【中・短編。20:45に投稿中】御狐神社にいらっしゃい

水定ゆう

第1話 戦うアイドル

 せっかくのライヴが台無しになった。

 たくさんの人達が観に来てくれて、とっても素敵な一日にする予定だった。

 それなのに、それなのに……一つの悪意で壊されちゃった。


「輝きが憎い、煌めきがうるさい。どうして私を見ないんだ、どうして、どうして!」


 今日はドームで久々のライヴだった。

 さっきまでたくさんのお客さんが私達を観てくれていた。

凄くキラキラしていて、楽しかった。そんなドームは寂しいくらいに誰も居なくなっていて、用意された機材や壁が破壊されていた。


「酷い。こんなことするなんて」


ステージに一人残った私。

素敵で可愛い衣装を着たまま、頭にはヘッドセットマイクを付けている。

さっきまで最高のパフォーマンスをしていた筈なのに、その熱はスッカリ冷めていて、しんみりとしていた。


「憎い憎い、輝いているお前が憎い」


 私の目の前には変な生き物が居た。

 近頃巷を騒がせている、怪人って奴だ。

 一体どんな願いを歪めているんだろう。もしかして、芸能関係の人なのかな。

 それじゃあ私のことを憎むのも仕方がない。


「私のことを憎んでくれて構わないよ。でも、みんなを酷い目に遭わせるのは違うと思う!」


 私は正論ぶつけた。

 もちろんそんな声に耳を貸す気なんて無いらしい。

 苛立った様子で腕を振り回すと、近くに落ちていた壊れた機材を放り投げる。


「うるさい!」


 完全に怒りに飲み込まれて、我を忘れているみたい。

 私は何とか避けたけれど、危うくペチャンコにされる所だった。

 ホッと息を付く……なんて間は無くて、早く正気に戻してあげないとマズい。


「行くよ、スワン」


 私は腕輪リングに声を掛けた。

 すると腕輪リングから声が聞こえて来る。


『OK、結葉ゆいは


 目の前の怪しい怪しい怪人と相対した私。

 ここで逃げたらダメなのは分かっている。

 だから私は戦う。その力が私にはあるから。


起動エンゲージ


 私はいつも肌身離さず持ち歩いていたアイテムを取り出す。

 ボタンをポチッと押すと、“アイドル”と鳴った。

 完全にオモチャみたいだけど、ただのオモチャじゃない。


変身メタモルフォーゼ!」


 私はスカートの下に巻いているベルト。

その左側に付いたホルダーにアイテムを射す。

すると眩い光が私の身体を包み込み、データ状になっていたよく分からない何かが、鎧になって私に纏う。所謂特撮でありがちな変身って奴なんだけど、実際に私は纏って変身した。


「貴方の輝き、私が取り戻すから!」


 私は白鳥を模したヒーローに変身した。

 全身が鎧に覆われて、顔まで見えない。

 もう誰かは分からないけど、私が私なのは変わらない。


『行くよ、結葉』

「うん、スワン。早く助けてあげよう!」


 私は相棒パートナーなAIに声を掛けた。

 お互いの気持ちを一つにすると、目の前の怪人に向かって飛び掛かる。

 早く倒さないと、取り込まれている人の命が危ない。

 最初から全力で攻撃を仕掛けるけれど、何故か私の攻撃は届かなかった。


「うるさい!」

「う、うわぁ!」


 私はパンチを繰り出した。だけど届かない。

 灰燼に触れようとした瞬間、体が弾かれて飛ばされた。

 気が付くと怪人の後ろに居て、私はビックリする。


「な、なにが起きたの?」

『解析したよ。この怪人ジャーク、ワームホールを操るみたい』

「ワームホール?」


 全然分からないけど、凄くマズい気がする。

 このままじゃ、私の攻撃だけ一方的に届かない。

 そんなの勝ち目がない。私はそう思うと、いきなり必殺技アクションを起こすことにした。


「それじゃあいきなりクライマッスクだよ。♩煌めいてよ、私の歌で世界を変えるから。暗い顔しないで、涙だって虹に変えちゃうよ。。きっと明日はもっと面白い、そんな未来が待っているから、窮屈を飛び出そうよ♫」


 私は突然歌い出した。

 だけどこれでいいんだよ。だって私が纏っているのは、“アイドル”なんだから。

 私の歌を鎧の内側に仕込まれたマイクが読み取ると、全身を発光させて、音が現実化した。


「『アイドルセンセーション』」


 私と相棒のAI・スワンはハモった。

 同時に必殺技を放つと、流石に怪人も対応が遅れる。

 これならきっと届く筈。そう思った矢先だった。


 グワン!


 空間が急に捻じれた。

 再びワームホールを使われたみたいで、攻撃まで拡散される。

 私は動揺すると、顔に手を当てた。


「嘘だ! 音の攻撃まで弾けちゃうの!?」

『落ち着いて、結葉』

「う、うん。それなら……こうだ!」


 私はアイドルの特性を全く活かせなかった。

 それなら別の方法を試すしかない。

 ステージの床を蹴り上げると、怪人に向かって突撃した。


「スワンガンマイク!」


 何処からともなく武器を召喚した。

 スワン専用の武器で、銃剣にマイクが付いている。

 本当は私の歌声を増幅するために使うんだけど、こうなったら直接突き刺すしかないよね。


「そりゃぁ!」

「憎い憎い、お前が、憎い!」


 私は剣を突き立てた。

 かと思ったけれど、やっぱりワームホールに邪魔をされる。

 もう一回背後に飛ばされちゃうかも。そう思ったから、私はスワンガンマイクの引き金を引いた。


「そう来ると思ってたよ!」


 私が引き金を引いた瞬間、突然空間が歪んだ。

 ずっと録音モードにしていたおかげで、ワームホールを少しだけコピーした。

 あまりにもファンタジーかもしれない。だけどこれができるのが、スワンガンマイクだ。


「そっちがワームホールなら、こっちも使うよ!」

『今、結葉』

「うん、もう一回。アイドル……あ、あれ?」


 私はワームホール同士をぶつけ合った。

 これで相殺できる筈。その隙を上手く突いて、もう一回必殺技を放とうとした。

 だけど私の視界が歪む。仮面越しの世界がグニャリとなると、私は違和感を感じた。


「あ、あれ? 体が気持ち悪くて……」

『異常発生異常発生。周囲の空間が歪んでいるよ、結葉』

「えっ、なに? 声が、遠くなって……」


 スワンの声が遠くに聞こえる。

 何を言っているのか全然理解できない。

 遠のいていく意識を境に、私はフラリと倒れそうになった。

 ワームホールを相殺し合った影響で、空間自体が歪んでしまうと、私までその歪に飲み込まれてしまった……なんて、意味が分からなかった。けれどもう意識が保てなくて、私の視界が真っ暗になった。

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