創作コント集
@luqing
緑をください
緑をください
登場人物
新山
森川
課長
職員A
職員B
職員C
職員D
職員E
職員F
職員G
職員H
〇みどり市役所・オフィス
机上にパソコンの置かれた灰色のデスクがかたまっていくつか島がある。机に向かっている職員たち。
パソコンに向かっている新山。肩を張り、カシャカシャとすばやくキーボードをたたいている新山。
新山「あー!!」
座ったまま目を回す新山。充血している新山の目。あたまをかきむしる新山。
新山「うー⋯⋯!!」
うなる新山。
課長「新山さん、ちょっと!」
窓ぎわの奥の席から呼びかける課長。
立ち上がり、課長の席まで向かう新山、課長と向き合い、
新山「失礼します」
課長、机上の書類を手にとって開き、
課長「新山さん、この決算書なんですが、こことここにミスが」
新山「えっ!!」
課長「勘定項目が違ってます。あと、こっちの数字が」
新山「すぐに確認します」
課長「よろしくお願いしますよ」
課長から書類を受けとる新山。
新山「失礼しました」
席に戻る新山。
書類を持った職員Aが新山に近づき、声をかける。
職員A「新山さん、これ、確認お願いします」
新山「はい」
書類を受けとる新山。去っていく職員A。
職員Bがやってくる。職員A、書類を差し出し、
職員B「新山さん、お願いします」
新山「はい」
書類を置いて立ち去る職員B。
職員Cがやってきて、書類を差し出し、
職員C「新山さん、これ、お願いね」
新山「はい」
書類を置いて立ち去る職員C。
職員D「新山さーん、ちょっと!!」
職員E「新山くん、例の件なんだけどさ、」
職員F「新山さん、お電話ですーー」
新山「あーっ!!」
あたまをかきむしる新山。
チャイムが鳴る。
新山「うあーっ!!」
駆け出していく新山。
職員Gと職員H、顔を見合わせ、
職員G「飛び出していっちゃったぞ」
職員H「ああ⋯⋯。そうとうきてるな」
〇同・市庁舎外・中庭
市庁舎の建物に沿って花壇があり、草花が咲いている。
花壇の前の道に沿って、手にバケツとスコップを下げた森川が歩いてくる。
森川、花壇の花を見て立ち止まり、
森川「やあ、きれいに咲いたなあ」
花壇の花を見ている森川。
新山が急いで駆けてくる。
森川「おや」
新山を見る森川。
森川「お疲れさまです、にーー」
新山「森川さん!!」
叫ぶ新山。
森川「はい!!」
目を見開く森川。
新山「みどり市みどり区みどりの森推進課みどりの森推進係みどりの森推進担当の森川さん!!」
森川「はい!!」
目をしばたたく森川。
新山「いーい名前だ!!」
右腕を目に当てて泣く新山。
森川「はあ⋯⋯」
たじろぐ森川。
森川「ありがとうございます⋯⋯」
新山「木、木、木、川、なんて素敵な響きなんだ⋯⋯!!森木(モリキ)、森林(モリバヤシ)、いや、森森(モリモリ)ならもっと木が増えるぞ!!ーー森川さん、改名しませんか!?」
森川「お断りします。先祖代々の名前ですので」
新山「そうですか⋯⋯。残念だなあ⋯⋯」
森川「木が多いなら、あなたのお名前のほうが多いのでは、新山さん。新しい山と書いて新山さんですから。山なんて木がたくさんあって、すばらしいじゃないですか」
新山「いやあ⋯⋯ぼくなんてはげ山ですよ⋯⋯森林開発されすぎて地肌がずるむけだあ⋯⋯。赤土が斜面から飛び出ちゃってますよ、ほら!!心の森が!!かれまくっちゃってますよ!!ほら!!」
両手をひろげる新山。
森川「そういう想定なんですね」
新山「森川さん、私ね、今、緑に飢えてるんです、ずーっと帳面を見ながらパソコン打って、デスクワークしてるもんですから!!緑、緑がほしいんです!!私に緑をください!!」
森川「緑ですか⋯⋯。じゃあ、ここのパンジーはどうですか?きれいに咲いてますよ」
花壇を指さす森川。
新山「おお!!いいですね!!」
森川「先月植えて、ようやく咲きはじめたところなんです」
新山「ああ⋯⋯花はいい⋯⋯。もっと、もっとなにかないですか?もっと、みどみど感を!!もっと、つちつち感をください!!」
森川「みどみど感⋯⋯?つちつち感とは⋯⋯?」
新山「もっとみどりみどりしい感じと、土を味わう感じがほしいんです!!」
森川「どうすればいいんでしょう⋯⋯?自然があるところということですか?」
新山「そうです、お話でもけっこうです!!なにかありませんか?ーーときに森川さん、そのバケツとスコップは?」
森川「午前中は第5公園の緑のカーテンの手入れをしていました。夏にむけてこれから育てるんですよ」
「すばらしい!!」
「その前は第2公園で花壇の植え替えを⋯⋯」
新山「フレキシブル!!」
両手をひろげて回りはじめる新山。
新山「ワンダホー!!ビューティフォー!!エコロジー!!シナジー!!」
森川「新山さん、新山さん、新山さん!!」
新山の回転を止める森川。
新山「はい?」
森川「どうしちゃったんですか?なんだか変ですよ、新山さん」
新山「そうですか?」
森川、大きくうなずいて、
森川「そう思います」
新山「そうかなあ⋯⋯?」
森川「同期のよしみじゃないですか、どうされたんですか?話してください」
新山「実は、期末の決算書の書類作成に手がかかりすぎて、このところ、ぜんぜん眠れないんです⋯⋯。おや、森川さん、どこです?」
森川の目の前できょろきょろあたりを見回す新山。
森川「ここにいますよ」
新山「そこでしたか、いやあ、影みたいにまっくろじゃないですか、どうしました?墨にでもつっこみましたか?」
森川「新山さん⋯⋯」
新山を見る森川。
前を見て笑っている新山。
森川「新山さん、救護室に行きましょう、私がおともしますよ」
新山「救護室?なぜです?」
森川「働きすぎです。休まなきゃいけませんよ」
新山「そんなことはない、ぼくはまだいけますよ」
森川「いやいやいや、体が悲鳴をあげているじゃないですか、すごくいい天気ですよ、今は。影も射さないほどの晴天です。その暗さはめまいですよ、きっと」
新山「そうかなあ⋯⋯?」
森川「倒れる前に休みましょう、課長には私から言っておきますよ」
新山「しかし⋯⋯仕事が⋯⋯」
森川「そんな状態じゃ無理ですよ、休まないといけません」
新山「しかし⋯⋯」
森川「命が大切です、さあ」
新山「わかりました」
新山に肩を貸す森川。
歩きはじめる森川と新山。
森川「新山さん、私、登山が趣味なんですよ。よかったら、今度、ごいっしょしますか?」
新山「えっ?いいんですか?」
森川「いいですよ、あさひ山に登りましょう。もうしばらくすると、市庁舎にゴーヤのカーテンを植えるんです、市役所もにぎやかになりますよ」
新山「ええ、ぜひ⋯⋯!!いーい人だあ!!」
歩いて上手へ去っていく2人。
(了)
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