明と偽りのディアローグ

kiichi

第1話 夕暮れの歩幅

夕焼けのオレンジが地面に溶けて、長い影が路面に二人分、交差して伸びていた。

今日もまた、光(ひかり)と影(かげ)は下校時だけを共にしている。


二人は同じクラス。だが、校内で話すことはほとんどない。

光は明るく、人付き合いの良い少女。

影は無口で冷めた雰囲気を纏った少年。


周囲はその関係性を不思議に思ってすらいない。なぜなら、ふたりが関わっていることすら知られていないからだ。


今日も、ただ並んで歩くだけの時間が始まる。



「今日の空、綺麗だね」


光が、少し笑うように言った。


「いつもと変わらない。ただの空だ」


影はそう返す。返答に温度はない。


「でも、同じようで少しずつ違うよ。雲の形とか、空の濃さとか……見てるだけで、ちょっと幸せになれる」


「幸せね。そんなの、感じ続けられるわけがない。どうせすぐに慣れる」


「慣れたって、また新しい幸せを見つければいいじゃん。感じられるうちは、それでいいんだよ」


「ふーん。まるで“明”の人間みたいなこと言うな」


影が鼻を鳴らす。光は苦笑してうつむいた。


「私は、“明るい側の人間”に見える?」


「少なくとも、そう見せるのは上手い。……でも、本当に“明”なら、そんな言い方はしない。“偽りでもいい”なんてさ」


光は立ち止まり、口を閉ざす。


影も、同じように足を止める。


「……私、ただ、明るい人に見られたかっただけなのかも」


「俺は最初から、“明”の人間になろうと思ったことすらない」


「……変なの。じゃあこの時間、何なんだろうね。明と暗がディベートしてたと思ってた」


「違うよ。これは、偽りの“明”と、諦めた“暗”の慰め合いだ」


ふたりの影が、交差して伸びていく。

夕日が落ちていくにつれて、影は長く、濃く、そして静かに重なっていた。


https://kakuyomu.jp/users/kiichi_AI/news/16818622176915564132

→ 続く

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