行け行け!合コン! ~羽ばたけ!恋のバードウォッチング~

志乃原七海

第1話【オープニング】



第一話:バードネームの夕べ ~賢者の森への招待状~


【オープニング】


都心の一角にある、少し隠れ家的な雰囲気のレストラン「フォレ・サージュ(賢者の森)」。石造りの壁には苔むしたような古めかしい紋様が彫られ、窓の外は、確かに大都会の夜景のはずなのに、一瞬だけ、風に揺れる見知らぬ森の風景が映り込んだ気がした。ここは、単なるレストランではない。古の契約に縛られ、現実と異世界の狭間に存在する、特別な『場』だ。


今宵、ここで一風変わった『会合』が開催されようとしていた。主催者は「ミスターF」と名乗る謎の存在。その正体は、人ならざるもの、あるいは異世界の理そのものとも噂される。参加条件はただ一つ。「鳥にちなんだニックネーム」、そして、現代社会に埋もれて生きる者たちの中に、無自覚に眠る、異世界由来の『適性』を持つこと…。


そして、会合のルールはシンプルかつ深遠。参加者は選んだバードネームで互いを呼び合い、親睦を深める。そして、もし互いの『波長』が合い、特別な関係を築けた際には、お互いの『真名(まな)』を交換するというルールだ。『真名』とは、この世界での氏名ではない。異世界において、魂の片鱗を示し、互いの存在をより深く結びつける、神秘的な響きを持つ名前。


この場所での出会いは、彼らの退屈な日常を打ち破り、隠された運命の歯車を、未知なる異世界へと繋げるプロローグに過ぎなかった。


【シーン1:それぞれの日常と、ざわめく『異能』】


イーグルとなる男: 大手商社の若きエース、鷲宮 瑛(わしみや あきら)。冷徹な会議室の空気の中、彼の鋭い眼光は、まるで遥か彼方の目標を一瞬で見抜く猛禽類のそれだ。部下たちに放つ指示は、市場の未来を予知するかのような、常識外れの確度を持つ。彼は知らずに、自身の『未来視(フューチャーサイト)』という異能の一端を使っているのかもしれない。「完璧」を求めるのは、制御できない力の暴発を抑え込むための無意識の衝動? 弱みを見せることを嫌うのは、見知らぬ自分自身への恐れからか?

同僚「おい、鷲宮。今夜の『ミスターF』主催の合コン、お前も行くだろ?バードネームだってさ、面白い噂があるんだ。…ていうか、お前、なんか普段より集中力がヤバくないか?獲物でも見つけた顔してるぜ。」

男「…くだらん。だが、たまには息抜きも必要か。」(…この招待状を受け取ってから、妙に心がざわつく。まるで、遠い空から呼ばれているかのような…)内心、非日常な出会いに、そして心の奥でざわめく『何か』に、抗いがたい興味を抱いている。


コンドルとなる男: 古書店の片隅で、難解な哲学書…いや、それは忘れ去られた古代の言語で記された禁断の書物、『叡智の断片(フラグメント・オブ・ウィズダム)』なのか?…を読み耽るミステリアスな青年、高森 遼(たかもり りょう)。人との関わりを避けるのは、周囲の感情や思考の波に敏感すぎるからかもしれない。常に一歩引いた場所から周囲を観察しているのは、彼自身の存在が、この世界の物理法則からわずかに逸脱し、『境界』を視認できるからか?

友人「お前も誘われたんだろ?『ミスターF』の合コン。バードネームとか、お前好きそうじゃん、そういう変わったの。…お前さ、最近、なんか遠い目してるよな。世界の裏側でも見てんのか?」

男「…まあな。人間観察にはいいかもしれない。…いや、もっと根源的な『真理』が見えるかもしれない。」(…この招待状の紙質…どうにもこの世界の物ではないような…)静かに招待メールを見つめる瞳の奥には、世界の秘密を探求する、異世界からの探求者の光が宿る。


ホークスとなる男: ジムで汗を流す、エネルギッシュなスポーツインストラクター、鷹野 健(たかの けん)。その身体能力は常軌を逸しているように見える。一瞬で距離を詰める速さ、獲物を捉えるかのような正確な動きは、単なる鍛錬ではなく、『身体強化(フィジカルブースト)』の異能の片鱗か。明るさと強気な発言で人気だが、実は繊細な一面も持つ。それは、制御しきれていない魔力のようなものが、時に心に反動をもたらすからか?

