#2 バイク
半年が経過して、秋。あたしはついに普通二輪免許を取得した。
徒歩5分圏内にあるバイク屋へ赴き、シンプルな形をした黒のバイクを買った。駐車場にあたしの分の空きはあった為、早速納車できた。
翌日、休日の午前。復習がてら軽い圏内を走らせてみた。黒のメットと高校以来着ていなかった黒の革ジャンを着用して走行する。
昔の気分に浸ったようだ。今日は快晴。涼しくも穏やかだ。住宅街をぐるっと5ブロック1周して駐車場へ降り着く。メットをゆっくり外して髪を整える。
「ふぅー。何とか戻れた」
我ながらよくやった。
すると、アパートから彼女が出てきた。眠そうにあくびをして向かって来る彼女と目を合わせる。
「あ、おはようございます」
彼女は少し驚いたのかギョッと目を見開く。
「おはよう、ございます……。え!?」
「へっ!はい!」
彼女の『え!?』に反射的に応じた。
「バイク、買ったんですか?」
「え、まあ、はい」
「へぇー。いいバイクですね。シンプルだけど機能性抜群じゃないですか!結構いい値段したんですか?」
「え!?ああ、はい。普段から全くお金使わなかったから貯めた分でつい……」
まだひよっこのバイカーが乗るべき物ではないと理解できる。故に熟練者から品定めされてるようで緊張する。顔が燃えるように熱くなる。
「うんうん。それも素晴らしいことです」
良かった。褒められた。
「あ、そうだ。これから時間ありますか?」
「ええ、休日なんで夜までなら」
「良かった。私、バイク屋で働いているんです。良ければ、乗り方やマナー等教えたり沢山バイク見れますかので是非来てみませんか?ゆっくり運転は先導しますので」
とてもハードルが高い提案に聞こえるが、彼女のコミュニケーション能力には脱帽した。
「はい、是非」
彼女は小さく「やった」とガッツポーズした。
「これでツーリングできますね」
「はい」
「…………ツーリング!?」
「ん?だって隣同士でバイク乗るならほぼ仲間じゃないすか?」
「仲間」
純粋に嬉しい。彼女の距離感が異様に踏み込んでくる。何だか昔のあたしみたい。強気で人と関わろうとする。けど、本当は内気で臆病な自分を隠したかった。思春期真っ只中の学生には流行りものが1つのステータスだった。そんなステータスなんて眼中にないあたしは教室でよく浮いていた。高校は進学校だから浮くも浮かないも平坦に過ごせた。休学なんて対してクラスのみんなは気にしなかったに違いない。個人個人何かを抱えているという理解はしていたから。
「じゃ、ここで話してるのも他の車の迷惑になるんで、行きますか」
「ええ」
「えっとー」
「万理。本条万理よ。よろしく」
「万理ね。私は内田早樹。よろしくお願いします」
雲1つない青空を下に黒と緑のバイクが堂々と住宅地を抜けていく。通り過ぎる運転者は女性だと気付がないだろう。
なんて爽やかな風。ぼーっと人やコンクリート、鳥、木、ビルを眺めれるなんて至福だわ。
こうして、あたしはバイクの世界に順応していった。生き甲斐を失いつつあった自分が1人の若者に救われたのだ。
呪いを受けるその日までは。
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