戦えない俺は、最強の支援機で弟子を無双させる!

自己否定の物語

第0話「灰空の先で」

灰色の空を裂いて、巨獣が咆哮した。

焼け焦げた鉄骨の海を踏み抜きながら、都市の骸を這い出してくる。


「制圧対象、Aランク個体——“対城型魔獣”を確認。リオ、援護を」


通信の声に、少女は迷いなく応えた。


「了解。ヴァル、こいつの攻撃パターン、すぐに分析する」


瞬時に戦況を把握したリオは、魔獣の動きを見極めながら、自らの攻撃ポイントを冷静に選ぶ。


「右前脚の関節、狙う。砕ければ動きが止まるはず」


着地と同時、白銀の拳が閃く。

重厚なガントレットが鋭く食い込み、魔獣の足がグラリと崩れた。


「脚が効いた。だが反撃の構えだ、気をつけて」


周囲には瓦礫が散乱していたが、リオは一瞬のうちに目標を定めた。

魔獣が鋭い爪を振りかざした瞬間、その攻撃の軌道に合わせて、リオは瓦礫の塊を蹴り飛ばす。

それが空中で障壁となり、爪の一撃を受け止めたのだ。


「くっ…! 次の攻撃が来る!」


瓦礫の盾が砕け散ると同時に、リオはすかさず背を低くして回避行動に移る。

猛然と振り下ろされる爪を、彼女は跳躍で躱しながら、宙で身をひねって反撃の隙を見逃さなかった。


「ヴァル、魔導人形のグラディア、首を狙え。連携は任せた」


《了解、照準補正。1.4秒後、攻撃に移る》


 黒影が疾風のように舞い降り、刃を閃かせる。

 鋼鉄の刃先が魔獣の頸動脈を正確に捉え、深々と切り裂いた。


《今だ、リオ》


「了解、背後に回り込む!」


 リオは背中のブースターを轟かせ、一気に加速。

 放たれる反撃の爪を半身でかわし、一瞬の隙を逃さず拳を鋼鉄の背中に叩き込む。


「終わりだ!」


 轟音と共に、巨躯が音もなく崩れ落ちた。


《……無駄のない動きだった。全戦況、完璧に処理したな》


「当然でしょ。誰の弟子だと思ってんの」


 軽口を叩きながらも、リオの息は乱れず、視線はすでに次の脅威を見据えていた。


——あたしの動きは、一瞬のうちに、刻々と変わる戦況を見極めていた。

避けるべき攻撃は避け、攻撃すべき点を即座に見定め、連携の指示を出し、全てが完璧に噛み合った。


 この戦いには、無駄が一切ない。

 迷いも、焦りも、未熟も、何もかも排除された、あたしの全てが注ぎ込まれた瞬間だった。


……だけど。


 ここに辿り着くまでには、幾度となく絶望を味わい、何度も挫けそうになった。


 強くなりたいと願っても、力だけでは守れないことを知った。

 仲間の痛みを見落とし、何度も過ちを重ねて——


 それでも。


 あの日の後悔だけは、絶対に忘れなかった。


 ──すべては、あの火の中から始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る