はらのなかから
天風いのり
原っぱの上から
青い空。
白い雲。
一面見渡す限りの緑の絨毯。
そう、ここは、原っぱの上。
沢山の子ども達が居て、みなそれぞれ好きな事をして遊んでいる。
だが、そんな子ども達の願いは、ただ一つだけ。
ママに会いたい!
という、強い強い願望。
子ども達には、親が居ない。
これから選び、選ばれ、親子となる。
今日は誰が選ばれるのかな、明日は誰を選ぶんだろう。
そんなワクワクドキドキを抱えて、子ども達は今日も無邪気に遊んで過ごしていた。
さてここに、ひときわ大人しい男の子が居る。
男の子なのに、ぬいぐるみが好きで、男の子だから、かけっこが得意。
でも、性格は控えめだった。
そんな彼が、今日は私に選ばれた。
他の子達の反応は様々。
いいなあと言って指をくわえながら、羨ましがる子が居れば。
おめでとうと言って拍手を送りながら、喜び溢れる子も居て。
わたしもつぎこそは、と言って拳を握りしめながら自分を鼓舞している子も居る。
まさに千差万別。
では、選ばれた男の子の反応は、どうなのだろうか。
彼は、その小さい体を震わせながら、ぼくにできるかなあ、と不安げに呟いた。
だが、この男の子は、いつまでも原っぱの中に居る訳にはいかない。
これから男の子は、奇跡を起こす。
どれほどがんばっても、大人達には辿り着けない境地に立つ。
これから男の子は、選ぶ側になるのだ。
えーっと。
原っぱの中心に立って、男の子が地面にしゃがみ込む。
そこにあるのは、外の世界。
が、映し出される水たまりの鏡面。
鏡面を覗き込むと、まず男の子の顔が映る。
そして水面がゆらゆらと揺らいで、外の世界が見えた。
男の子は、いっぱい考える。
お父さんとお母さんは、誰が良いだろうか。
お母さんが幸せそうな方が良いかな。
お父さんが優しそうな方が良いかな。
いっぱいいっぱい悩んで、男の子はついに決める。
このおかあさんがいい!
指さすと、鏡面はすぅっと沈み込み、暗く長い穴が出てきた。
いってらっしゃーい!
他の子達から言われる。
がんばって!
つよいおとこになれよ!
またあおうね!
男の子は、数々の声援を浴びながら、穴の中に飛び込んだ。
深い深い穴だ。
けれどそこは、とても温かい。
穴の底に着く。
暗くて狭い、落ち着く所。
柔らかなベッドの上に寝転がり、そこからじっと動かない。
男の子は、なんだか眠くなってきてしまって。
そのまま、まどろみの中に落ちていった。
ゆらりゆらゆら、ふわりふわふわ。
良い夢が見られそうな予感がして、男の子は嬉しくなった。
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