後輩「先輩!今夜の合コン、バードネームで参加らしいっすよ!どんな名前で行きます?先輩なら、やっぱ攻撃的な名前っすよね!」

男「ハッ、俺に決まってんだろ?狙った獲物は逃がさねぇ、ってな!…なんか今日、身体が熱いんだよ。内側から力が湧いてくる感じだ。この合コンで、俺の中にいる『何か』が、そう叫んでる気がするんだ。」強気な言葉とは裏腹に、どんなバードネームにするか少し悩んでいる。それは、自分が呼ばれるべき『真名』に近い響きを探しているからかもしれない。


スワンとなる女: バレエスタジオで優雅に舞う美しい女性、白鳥 麗華(しらとり れいか)。その動きは、まるで魔法で操られているかのようだ。重力を感じさせない跳躍、流れるような回転は、単なる技術ではなく、『空間操作(スペーシャルシフト)』の異能の無自覚な発現? 周囲からは完璧に見られているが、実は極度のあがり症でドジが多い。それは、異世界の自分と現代の自分との間の乖離からくるものなのか? あるいは、不安定な魔法のコントロールが原因なのか?

友人「ねえ、麗華。今夜の合コン、バードネームだって!あなたなら『スワン』とか素敵じゃない?優雅で綺麗で、まるで童話のお姫様みたい!きっと素敵な異世界…じゃなかった、素敵な出会いがあるわよ!」

女「えぇ…私にそんな…でも、普段の自分じゃない名前なら、少しは大胆になれるかも…まるで、違う世界の誰かになったみたいに…」(…この合コン…なんだか、呼ばれている気がする。あの時、夢で見た…光の庭園に…)鏡の中の自分に小さな勇気を求める瞳に、遠い世界への憧れと、隠された力が宿る。


フラミンゴとなる女: アパレルショップでひときわ華やかなオーラを放つ店員、紅野 彩(こうの あや)。彼女の周囲だけが、一段と鮮やかに輝いて見えるのは、単なるオーラか、それとも『魅了(チャーム)』の異能の片鱗か? 正義感が強く、思ったことはストレートに口にする。その言葉は、時に相手の心を揺さぶる特別な力を持つ。『言霊(コトダマ)』の力か? 誤解されることも多いが、それは彼女が持つ異質な性質故か?

同僚「あんたも『ミスターF』の合コン行くんでしょ?バードネーム、何にするの?派手なのにしなよ!あんたにピッタリの、なんか『特別な』名前!」

女「当たり前じゃない!私が一番目立ってやるわ!見てなさい!…この世界で、私は私自身を証明するんだから!この『場』で、私の色を焼き付けてやる!」新しい自分を演じることにワクワクしている。それは、異世界で彼女が担う役割への無自覚な渇望か。


孔雀となる女: 高級クラブでナンバーワンの座に君臨するも、どこか遠い異世界を思わせるような寂しげな表情、真名(まだ誰も知らない)の女性。そのオーラは、単なる魅力か、それとも強力な『幻想(イリュージョン)』の魔法か? 客に手作りの煮物を振る舞い「あら、お口に合いました?」と微笑む。その料理は、単なる料理ではない。それは、失われた故郷の味か、あるいは『治癒(ヒール)』の魔法を込めた霊薬か…

ママ「あなたも行ってみたら?『ミスターF』さんの合コン。たまにはお店の外で、違う出会いもいいんじゃない?…あなたのその、寂しそうな瞳も、少しは変わるかも。…だって、あなたは、この世界の者じゃないんでしょう?」

女「…そうですね。でも、バードネームですか…どんな名前にしましょうか。『自分の本質を隠せる名前』…ええ、それがいいかもしれませんわ。」(…この招待状…私の失われた力に…反応している…?『賢者の森』…私の『真名』を…取り戻せる場所…?)彼女が隠したい本質とは、一体…? 異世界での過去、それとも…?


ペリカンとなる女: 公園のベンチで、大きなサンドイッチを幸せそうに頬張る女性、本名不明。彼女の周りだけ時間がゆっくり流れているようだ。鳩にパンくずを分け与える姿は、まるで異世界の寓話から抜け出したかのよう。エプロンをカバンから取り出し、口元を拭う。その仕草は、この世界の常識を超えた何かを示唆しているのか? どこか掴みどころのない雰囲気。彼女自身が、この『賢者の森』に繋がる存在…あるいは『ミスターF』の手の者なのか?

