『スキルの裏に潜むバグを直したら、異世界の理まで書き換えられる件』──この世界は、動いている。コードのように。
Log.18_CORE_SHUTDOWN(コアシャットダウン) - マナ吸収装置(バグ)の停止と《創造者(デベロッパー)》の再起動
Log.18_CORE_SHUTDOWN(コアシャットダウン) - マナ吸収装置(バグ)の停止と《創造者(デベロッパー)》の再起動
夜霧深い山間。木々の間から微かに漏れる月光が、湿った地面に規則正しい光の線を描く。悠斗は無言で前進し、DebugViewを通して村の地下深くを覗き込んでいた。その視線は、まるで異世界の深淵にコードを突き刺すようだった。
───OBJECT DATA───
\[Object ID: MANA\_EXTRACTION\_DEVICE]
TYPE: Ancient\_Relic
STATUS: Active / REASON: Continuous\_Mana\_Drain
NOTE: High‑volume resource consumption. Directly linked to terrain instability.
─────────────────
「……この装置か」悠斗は低く呟く。古びた石造に埋め込まれたクリスタルが、微かに脈動しながら濁ったマナの流れを地下に引き込んでいた。DebugViewが警告の赤いゲージを点滅させている。これはもはや深刻な“リソース枯渇”ではなく、“侵食”だ。
ゆっくりと後方へ戻ると、レナとセリアが立っていた。月光に照らされ、二人の顔は引き締まり、恐怖と決意が入り混じっている。
「これが……あの村の生命線だったの? 吸い尽くされていたの……?」
「古代からの遺物と言われているが、間違いない。誰かが設置し、マナを強制的に吸い上げ、その副作用でダンジョンが爆発的に生成されていたんだ」
「では……巫女は知っていたのでは? 村を導くために、あえて知らぬフリをしていたと……?」
悠斗は静かに首を横に振る。
「彼女自身、その“ツール”であり、“装置”の一部にすぎない。DebugViewによれば、彼女の“Disguise\_Protocol”もこの装置のノイズを隠蔽するための機能だ」
───UNIT STATUS───
\[User ID: MIKO\_VILLAGE\_PRIESTESS]
BUG: Disguise\_Protocol (ID: MIK\_007‑G)
REASON: System\_Overload (Unintended\_Side\_Effect)
─────────────────
「System\_Overload」──つまり巫女は、意図して欺いていたのではない。むしろ、この装置と一体化し、自らが信じる“神聖な言葉”は、全て“偽装ログの翻訳”だった。神託は命令であり、信者たちへ投げ込まれた偽の説明だった。
マナ吸い上げ装置から少し距離を取った崖縁にて、三人は緊張の余り無口だったが、レナが小声で問いかける。
「ねぇ……私、前に失敗したことがあって……。学院で演習中、魔力制御が暴走して、みんなに迷惑かけちゃった。あの時……自分のせいで仲間が怪我して……」
顔を覆い隠すレナの耳元に、セリアがそっと寄り添う。
「覚えてますよ。レナは謝ったけれど、私たちはその失敗の向こうに、あなたの努力と優しさを見ていた。あの時から、あなたは一歩一歩、確実に前を向いていた」
レナの目に涙がにじむ。悠斗はその光景を静かに見つめながら、内側から沸き起こる感情を感じていた。
「レナ……その時の失敗は、お前が弱いからじゃない。むしろ、お前の純粋さが、暴走の原因だった。その純粋さこそが、この世界の歪みに“抵抗”できる力だよ」
レナは俯きながら、しかし目元には強い意志の光が宿る。
「……私、やってみます。あの装置を止めるんです。怖いけど、みんなを助けたいです!」
「ええ、私たちと一緒に」
三人の間に、湿った夜霧と呼応する柔らかな絆が生まれた瞬間だった。
悠斗は装置に再び視線を合わせる。DebugViewが赤いエラーを鳴らし、「シェイク」が走っている。
───SHUTDOWN\_PROTOCOL───
METHOD: Core\_Crystal\_Neutralization
REQUIREMENT: High‑level Mana\_Manipulation skill or direct system access
WARNING: Severe mana fluctuations upon shutdown
─────────────────
「クリスタルを中和し、コアをシャットダウンしない限り、このまま村は吸い尽くされ続ける。止めるならここだ」
レナはコアクリスタルを見つめ、吸い込まれるように近づく。巨大な結晶は、チリチリとマナを振り撒きながら震えていた。かすかに「悲鳴」のようなノイズが漏れ出す。
そのノイズに重なるように、どこからともなく巫女の声が背後に響く——断続的で混乱し、まるで崩壊寸前の記憶回路そのものだ。
「秩序を信じよ……闇は……還る……戻らねば……」
その声音は狂気めいた哀しみと得意げな傲慢さが混ざり合っていた。過去のエラーメッセージを村人に擦り付け、彼らを“信仰”させて、自らの崩壊を遅らせていた“痴態”。それはすでに、人間ではなかった。いや、もはや“機械”だった。
悠斗はそっと手を伸ばし、DebugView経由でコアにパッチを当て始める。その瞬間、土地全体がざわめき、木々がざわめくようなマナの地鳴りが響き渡る。装置の光と音が、まるで最後の抗議をあげるように強さを増していく。
「停止…中和…承認」悠斗の声が静かに響くと、コアクリスタルが爆ぜた。爆音ではなく、むしろ「溶裂」と呼ぶに相応しい。マナの奔流がクリスタルを割り、内部から光がほとばしる。
巫女の影が消え、残骸のようにその声も途切れる。「神聖な言葉」は崩れ、空気は深い静寂に包まれる。村人たちに仕掛けられた偽神のカラクリは、もろくも崩れ去った。
周囲にはマナの瘴気が漂い、木の葉が振り落とされるように散り──それでも、空気には浄化のような清冽が満ち始めていた。
悠斗は息をつき、三人はその場に尻もちをついた。DebugViewの表示には、“リソース回復段階”と“System Load Normalizing”の文字が並び、世界が揺り戻しを始めていることを示していた。
◆
夜霧がゆっくりと引き、そこには月光に照らされるクリスタルの破片と、ひび割れた巫女像が転がっていた。かつて“神聖”だった祈祷所は、今や“偽りの神殿”の残骸となっている。
悠斗は三人を見渡し、重苦しい口調ながらも温かさを含む声を投げかけた。
「これで終わりじゃない。これは単なる“バグ対応”の第一歩に過ぎない。根幹には、もっと深い“創造者”の設計と、世界を作り替える“ログ”が潜んでいるはずだ」
レナは手に残る震えを抑え、でも瞳は静かに燃えている。
「次は……もっと深いところへ行きましょう」
「ええ。私たちの戦いは、まだ始まったばかりです」
月光が三人を優しく包み、夜霧はその足元に静かにたなびいていた。風に乗るのは、わずかな残響——まるで、誰かが遠くで“再起動”のトリガーを引いたような、不穏で、でも確かな何かの意志だった。
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