発射される。そんな感じらしい。


「ルーク君は、魔力はあるし、魔法陣の理解も出来ている。どうやら、精神的な問題のようです。何か魔法に対する忌避感のようなものがあるのでは……」


 父の昔の知り合いである魔導士の言葉には、思い当たるフシがある。甦ってきた前世の記憶というやつだ。


 俺は、魔法などという非科学的な事象を一切認めない、そんなものは夢物語だと笑い飛ばすような世界から転生してきた。だから、知識として理解していても、心のどこかで「そんな事、出来るはずがない」と思っているのかも。


 いやいや。だとしても、おかしいだろう。普通、こういう時には、転生者のチート能力みたいなものがあるんじゃない? 不死身の肉体とかトンデモナイ魔法が使えるとか……転生を司る神様! ちゃんと仕事してる? いったいどうなっているの? こんなの、酷くないですか!?


 そう胸の内で愚痴っていたら、その夜、変な夢を見た。


「失礼しちゃうわね! ちゃんと仕事してるわよ!」


 女神を名乗る女性が、俺に文句をつけに来た。夢の中だからか、姿かたちはボンヤリしていてよく分からないが、どうやら美人っぽい。


「あら~~美人だなんて……よく分かっているじゃない」


 でも、性格は軽いみたいだ。


「……とにかく、私はちゃんと神としての仕事はしたわよ。アナタにも、転生者チートとして特別なスキルを与えているんだから!」


「どんなスキルですか?」


「魔力が減らないスキルよ」


「……」


 意味ない。そんなの魔法が使えない俺には、何の意味もないスキルじゃないですか!


「え~~と……仕方ないじゃない! まさか、前世の記憶が甦って、しかも、そのせいで魔法が使えなくなるなんて、私に分かるはずがないでしょう!!」


 いや、アナタ、神様でしょう? そのくらいのこと、ちゃんと事前に考えて対処してくださいよ。


「神様だって万能じゃないのよ……あ~~もう、仕方ないわね。追加スキルとして、魔導具を使用することができるスキルと道具に魔法を付与出来るスキルを与えるわ。それで我慢してちょうだい」


「魔法を使えるようには、してくれないんですか?」


「それは、アナタ自身の心の問題だから、いくら私でもムリ! この新しいスキルがあれば、魔法が使えなくても何とかなるでしょ! そうそう、ついでにアナタの役に立ちそうな人間も送ってあげるわ。これはサービスよ!」


 そう言って、女神さまが帰っていき、俺は目を覚ました。


 とにかく、新しいスキルとやらを試してみよう! 


 今まで繰り返し覚えてきた【火球】の魔法陣。これなら、何かの道具に付与することが出来るのでは。でも、【火球】を使うには、魔法をイメージする必要があるよな。おそらく、俺が慣れ親しんだものをイメージできたら、うまくいく気がする。


 屋敷の裏庭で、俺はスキルを試すことにした。持ってきたのは、子供用のプレート・アーマーの篭手だ。


 俺は、【火球】の魔法陣を頭の中に思い浮かべながら、右手を篭手にかざす。頭の中の魔法陣が、俺の右手に、そして篭手へと移る様子を想像しながら、意識を右手に集中する。


 やがて、金属製の篭手に【火球】の魔法陣が刻印された……やったのか? これが【付与】のスキルというものなのか?


 俺は、その篭手を右腕に装着する。さあ、どうしよう? 何をイメージするか。そう思った俺の頭の中に、前世で見た映像が流れた


 アメコミ映画で、大企業の社長で天才科学者がパワード・スーツを着込み、掌からビームを発射している姿だった。うんうん、これだよ!


 俺は右腕を伸ばして、掌を開いた。数メートルほど先に、弓の練習用の木製の的を置いて、それに狙いをつける。頭の中で、映画の映像が鮮やかに甦る。その映像を強く思い浮かべながら、魔法陣に魔力を流した。


 ポン! という気の抜けた音がして、小さな火球が的に向かってヒョロヒョロと飛んで行き、的に当たって砕けて消えた。木製の的には少し焦げたような跡が残っている。


 何だか、拍子抜けするような結果だったけど、とにかく、【火球】を放つことが出来た。威力が弱いのは、多分、俺の魔力量が低いせいだろう。使える魔力量の上限は、魔法を使えば使うほど上がっていくらしい。魔力量が高くなれば、一発一発の威力も高くなるだろうし、もっと高度な魔法も使えるようになるはずだ。


 俺は、やっと意味を成して来た【魔力が減らない】スキルを活用して、何度も何度も【火球】を篭手から発射する。いいぞ、何となく威力が増してきたような気がする。


 ――このスキルを使い、魔導具で完全武装したパワード・スーツを作れば……イケる! それなら、きっと俺も闘える!!


 それから数日、俺はこの火球篭手で火球発射の練習を重ねた。


「……何、やってんの?」


 そんな俺の背後から、突然、声がした。



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