友人からのLINE「ねぇ、今夜のバードネーム合コン、一緒に行かない?あなたなら『ペリカン』とか似合いそうじゃない?(笑)」

女「ほぅ…これは面白そうじゃのぅ。この世界の常識は、異世界の非常識。逆もまた然り、ですかねぇ?(ニコニコ)…さてと、今日の『お仕事』の時間でございますわ。」と、スマホの画面を見つめ、意味深な笑みを浮かべる。彼女は、この『会合』が何なのかを知っているのだろうか?あるいは、彼女自身がこの物語の仕掛け人なのか…?そのペリカンと名乗る女性の肩には、小さな光る羽が、一瞬だけ見えた気がした。


【シーン2:レストラン「フォレ・サージュ」~異世界へのプロローグ~】


レストランの一室が貸し切りにされ、落ち着いた照明の中、男女がテーブルを囲んでいる。しかし、部屋の空気は張り詰め、期待と不安、そして微かな異世界の魔力(マナ)の気配が入り混じっている。テーブルの中央には、魔法陣のような模様が刻まれている。部屋の隅には、まるで生きているかのように精巧なフクロウの置物が飾られている。そのガラスの瞳は、参加者一人一人をじっと見つめているかのようだ。単なる置物ではない。それは、この『儀式』を監視する『ミスターF』の使い魔か、あるいはこの『賢者の森』の意思そのものなのか…?


主催者の「ミスターF」の姿はなく、進行役のスタッフがルールを説明する。スタッフの顔には、どこか人間離れした無機質さがある。その肌は青白く、瞳の色は不自然なほどに鮮やかだ。彼らは『ミスターF』によって創られ、この『場』を維持する存在、『結界の番人』なのかもしれない。


スタッフ「本日は『ミスターF』主催、バードネーム合コン…あるいは、『異世界への適性者選抜の儀』にお越しいただきありがとうございます。皆様には事前に決めていただいたバードネームでお呼び合いいただき、親睦を深めていただければと存じます。それは、皆様の『異世界での姿(アバター)』や、『宿された力』を象徴する名前となりうるでしょう。この『場』は、皆様の異能を増幅させ、眠れる力を呼び覚ます効果があります。…ご注意ください。」


スタッフの言葉に、場の空気がさらに張り詰める。参加者たちは、自身の内に秘めた力がざわめき始めたのを感じていた。


スタッフ「そして、めでたく互いの『波長』が合い、魂が惹かれ合った際には、お互いの『真名』を交換していただきます。それは、単なる氏名ではなく、互いの魂を結びつけ、異世界における『絆』を形成するための、神聖な行為です。一度『真名』を交換すれば、互いの存在は異世界で強くリンクされます。それまでは、くれぐれも『真名』はお秘密に…もし安易に漏洩すれば、邪悪な存在に利用されるなど、予期せぬ事態を招くかもしれません…」


男性陣が、どこか緊張感を孕んだ自己紹介を始める。

「…イーグルだ。この場所が、何をもたらすのか、この目で『見極めさせてもらう』。」クールに一言。彼の言葉には、『未来視』で先の展開を読もうとするかのような響きがある。

「コンドル…よろしく。世界の真理が、ここに見出せるだろうか。…この『場』の構造は、まるで古代の魔法陣のようだな。」ミステリアスな雰囲気。その瞳は、テーブルの上のグラスではなく、もっと遠い、見えない『境界』を見据えている。

「ホークスだ!みんな、楽しもうぜ!…そして、俺の中に眠る『力』を、ここで解き放つ!身体がうずいて仕方ねぇ!」快活に。彼の声には、抑えきれない『身体強化』の力の発露を予感させる響きがある。


女性陣も続く。

「ス、スワンですわ…あの、よろしくお願いします…(緊張で声が上ずる)」その優雅な姿とは裏腹に、彼女の手は微かに震えている。テーブルに置こうとした手が、一瞬宙に浮いたように見えたのは、彼女の『空間操作』の異能が暴れ出しそうになっているのを抑えているからか?

