宇宙キャンプ
ちびまるフォイ
キャンプ場は宇宙の共有財産
「週末どっかいくの?」
「え? いや別に。なんでそんなことを?」
「それならさ、宇宙キャンプしにいこうよ!」
「キャンプなんて行ったことないけど……」
「ならいっそ行くべきだよ。絶対楽しいって!」
キャンプ好きの友達に乗せられ週末は宇宙キャンプとなった。
火星から衛星鉄道を乗り継ぎ、ついに月面キャンプ場に到着。
「とうちゃーーく!!」
「結構長かったね……」
「まあまあ。さっさと宇宙ステーション建てちゃおう」
月面に降り立つと今日のキャンプ地候補を探す。
周囲は灰色の霧がかったようで視界が悪い。
それにどこかしこも先客がいる。
「……めっちゃ宇宙キャンパーいない?」
「月面キャンプ場は人気だから」
「それに視界も悪いし……」
「キャンパーが来ると月面の塵が舞っちゃうんだよ」
「うーーん……」
宇宙キャンプというからには月面から宇宙の星が見られると思っていた。
だが実際には塵による視界不良で3m先もよく見えない。
これじゃなんのために来たんだか。
「よし、このあたりにしよう」
圧縮基地のスイッチを入れてステーションを建て終わる。
もうキャンプ地でやることがなくなってしまった。
「えっと、それで……この後どうするの?」
「ははは。キャンプに何か目的を求めるなんて。
まずはこの月面を楽しもうよ」
「楽しむったって……なにもないよ?」
「重力は半分以下だし。ちょっと跳ねてみたら?」
「お、おおお!?」
思ったよりジャンプできて楽しい。
月面キャンプ場が人気なのはこの軽重力の魅力もあるのだろう。
そして訪れたキャンパーがみんなジャンプするもんだから、
月面の塵という塵が舞ってしまうという悪循環も理解できた。
「はあ、楽しかった」
「まあゆっくりしようよ」
宇宙キャンパーの必需品である電熱プレートでお湯を沸かす。
あっという間にお湯が湧いた。
「さあどうぞ」
「ホットコーヒーをストローで飲むの初めてだ」
「月面で飲もうとすると飛び散っちゃうから」
日も少し傾いてくると、訪れるキャンパーの数も減っていく。
元気に舞っていた月面の塵も少しづつ落ち着いていった。
「……静かだなぁ」
「月面はほぼほぼ真空だから、音なんて聞こえないから。
この静寂に身を包むのもキャンプの醍醐味だよ」
「まあ、話しちゃってはいるが」
「ははは」
温かい飲み物で心が落ち着く。
体が温められるとなんだかお腹まで減ってきた。
「ああ、そうだ。今日のごはんは?
一応、宇宙食持ってきたけど」
「宇宙キャンプ場まで来て宇宙食はないって。
ちゃんと料理しようよ」
「でもどうやって?」
「このキャンプ場、ソーラーピザ窯があるんだ」
基地から向かって数分の場所にピザ窯があった。
火や電熱線ではなく、太陽光の熱で焼き上げるピザ窯。
「これ本当に使えるの?」
「当たり前だろ。月面の気温差なんだと思ってる。
太陽光の温度は火よりも高くなるんだよ」
「まじかよ……。そんな場所でキャンプしに来てるのか」
ピザ生地を伸ばして好きな具材をトッピング。
そのまま乗せると低重力で浮いちゃうので生地にしっかり固定。
ソーラーピザ窯に入れてスイッチをいれる。
ソーラーパネルが太陽光の差し込む場所に向けられ熱線をピザに送る。
わずか数分で焼き上がった。
「ほいできあがり!」
「早いな!!」
「高温調理だからあっという間なんだよ。さらに……」
友達は用意していたチーズを取り出した。
「チーズ? ピザにのせ忘れたのか?」
「いやいや、これは追いチーズ用だよ」
「溶けてないけど……」
「こうやって溶かすのさ!」
友達はチーズを軽く上に放り投げた。
低重力でふわり浮き上がるチーズは差し込む強い太陽熱線に焼かれる。
やがて表面からトロトロと溶け始め、
溶けた部分は重力に引っ張られて落ちてくる。
「ほら、チーズ滝だよ。受け止めて受け止めて!」
「うわわっ!?」
慌てて焼き上がったピザで、溶け落ちてくるチーズを受け止める。
「あはは。面白いでしょ」
「普通に焼けばいいのに」
「これが醍醐味なんだって。あはは」
基地までピザを持ち帰り、椅子に座って晩ごはん。
その頃には月面の塵も定着して星がキレイに見えた。
「すごい……」
圧倒される美しさに美味しいご飯。
最初来たときは大変だったけれど、なんだか贅沢な時間を過ごした気がする。
「ね? キャンプって楽しいでしょ」
「……まあ、魅力はわかったかも」
「素直じゃないなぁ」
食べ終わると月面で記念写真を撮影した。
月面クレーター展望台では、大昔に来た別の惑星の宇宙船跡なんかもあった。
そんなことをしているとあっという間に時間は過ぎて、
月面基地で休んで翌日となった。
基地を片付けてゴミなどもちゃんと回収する。
「それじゃ帰ろうか」
「うん」
衛星鉄道に乗って月面キャンプ場をあとにした。
窓から遠ざかる月はやっぱりキレイだった。
「キャンプ、楽しかったね」
「ああ」
「次はどこのキャンプ場へ行こうか」
友達の言葉に、月から見えた惑星をふと思い出した。
今度はあそこに行きたいと思った
「地球キャンプ場なんてどうかな?
あそこ、水と緑いっぱいの特殊な惑星らしいよ」
「面白そう!」
二匹の火星人たちは鉄道で火星へと帰っていった。
宇宙キャンプ ちびまるフォイ @firestorage
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