第4話 ウン十年ぶりの学校。

 なんとか学校まで辿り着くことができた。校門をくぐったところで、二、三人の生徒が立っている。腕に【風紀委員】という腕章をつけている。


 そのうちの一人の男子生徒が私に気付き、声をかけてきた。


「おはよう、皆野。始業式早々、遅刻ぎりぎりだな」


 青みがかった黒髪に、縁のない眼鏡をつけている。確か見覚えがある。


皆野 真呑奈

「お、おはようー(この人は、確か同じクラスの……)」


国城くにしろ 辰巳たつみ

「おはよう、九条院くじょういん。生徒会長自ら遅刻の取り締まりか。大変だな」


 そうだ! 生徒会長の九条院くじょういん 理仁りひとだ!


九条院くじょういん 理仁りひと

「国城……一緒に登校とは、そんなに仲良しだったのか、君たちは」


 九条院くんが、眼鏡の奥から訝しむような視線を送ってくる。


国城 辰巳

「たまたまそこで会っただけだよ。それより、俺らのクラス、何組だった?」


九条院 理仁

「お前も俺も、同じA組だ。基本的に2年から3年は、持ち上がり形式だからな。

 皆野、お前も同じクラスだ」


皆野 真呑奈

「そうなんだ、ありがとう」


国城 辰巳

「じゃあ、先に教室へ行ってる」


皆野 真呑奈

「あ、待って。私も……(教室の場所、覚えてないし)」


九条院 理仁

「………」


 九条院は、皆野と国城が並んで行くのを、じっと睨むように見つめていた。



 ***



 教室の前まで来たものの…………少し緊張する。


皆野 真呑奈

「(どうしよう、意外と覚えてないもんだなあ。

 今更、女子高生としてやっていけるのか心配になってきた……)」


国城 辰巳

「なに緊張してんだ。2年の時と同じ顔ぶれなんだ、気にするな」


皆野 真呑奈

「えっ、なんでわかるの?!」


国城 辰巳

「顔に出てる。ま、3年もよろしく」


皆野 真呑奈

「う、うん。こちらこそ、よろしくお願いします」


 がらっとドアを開けて、教室の中へ入る。


 遅刻ぎりぎりだった所為もあり、教室の席は、ほとんど埋まっていた。


 ざっと見渡してみたところ、見覚えのある顔ばかりで、名前を思い出せない人は、あまり関わりのなかった少数だけのようだ。


 私は少し安心して、黒板に書かれていた自分の席を探して座った。


 おそらく出席番号順だろう。


「おはよう、真呑奈。また同じクラスだ」


皆野 真呑奈

「瑞樹?! 久しぶりー! 相変わらず男前で、どきっとしちゃった」


 彼女の名前は、伊万里 瑞樹(いまり みずき)。


 ボーイッシュに切った短い髪は、サラサラで、スカートを履いているのを見なければ、男の子みたいに見えるイケメン。


 でも、正真正銘の女の子。私の一番の親友だ。


伊万里 瑞樹

「大げさだなぁ。ついこの間、一緒にクレープ食べたでしょ」


皆野 真呑奈

「……そ、そうだったね。あははー(覚えてないわ~)」


伊万里 瑞樹

「ねぇ。さっき、国城と一緒に入ってきたけど、まさか一緒に登校してきたの?」


皆野 真呑奈

「ああ……ううん、さっきそこで偶然会っただけだよ。 

(説明が面倒だし、話を合わせておいた方がいいよね)」


伊万里 瑞樹

「ふーん……」


 キ~ン、コ~ン、カ~ン、コ~ン♪


担任

「おはよう。皆、席に着けー」


 チャイムが鳴り、担任が教室に入ってきたので、瑞樹は自分の席へと戻っていった。


皆野 真呑奈

「(あれ、3年の担任って、この先生だったっけ?)」


担任

「みんな揃ってるかー? まぁ、始業式早々遅刻するやつなんていない…」


 その時、ばんっと大きな音を立てて教室のドアが開いた。


「やっべー! ぎりぎりセーフ!」


 入って来たのは、茶髪のつんつんヘアーをした、やんちゃそうなイケメン。


担任

「アウトだ、乾(いぬい)。チャイム鳴っただろう。お前は今日一日、日直な」


皆野 真呑奈

「(悠眞ゆうま……相変わらずだなぁ)」


いぬい 悠眞ゆうま

「えーっ! めちゃくちゃがんばって走って来たのに……そりゃないっすよ~」


担任

「あほぅ。がんばるところが違う。お前は、もっと早く起きることをがんばれ」


 教室中から笑い声が上がる。


 悠眞は、ちぇっと頭をかきながら席に着いた。


担任

「よし、それじゃあ始業式の前に、HRを行うぞ。

 まずは、転入生の紹介からだ。……入ってきなさい」


 教室の前のドアが開いて、一人の男子生徒が入ってくる。


「………」


 少しウェーブのかかった黒髪が肩まで伸びている。チョコレート色の肌、一目で日本人ではないと分かる。


担任

「自己紹介して」


カァディル=アフマーン

「はじめまして。カァディル=アフマーンと申します。アムル王国から来ました」


カァディル=アフマーン

「日本語は、あまり上手ではありません。日本のこと、皆さんのこと、イロイロ教えてください」


皆野 真呑奈

「(そういえば、いたなぁ。海外からの留学生なんて物珍しいのに、あまりにも陰が薄くて、すっかり忘れてたわ)」


 転校生くんは、静かに担任から指示された空席に座った。


担任

「よし、じゃあ出席を取るぞ」


 順に生徒の名前を読み上げ、生徒がそれに答えていく。


 途中までは順調だったが、ある一人の生徒の名前を呼んだ時、返答がなかった。


担任

白金しろがね りょう。……なんだ、遅刻か」


乾 悠眞

「先生っ! それじゃあ、俺がいつも遅刻してるみたいじゃないですか」


担任

「事実だろう」


乾 悠眞

「うぐっ」


乾 悠眞

「そんなには……遅刻してないと思うんだけどなー………」


 担任は、悠眞の言葉が聞こえなかったふりをして出席を再開した。



 ***



乾 悠眞

「おい、真呑奈!」


 HRが終わり、始業式を行うため体育館へ移動していると、悠眞が私に話しかけてきた。


乾 悠眞

「お前、今朝はなんで先に学校行っちまったんだよ。その所為で俺が遅刻したんだからな」


皆野 真呑奈

「え、私の所為? もしかして、何か約束してた??」


乾 悠眞

「いや、別に約束なんてしちゃいねーけど……いつも俺の家に寄ってから一緒に登校してただろう。今日に限ってなんで先に行くかなー」


皆野 真呑奈

「ああ、そう言えば……」


乾 悠眞

「そう言えばって! 忘れてたのかよっ!」


皆野 真呑奈

「うん。そんな何十年も前のこと覚えてないわよ」


乾 悠眞

「一ヶ月だろ! お前の春休み、どんだけ長ぇーんだよっ」


伊万里 瑞樹

「まーたお二人さん、新学期早々、痴話げんか? ほんと仲がよろしいことで」


皆野 真呑奈

「ただの幼馴染みよ」


乾 悠眞

「ただの幼馴染みだ」


皆野 真呑奈

「(悠眞って昔から朝が苦手なのよねぇ)」


皆野 真呑奈

「悠眞……」


★選択肢2★

♡「仕方ない、明日からは迎えに行ってあげる」⇒選択肢2-①へ。

♡「それくらい自分で起きなさい」⇒選択肢2-②へ。


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