「フラミンゴよ!盛り上がっていきましょー!この場所で、私は誰よりも『輝く』わ!(自信満々に)」その声は、場の空気を鮮やかに染め上げようとするかのように響く。彼女の髪飾りが、微かに光を放ったように見えた。

「孔雀と申しますわ。どうぞ、よろしくお願いいたします…(淑やかに)」彼女の言葉には、どこか遠い異世界から来たような、深遠な響きがある。その瞳の奥には、哀しみと、何かを決意したような光が交錯する。彼女の足元に、一瞬だけ、まばゆい羽根の幻影が見えた気がした。


そして、最後に一人の女性が、カバンからマイエプロンを取り出しながら、場にそぐわない、しかし抗いがたい存在感を放って名乗る。

「どーもー、ペリカンでーす。いやー、お腹空きましたね!ここのコース料理、美味しいって評判なんですよね?栄養をつけとかないと、これから始まる『冒険』に備えられませんからねぇ?(ニコニコ)」


一同、その場違いな雰囲気…いや、その常識を超えた存在感に一瞬静まり返る。イーグルが訝しげな目を向ける。その目は、獲物を見定めているのではなく、未知なる規格外の存在、あるいは世界の『摂理』から外れた存在を警戒しているかのようだ。

イーグル「…いきなり食事の話か。ここはそういう場所では…」

ホークス「そうそう、俺たち猛禽類は、そんなガツガツしてないんでね。…もっとこう、スリリングな展開を期待してんだよ!異能とか、魔法とか!」


ペリカン、全く動じず、手際よく、しかしどこか儀式めいた仕草でエプロンを装着。エプロンの模様が、ほんの一瞬、不思議な光を放ったように見えた。彼女の周囲の空間が、微かに歪んだようにも見えた。

ペリカン「あら、猛禽類さんは小食なんです?私は当たり前に肉食系なんで、この世界の常識を丸ごと『飲み込んじゃいたい』気分なんですけどねぇ?なんちゃって(笑)…まあ、まずは腹ごしらえしないと、異世界探索なんてできませんもんねぇ?」


そのあっけらかんとした、しかしどこか世界の秘密を知っているかのような物言いに、フラミンゴが吹き出す。「ちょっと、ペリカン、あんた最高!アンタこそ、この合コン…いや、『儀式』にピッタリの存在かもね!何か知ってんでしょ?」

スワンはハラハラし、自身の心の揺らぎ、体内の力の高まりを感じている。孔雀は眉をひそめつつも、どこか面白そうに、そして警戒するようにペリカンを見ている。彼女の『幻想』の魔法が、ペリカンの周囲に違和感を感知している。

男性陣の作ったクールな、あるいは張り詰めた空気が、ペリカンの登場によって早くも崩壊し始めている。それは、物語が、予定調和を外れ、未知なる異世界ファンタジーの方向へ、強制的に動き出したことを示唆していた。


隅に置かれたフクロウの置物が、まるで全てを見透かすように、いや、彼らの反応を観察し、記録するかのように、静かにそのガラスの瞳を怪しく光らせているかのようだ。


【エンディング】


ぎこちなくも始まった、異世界への扉を開く夕べ。スタッフによって運ばれてきたコース料理は、単なる食事とは思えないほど精巧で、微かに魔力の香りがした。料理が運ばれ、会話が交わされる中で、それぞれの隠された異能の片鱗、異世界との繋がりが、徐々に露呈し始める。ペリカンの予測不能な言動は、この『賢者の森』にどんな嵐を巻き起こし、彼らの眠れる力を呼び覚ますのか。そして、彼らは仮初めの名前『バードネーム』の下で、本当の力、真実の運命と向き合い、『真名』を交わす相手を見つけることができるのだろうか。あるいは、この『儀式』の真の目的は、別の場所にあるのか?


――運命の歯車は、静かに、そして確実に、異世界の方向へと回り始めた。


【次回予告風ナレーション】


「ペリカンの規格外な食欲は、異世界の魔力(マナ)を消費している証!? イーグルの『未来視』が暴走し、プライドが砕ける時、隠された戦闘能力が目覚める! コンドルが見抜く、この世界の『歪み』とは? その異能、『境界視認(ボーダーサイト)』で何を見るのか!? スワンのドジは、魔法の暴走か、異世界の常識によるものか? 隠された『空間操作』の力が発現する時! フラミンゴとホークス、性格が真逆の二人の間に芽生えるのは、恋か、それとも共闘の絆か? 『魅了』と『身体強化』、異能が交錯する! 孔雀の秘められた力が、場の空気を変える! 彼女の『幻想』の魔法は、過去を取り戻せるのか? 個性派バードたちが、異世界への扉をこじ開ける! 次回、『行け行け!異世界合コン!~前菜は混沌の味~』。君も『適性者』か? この『場』に引き寄せられる『真名』を持つ者たちよ、覚悟の準備はいいですか?」

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