「有紗。本家に顔を出すことになった。準備しなさい」
ヒロトと連絡がつかなかったのは一日だけだった。別に連絡を返すのが遅い人なら、メッセージを何日も放置することだってあるし、電話に出ないことだってあるかもしれない。
でも今までヒロトは私のメッセージには気づいたらすぐに返信してくれてたし、電話に出てくれないこともほとんどなかった。その時出れなくても履歴を見たら必ず後から折り返してくれた。
だから、ヒロトと連絡がつかなかった一日、私の心は暗く沈んでいた。気分は真っ黒なのに心臓はドキドキと早鐘を打っている。
大げさかもしれない。たった一日だ。思春期なんだし家出の一つや二つしたっておかしくはない。世間的にはそういう年齢なんだ。
でも、ヒロトに限ってそれはない。根拠はないけど断言できた。私が知ってるヒロトは自分の都合だけで周りの人に迷惑や心配をかけるような、そんなわがままな人間じゃない。
だから何か、事情があるんだろう。私にも家族にも連絡できないような何かが。
そう心の中で思いながら一日を過ごして、ヒロトのご両親が警察に相談に行くかどうか話していたところで、ひょっこりとヒロトが帰ってきた。何でもないような顔をして。
丸一日何の連絡もなく家に帰らなかったことをこっぴどく叱られていたヒロトはそのまま家の中に連れていかれて、私とゆっくり話ができたのはその次の日だった。
「どうして電話に出てくれなかったの?」
「……ごめん」
「どうしてメッセージ返してくれなかったの?」
「……ごめん」
学校を休んだヒロトの部屋で理由を聞いても謝られるだけで、何も話してくれない。嘘を言ってごまかすことも本当のことを言ってくれることもない。
家族には家でだって伝えてたみたいだけど……たぶん、本当の理由はもっと別のことなんだろうなって。
どうして何も言ってくれないのだろうか。人には言えないことなのだろうか。私には伝えられないことなのだろうか。
たった一日連絡がなかっただけだけど。それでも、今までそんなことなかったから私は心配したっていうのに!
そう思って「私は怒っていますよ!」とアピールするためにヒロトの顔を睨みつけようとしたところで――私は、ヒロトが泣きそうになっていることに気付いた。
「なぁに? 泣きそうになって……泣きたいのはこっちだったんだから」
「ごめんね。でも……なんか安心しちゃって」
そう言いながら、ヒロトは私を抱きしめてきた。
突然のことにびっくりしたけど、私を抱きしめているヒロトの手が弱々しく震えているのが感じられて。
いろいろ言いたいことはあったけど……今のヒロトにそんなことをいうのは気が引けて、私はできるだけ優しくヒロトを抱きしめ返したのだった。
――なんか、ヒロトの体って急にたくましくなったかな?
その日以降、少しずつだけどヒロトと過ごす時間が減っていった。完全に会わなくなるとか疎遠になるとか、そんな感じじゃないんだけど。
「ちょっと勉強に集中したいから」と言われてしまえば、私も会いたいとは強く言えない。
「私が教えてあげようか?」
なんて聞いたこともあったけど、ヒロトは何かを振り切るように頭を振った後に若干顔を赤らめて「有紗と一緒だと集中できないから……」なんて言って断られてしまった。
私と一緒にいると集中できないって何? って思ったけど、ヒロトの顔とか、これまでの私たちの過ごし方とか……うん。思い返してみれば集中できないっていうのも、その通りかも……。
いや、去年も状況は一緒だったはずなんだけどね? そのはずなんだけどね? なんだろうね、私の受験が終わってから張りつめてた糸が切れたというかなんというかね? ヒロトって紳士的だったんだなぁってね?
それに、最近ヒロト凄いたくましくなったから、余計にね? ……なんて。
そんなことばっかりして過ごしてるわけじゃないけど、恋人なんだしふとした瞬間にそういう雰囲気になることだってままあるのだ。
その積み重ねで勉強時間が減るのが嫌なんだろうね、今のヒロトは。
それは「今が楽しければそれでいい」んじゃなくて、しっかりと私と同じ大学に入って、その先も見据えてくれてるっていうことで。
だから、私もヒロトの意思を尊重してあまり長い時間ヒロトと過ごすのは遠慮するようにした。
もちろん教えられる勉強は教えてあげたし、毎日連絡も取りあってヒロトに余裕がある時はデートだってちゃんとした。恋人としてヒロトが私をないがしろにしているなんて全然思わなかった。
だから、これからも順調にヒロトと交際していくのだと思っていた。ヒロトが同じ大学に合格して、三年間キャンパスライフを一緒に送って、就職して、同棲なんかしたりもして。もちろんその先だって。
私とヒロトの関係は変わらない。そう思ってたはずなのに。
「有紗。本家に顔を出すことになった。準備しなさい」
「本家……?」
以前から時々お父さんが本家の人と何かしらの連絡を取り合っていたのは知っていたけど。
ずっとお父さんは私には関係ないことだって言ってたから、本家に行くなんて寝耳に水だった。
「有紗、何があっても父さんたちは有紗の味方だからな」
今までにないほど険しいお父さんの声。心配そうなお母さんの顔色。
何のことだか全く理解していないまま、私は「本家」へと行くことになった。
現代でも陰陽師として様々な行事を執り行い、多方に影響力を持つという陰陽師の家「白峰」の家に。
ヒロトの学校が夏休みに入って、しばらくしてからの出来事だった。
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異世界に勇者として召喚されていた僕と、幼馴染の彼女。 Yuki@召喚獣 @Yuki2453
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