ナナと季節のお茶
乃波ウタ
ナナと季節のお茶
第1話 ココフの朝とおばあちゃんの瓶
早朝4時63分。
まだ蟻もキッチンにやってきていない、そんな頃。
1つのお家にポンと灯りがついた。
テテテに住むロロのナナは、朝にココフというお茶を飲む。お茶はとってもとっても大事だ。なぜならお茶は、お腹にある火を助けるから。ナナは今日もお茶を作る。
ぼこぼこぼこぼこ
お湯が楽しそうに沸騰している。ナナは大さじを取り出した。1週間かけて78本の中から選んだお気に入り。
スパイスミックスの瓶から最後のひとすくいを掻き出して、すり鉢に移す。そして、それをすりこぎで潰してお湯に入れる。ボコボコとお湯に飲み込まれるスパイスたち。その瞬間の後を追うように、香りが立ち始める。
ナナは、鼻から深く香りを吸って、口からゆっくりと吐く。
お腹の火が、柔らかく膨らむ。
「さて」
ナナは『ハプのスパイスとお茶とハチミツのお店』で買って来た、3種類のスパイスの瓶を棚から1つずつテーブルに下ろした。
「なんて可愛らしいんだろう」
テーブルに並んだ3つのスパイスの瓶を見て、幸せのため息が溢れる。
小さな鈴のような、まんまるな形の種が1種類。小人の足跡のような、平べったい形の種が2種類。それぞれ同じ量ずつ大さじで3種類。スパイスミックスの小瓶に補充していく。ガチャガチャと3種類のスパイスの蓋を、キュッと最後に小瓶の蓋を閉める。
出来上がったお茶をカップに濾し入れて、4つの瓶を眺めながらいただく。
コップからホワンホワンと浮かぶ湯気につられ、ナナはふと視線を上げる。
スパイスの瓶を置いていた戸棚の奥。そこには、ナナの知らない瓶たちが並んでいる。この家が、かつてナナのおばあちゃんのお店だったころの名残。おばあちゃんは、お茶とお薬のお店をしていたらしい。
ナナはこの間、そのおばあちゃんの残した小瓶を1つ開けたのだった。その時ナナは、よく考えずに「
ナナは、まだ少し残っているお茶のコップを、コトンとテーブルに置いた。
戸棚の奥を見つめたまま鼻から息を吐く。お茶の香りが鼻から抜ける。ナナは、引っ越してきた時にとりあえずと詰め込んだ自分の瓶たちを、戸棚からテーブルに下ろし始めた。
おばあちゃんのお店だったころの名残を見てみることにしたのだ。
「冬眠の丸」の入った小さな瓶。
ゴロンとした、何かを干したものが5つ入った中瓶。
トロリとした、蜜のようなものが入ったやや大きめの瓶。
金色の、産毛の生えた葉っぱたちの入った中瓶。
そして、お茶のようなものが入った大瓶が4種類。
ナナは8つの瓶を眺めた。
「ハプさんのお店に持って行ったら、この瓶の中身たちが何だかわかるかしら」
お茶に見えるものは、特に興味が湧いたナナ。けれど、前にハプさんに「何か知らないものを見つけたら、まず匂いを嗅いだり、食べたり、触ったり、聞いたりしちゃだめ。本当に危ないものもあるから」と言われたから。まだ試せない。お茶が大好きなナナは、早く飲んでみたくてゴクリとウズウズした。
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