『スキルの裏に潜むバグを直したら、異世界の理まで書き換えられる件』──この世界は、動いている。コードのように。
Log.07_RECONFIG(再構成) - 「騎士の規律(レギュレーション)」と《鑑定者の柔軟(カスタム)》
Log.07_RECONFIG(再構成) - 「騎士の規律(レギュレーション)」と《鑑定者の柔軟(カスタム)》
朝の訓練場には、湿った石畳を打つ金属の音が響いていた。
セリア・ヴィンセントの剣が、正確無比な軌道で空気を裂く。淡い光を反射する刃筋は、まるでプログラム通りに設計されたように美しかった。重心移動、脚の運び、呼吸のタイミング。そのすべてが、“騎士団”の型通りに最適化されている。
だが、朝霧悠斗の眼には、異なる情報が映っていた。
───DEBUG\_VIEW───
\[UNIT: CELIA\_VINCENT]
LV: 18 / HP: 200 / MP: 80
SKILLS: Sword\_Mastery Lv.4 / Shield\_Wall Lv.3 / Divine\_Protection Lv.2
NOTES: High Discipline Detected
BUG: Over\_Emphasis\_on\_Hard\_Combat (ID: CLV\_002-A)
─────────────────
「……バグがある」
ポツリと、悠斗が呟く。
セリアの動きは美しい。しかしそれは、あまりに定型化されすぎていた。柔軟な変化や、臨機応変な思考には向かない。“型”への過信。それが、彼女という戦闘ユニットに潜む構造的な欠陥だった。
「朝霧殿。何か、気づかれたことは?」
セリアは剣を収めながら問いかける。額には汗が滲み、その瞳には真摯な光が宿っていた。
「肘の角度。三度、外に開いてる。振り戻し時に、無駄な慣性が発生してる。だから──三フレーム、回避行動が遅延する」
「……フレーム?」
「感覚じゃなく、論理の話だ。動作の再現性、入力応答、重心移動の時間差──全部数値化できる」
「まるで、訓練場が舞台装置のようですわね」
セリアは小さく苦笑する。
悠斗は続ける。
「あと、ケープの揺れも悪い。風を拾いやすい材質。運動エネルギーが肩に残留して、動き出しが鈍くなる」
「……まさか。そんな装備品ひとつで?」
「騎士団の制服が“儀礼”に最適化されているなら、戦闘ではそれがノイズになる」
セリアは戸惑いながらも、言われた通りにケープを外した。
そして再び剣を振る。
……動きが、まるで違っていた。
「っ……確かに、これは……」
剣が、意志より一瞬早く動いた。足の運びも滑らかで、違和感が消えていた。
「信じられません。ここまで変わるなんて……」
セリアは思わずつぶやいた。
「物理法則は、等しく作用する。だが、最適解は常に“個人仕様”だ」
その言葉は、騎士団で徹底されてきた“共通規範”への痛烈な皮肉でもあった。
---
「昔な……“柔軟に戦う”って言っただけで、剣を叩き折られたことがある」
静かに、悠斗が言った。
セリアが目を向けると、彼は視線を訓練場の地面へ落としていた。
「コードも人間も、“例外処理”が抜けると、壊れる」
それは、彼の世界での“失敗談”なのだろう。
バグを抱えたまま出荷されたシステム。それによって崩壊した何か──そして、取り戻せなかった誰か。
「あなたの剣には、強さがある。ただ……柔らかさも、必要だ」
その言葉は、セリアの心にまっすぐ突き刺さった。
---
「あなたは……冷たい方ですね、朝霧殿」
セリアが唐突に言う。
「……そう見えるか」
「ええ。でも、誰よりも“人”を見ている気がします」
「それは、“システム”として人を見てるって意味かもしれないが」
「どちらにせよ、私にはない視点です」
セリアは剣を収め、ゆっくりと歩み寄る。
「……私は、騎士の教義に縛られてきました。“型”こそが力、秩序こそが正義……そう教えられてきた。けれど、あなたの言葉は、そんな私に“別の正しさ”を突きつけてくる」
悠斗は黙って聞いている。
「朝霧殿の言葉には、重みがあります。それは……命を背負った人の言葉だから。あなたが戦ってきた場所は、私の知らない“現実”なのだと、そう感じます」
「……重いな」
「ええ。でも、信じられる。私は、あなたの“鑑定”を」
---
朝の訓練場に、再び剣の音が響いた。
だが、それはもう“騎士団の型”ではない。
それはセリア・ヴィンセントという一人の剣士が、朝霧悠斗という異端から受け取った、新しい“解”によって構築された、次なるフォームだった。
彼女は信じた。
自分の中にある規律が、完全ではないと。
そして、彼の論理が、決して冷たさだけではないと。
騎士と鑑定者。
二つの矛盾する秩序は、ほんのわずかだが、交差を始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます