異世界まったり発展記~創造魔法と愛猫と、時々女神~

吞兵衛係長

第1話 始まり ~女神(自称)との遭遇、そして強制転移~

「にゃ~ (今日の木漏れ日、最高ニャ……アイの膝の上は特等席ニャ……) 」


愛猫タマが私の膝の上で、とろけるような声を出す。春うららかな午後、近所の公園のベンチは、私たちのお気に入りの場所だ。


タマの柔らかい毛並みを撫でながら、読みかけのファンタジー小説に目を落とす。主人公がチート能力で大活躍する、なんてご都合主義な展開に、思わず「ないない」と苦笑した、その時だった。


ピカッ!!


「にゃにゃにゃにゃ!? 目が、目がぁぁぁっ!」


「タマッ!? って、え、今、普通に日本語で叫んだ!?」


突如、視界が真っ白な閃光に包まれ、思わず腕で顔を覆う。タマの叫び声が、明らかに猫語ではない。パニック状態の私の耳元で、タマがさらに続ける。


「 なにこれドッキリ!? カメラどこニャー!?」


「いや、落ち着いてタマ!」


私も落ち着け! っていうか、私も喋るタマにツッコミ入れてる場合じゃない!


光が収まると、目の前には……背中に純白の翼、風もないのにサラサラと揺れる金色の髪。完璧な微笑み。ただし、その瞳の奥には、ニヤリといたずらっぽい光が宿っている。コスプレだとしたら、気合の入り方が尋常じゃない。


「……どちら様でいらっしゃいますか、非常にファンタジックなご衣装の、絶世の美女様?」


「私は女神ソフィア! ま、こっちの世界じゃ、いちおう自称ってことになってるけどね!」


「自称!? 胡散臭さがいきなり天元突破してるんですけど!? あなた、本当に女神様なんですか?」


「アイ、このお姉さん、なんか美味しいお魚の匂いじゃなくて、もっとこう……怪しい匂いがするニャ……」


タマが私の足元にすり寄り、警戒心MAXで美女(自称女神)を睨んでいる。喋る猫に警戒される女神って、どうなのよ。


「タマ、ナイス嗅覚! ……じゃなくて。えっと、ソフィア……様? 一体全体、何の御用でこんな白昼堂々、公園に降臨なさったんですか?」


「単刀直入に言うわね! あなたたちには、これから私の管理する異世界へGO! してもらいます!」


「……は?」


私の思考が完全にフリーズする。異世界? まるで聞き間違いかのような単語に、私の口から間の抜けた声が漏れた。


「い、異世界ですって!? あの、ちょっと待ってください! 話がジェットコースターすぎて、脳の処理が追いつきません! まず、その前に説明を!」


私の必死の訴えも虚しく、ソフィア様(自称)は、テレビショッピングのカリスマ司会者のように、大げさなジェスチャーを交えてまくし立て始めた。


彼女曰く、その世界は文明レベルが中世くらいで停滞し、人々は貧困と争いに喘いでいる……らしい。


「そこで! 選ばれし勇者であるあなたに、その世界を発展させていただきたいのよ!」


「勇者!? 私が!? 人違いじゃありませんか? 私、食いしん坊なだけの、一般人ですよ?」


「大丈夫、大丈夫! あなたならできるわ、だって、こんなにファンタスティックでミラクルな力を4つもプレゼントしちゃうんだから!」


ソフィア様(自称)は、パチン!と高らかに指を鳴らした。


「じゃじゃーん! まずは基本のキ、『異世界言語理解』! これで言葉の壁は粉砕よ!」


「続いて、お買い物好きのあなたにピッタリ!『無限収納』! 重い荷物? なにそれ美味しいの? って感じ。」


「さらに! あなたのイマジネーションが世界を変える!『創造魔法』! イメージしたものをポンっと具現化!」


「そして最後に! これさえあればあなたも歩く辞書!『賢者の叡智』! 古今東西の知識をあなたの脳内にダイレクトインストール!」


……チート能力てんこ盛り。というか、説明が雑! 深夜の通販番組で、効果の怪しい高額な健康器具を強引に売りつけられている気分だわ、これ。


「えーっと……つまり、その……なんでもかんでもアリ! みたいな、ご都合主義の極みみたいな感じですかね?」


「ま、だいたいそんな感じ! 細かいことは、向こう行ってから考えればいいのよ! あ、そうそう、タマちゃんがいないとアイちゃん寂しいでしょ?

だから、あなたと意思疎通できるようにしておいたわ! 女神様からのスペシャル大サービスよん!」


「にゃんと! アイとずっとお喋りできるニャ! ……なんかよくわかんないけど、冒険の予感がするニャ! お魚いっぱい食べられるかニャ~!?」


タマは尻尾をピーンと立て、目をキラキラ輝かせている。……完全に状況を楽しんでやがる。私だけがこの怒涛の展開に置いていかれている。


「ちょ、ちょっと待ってください! 心の準備とか! 猫缶とか! お気に入りの枕とか! いろいろあるんですー!」


私の悲痛な叫びも、女神(自称)には暖簾に腕押し、糠に釘。彼女は楽しそうにウインクすると、再びパチン!と指を鳴らした。


「それでは、健闘を祈るわ! レッツゴー! 異世界ライフ、エンジョイしてちょうだい!」


視界が再び真っ白な光に覆われ、体がふわりと浮き上がる感覚。私は、キラキラした目をしたお喋りな愛猫と共に、有無を言わさず未知の世界へと放り出されたのだった……。


こうして、私、アイと喋る愛猫タマの、異世界まったりライフ(……本当にそうなるかは、この時点では神(自称)のみぞ知る)が、半ば強制的に幕を開けたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る