あと、3日。

トイノリ

あと、3日。

アパートから駅までの近道。

住宅と古びた倉庫の間を縫うような細い路地。


いつも思ってた。「ちょっと気味悪いなー」って。

でも、5分近く早く駅に着くから、無視して通ってた。


ある朝、そこに立てかけられていたのが――


✖️✖️✖️まで、あと3日


なにこの看板。


読めそうで読めない。

というか、「✖️✖️✖️」の部分だけ、何度見ても目がスルッと滑る。


翌朝。


✖️✖️✖️まで、あと2日


えっ、誰が更新してんの。


翌朝。


✖️✖️✖️まで、あと1日


そして――その日。


看板のすれ違いざま、背後で「ふごっ」と音がした。

ブタが鼻を鳴らしたみたいな、いや、ちょっと違う。


振り返ると、路地の奥に“何か”がいた。


──太い脚。びしょびしょの毛。

地面にずるずると擦れる腕。

全体的にでかくて、ぬめってて、毛がポサポサって生えてて。


やたらと清潔感がある。


……生臭いのに、石鹸の香りが混じってて、なんか良い匂い。

わたし、これ嗅いだことある。サバの味噌煮缶のフタ開けた瞬間。


「…………いや怖ッ」


と反射的に叫んだら、

“それ”が嬉しそうに「プゴォォォッ」と鳴いた。


次の瞬間、空気が揺れた。


なにこれ。なにこの空気圧。

なんか、テンション高くなってない?


わたしは全力で逃げた。駅までダッシュ。

途中すれ違ったおじさんが、わたしの顔を見て微妙な顔をした。


「あー、見えちゃった? 今朝から出てるみたいよ。ぼくも一度だけ見たけど、あれ、人間が怖がるとテンション上がるタイプなんだよね〜」


いや軽く言わんでくださいよ。


「ちなみに、それ、“読めちゃった人”にしか寄ってこないの」


「えっ、読めてませんけど!? 読めてませんって!!」


「でも、“なんとなく意味がわかった”時点でアウトらしいよ。

“✖️✖️✖️”って、お食事開始って意味だったんだって〜」


なんでそんな楽しげな口調で怖いこと言うの。


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次の日、看板の文字が変わっていた。


本日:おいしくいただきます。

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あと、3日。 トイノリ @teru_go_go

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