ダイダラの恋の神話

@kiyamashu

ダイダラの恋の神話

 むかしむかし、はるかむかしのおはなしです。

 霧深い山の影に、ダイダラボッチと呼ばれる大きな、とても大きな巨人が一人で住んでいました。彼は天土を作った神の一柱でしたが、孤独で、友だちもおらず、名前を呼んでくれるものもいませんでした。泣き虫で、多くの湖が彼の足跡に涙が溜まってできました。

 あるとき、谷をゆくひとりの乙女を見かけました。長い黒髪に白い肌を持った乙女にダイダラボッチは一目惚れしてしまいました。

 あとからゆっくりと追いかけると、彼女は家に着きました。その姿をダイダラボッチは山の影から覗き見ていましたが、こころが抑えきれなくなり、それを歌にして詠みあげました。

「われ君と死す天に会いたい」

 それはそれは大きな声でしたので、乙女も気づいて山の方を見つめました。乙女は静かに真心を持って応えました。

「池をつくりて共に眺めむ」

 ダイダラボッチは嬉しさのあまり泣き出してしまいました。

 けれど、あまりに大きな彼の涙があまりに多く流れましたから、その水は山を下って土砂となり、乙女の家ごと吞み込んでしまいました。

 ダイダラボッチは悲嘆に暮れ、海へと歩いていきました。溺れ死のうと考えたのです。けれど彼の背丈はとっても高かったので、行けども行けども沈みません。そうしてどうにか沈んで息ができなくなると、ああこれで乙女のもとに行けるとダイダラボッチは思いました。その頭の先が、いまは沖ノ鳥島と呼ばれています。

 その姿を見ていたのが、この国を作った神様であるイザナミとイザナギの夫婦喧嘩を仲裁したことで知られる菊理媛の尊でした。菊理媛はダイダラボッチを憐れに思って、乙女とともに空の星へと変えました。それはいま、ベガとアルタイル、織姫と彦星と呼ばれている星です。

 そうして今宵もまた、空に二つの星が向かい合って輝いています。

 それは恋の星です。喜びの涙から生まれ、悲しみの涙に死んで、天に上った愛の星なのです。


おわり


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