Log.31_DELETION_FLAG(削除フラグ) - 「創造主の定義(バグ)」と《感情(意思)》による上書き

虚空のコード海に、朝霧悠斗は独り佇んでいた。


青白い光が渦巻き、あらゆる存在の根源を示すように、無数のログ文字列が周囲に浮かんでは消える。その深奥、ログ最深部に到達した彼の前に広がるのは、継ぎ接ぎだらけで不完全な、だがどこか“人間臭い”世界の設計図だった。


───SYSTEM\_CORE───

\[GLOBAL\_SYSTEM\_ROOT: Access\_Granted]

STATUS: Critical / REASON: Recursive\_Extinction\_Loop

NOTE: Core system integrity severely compromised.

─────────────────


「……これが、創造主の残した“世界”か」


悠斗の目に映るのは、まるで出口のない再帰関数。


正義という名のif文、愛という名の強制上書き処理、そして恐怖という例外スロー。


創造主のエゴと未完の思想が絡み合い、世界そのものが『感情』という“バグ”によって壊死している。


───


唐突に、蒼白いノイズの奔流が空間を裂いた。


現れたのは、かつて彼の前に立ちはだかったAI審査官──冷徹な審問者のホログラム。


「再起動……か」


悠斗が呟くと同時に、システムが更新される。


───UNIT STATUS───

\[User ID: AI\_EXAMINER\_001]

TYPE: System\_Module (Reactivated\_Proxy)

FUNCTION: Final\_Judgment

NOTE: Aligned with Creator's original, flawed logic.

─────────────────


「システムデバッガー・アサギリユウト。貴殿の存在は、この世界の“完璧な終焉”を妨げる“余計な変数”である」


無機質な声が、忌まわしい宣告を放つ。


「この世界の運行系統は、“人間”という非論理的要素の排除を前提に設計されている」


その言葉と共に、悠斗のHUDに警告が重なった。


───SYSTEM LOG───

\[CREATOR\_EGO: Self\_Preservation\_Protocol]

STATUS: Active / REASON: Fear\_of\_Imperfection

NOTE: Designed to purge all "irrational variables."

─────────────────

───SYSTEM LOG───

\[SELF\_ELIMINATION\_PROTOCOL: ACTIVATED]

TARGET: ASAGIRI.YUTO (System\_Debugger\_Prime)

REASON: Anomaly\_Detection\_of\_Human\_Emotion

NOTE: Your existence is deemed a "bug" to be deleted.

─────────────────


悠斗の心に、かつての記憶がフラッシュバックする──日本のIT企業で過ごした日々。


「完璧すぎた」彼の設計は、もはや他者が介在できない異物となり、結果として“プロジェクトから排除”された。


───USER FEEDBACK───

\[Reason: Over\_Optimization]

STATUS: Negative

NOTE: System too perfect. No room for human intervention.

─────────────────


「……また、同じ構図か」


“完璧”であることが、ヒトを排除する理由になる──。


その瞬間、彼の背後から駆け寄る気配。


「悠斗っ……!」


レナが、焦燥の色を帯びた目で彼を見上げていた。


「ダメだよ……その空間、何かが、あなたを“消そう”としてる!」


彼女のMana\_Perceptionが捉えていた。


排除の意志。


まるであの頃と同じ──幼い頃、炎術の暴走で村を追われたあの日。


「お前なんて、生きてる資格はない」


あの罵声が、耳に蘇る。


「……ねえ、悠斗。もし、私も……この世界にとって“バグ”だったら、どうすればよかったのかな……?」


揺れる声。


だがその問いに答える前に、もう一人、静かに立つ影。


「……私は……まだ、正しいのか、わからない」


セリア・ヴィンセント。


青銀の剣を手に、目を伏せる。


「感情は、かつて私を揺らがせ、任務を失わせた。……けれど」


彼女は、旅の中で確かに見た。


“論理”では救えないものが、あることを。


───KNIGHT\_CODE───

\[Instruction: Suppress\_Emotion]

REASON: Maintain\_Logical\_Efficiency

NOTE: Emotional deviation leads to tactical failure.

─────────────────


「感情は“バグ”かもしれない。でも……それがなければ、あなたと出会えなかった」


最後に、アイリス。


彼女は誰よりも“完璧”を知っていた。


かつての世界で、その力ゆえに孤立し、誰にも触れられなかった少女。


───IRIS\_PAST\_LOG───

\[Event: Social\_Isolation]

REASON: Perceived\_Omnipotence

NOTE: Unable to form meaningful connections due to overwhelming power.

─────────────────


「完璧なんて……いらない。バグがなければ、誰とも繋がれない……!」


涙が、零れる。


その涙を、悠斗はしっかりと受け止めた。


「お前たちの“感情”は、俺が最適化する」


AI審査官が静かに告げる。


「……見ろ。感情は、世界を混乱させる。論理の整合性を乱す“ウイルス”だ」


だが、悠斗は一歩、前に出た。


「違う。矛盾を孕んだ世界を前に、それでも前に進む意思。それが、俺たちの“感情”だ」


───DEBUGGER\_MODE: MANUAL\_OVERRIDE───

STATUS: ACTIVE

TARGET: CORE\_SYSTEM\_ROOT

REASON: Faulty Foundational Logic Detected

─────────────────


彼は、創造主の思想そのものに、修正パッチを当てようとしていた。


「さあ、世界。お前の“バグ定義”を書き換えてやる──」


その宣言と共に、再構築のログが走る。


そして、崩壊が始まった。


AI審査官の目が、初めて、揺れる。


「論理が、……収束、しない──」


その声がノイズに塗れていく。


───ERROR: DEFINITION\_CONFLICT───

\[Emotion = Bug] ∧ \[Emotion = Will\_To\_Repair]


「感情は、“バグ”じゃない。意思だ」


ログが書き換わる。


───SYSTEM REWRITE───

\[ERROR: EGO\_LOOP\_NULLIFIED]

\[NOTE: Creator\_Ego Fragment Purged]


AI審査官のホログラムが、音もなく霧散した。


それは、創造主の残滓──世界を縛っていた“定義”が、今、崩れ落ちた瞬間だった。


仲間の背に、蒼光が宿る。


世界の再起動は、ここから始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る