039 メーフィの力
「ああもう!こうなったら異世界人だろうとプリズマイトだろうと関係ないわ!結局のところあんたらが邪魔にならなきゃいいのよ!」
「見てなさい!その内あいつが来て、あんたらなんか眠らせてザックリやっちゃうんだから!」
「かかってこいよ。言わなくてもわかるかもしれないが、俺も同じ轍を踏むつもりは無い。」
メーフィが魔法陣を一杯に広げる、どうやらあっちも本気みたいだ。勿論あの詠唱を阻止したいが、コツコツ増やされたゴブリンとオーク、巨大なスライムが邪魔くさい。あいつが召喚に夢中な今なら……。
「イメージするのは氷、吹き飛ぶ礫。あんたの召喚魔法は使わせない!」
「させません!」
「残念ながらあんた達は間に合わないよ、この将来の四天王たる私の詠唱のスピードに…………は?」
剣に魔力を込めようとしたところでマリが俺に当たらないように前に出て、ビームで魔物の群れを薙ぎ払う。
…………そこに生命のいた跡が残るくらい、命焼き尽くすくらいの熱線。召喚魔法を試みていたメーフィは呆然としてぺたんと座り込んでいた。
「あなた様、均衡となる魔物たちは焼き払いました!今こそ好機、剣をお振いください!」
「……………………あんたのそれ、……なに?」
座り込んでいたメーフィが立ち上がり震えた声で問いただす。……なにか様子がおかしい。最大限の警戒を敷き、彼女の言葉に耳を傾ける。
「あんたのその光線、私は確かに見た。あの日、私たち家族を焼き払った…………。」
「ハハハハハ!わかった!わかったわ!なんで異世界人と騎士団長は任せといてこいつはノータッチにさせたのか!二人捕まえたって言ってたのに一人しか連れてこなかったのか!」
「マリ、こいつのこと見たことあるか?」
「…………いえ、私も何がなんだか……?」
「あなた。いや、あなた達ね!私の父様と母様を殺したのは!」
「もう良いわ!どうせこの迷宮も必要ない。あんたら……いや、ここにいる人間全員!まとめて宙の塵にしてやる!」
恐ろしい速度で迷宮全体に亀裂が走り、赤い光が妖しく漏れる。ガリガリと岩が削れる音が当たりそこら中に鳴り響き、次の壁は剥離していく。
「言ったでしょ!私は魔王軍幹部にして次期四天王候補、星月夜のメーフィって!この迷宮全体を空には打ち上げることだって難しいことじゃないんだから!」
「……メーフィ?それは、姫様の…………。」
「…………!」
「伏せろ、マリ!こいつ、このまま迷宮全体を高速で浮かび上げるつもりだ!」
「浮かび上がらせる?そんな生半可なものじゃないわ。これであんたら全員振り落とすのよ!」
高速エレベーターでも感じたことのない、地に張り付けられるような感覚。土が崩れ、地表は割れ、いよいよ茜色の空が見える。いよいよ体は宙に舞う。俺たちは吹き飛ばされたんだ……!
くそっ!自分一人なら助かる術はあるが、ここにいるマリに、迷宮内にいた色んな人たちも飛ばされているのが見える。このままじゃ皆……!
…………?体に浮力が乗っかったような……落下のペースがゆっくりになってくる。
「我は風の大精霊、シルフの巫女。人類の、そして我の愛した村の為、今我にその力貸し与えよ!」
「あれは……シラフジ様!」
白藤さんか!たしかシルフの巫女って言ってたっけか。気流を操って落下速度を緩めてくれたんだな。こうなれば対処すべき点は一つだけ。
「死に晒しなさい、マリ・プリズマイト!お前たち一族の罪、継承せんとするその意地汚なさ!地獄で悔やみ続けるんだ!」
「はぁ…………グレンといい、お前といい。魔王軍ってのは事情があるらしいことばかり言うくせに、一方的にやりたい放題やりやがって……なら、こっちだってあんたを踏み躙ることに異論は無いよなぁ!」
「……この私にっ!」
こっちに向かってくるメーフィに幾つか風の斬撃をお見舞いしてやる。あいつは宙に浮かぶことができるみたいだから、こっちに基本的に勝ち目はない。今のうちは追い払い続けるしかないだろう。
時間を稼ぎ続けて、地表に降り立つ。他の人たちは…………良かった、無事みたいだ。騎士団長に白藤さん、遠くにはレイシャと……知らない薄紫の人もいるな。マリも……少し驚いたみたいだが立てそうだな。
「…………よく時間を稼いでくれたわね、異世界人。お仲間さんが大事みたいだけど、最後までこの私から守りきれるのかしら?」
「改めて挨拶してあげるわ。魔王軍幹部であり、王国への叛逆者。星月夜のメーフィよ。覚えて死になさい。」
身の毛もよだつような威圧感、魔法陣からサーベルを取り出して、ゆらりゆらと揺れながら佇む。これは殺気だ、純然たる殺気。グレンとは違う、本気で俺たちを殺そうとする気概を感じる。
騎士団長たちが助太刀にとこっちに走る。一見こっちが有利な状況だけど、たぶんここは正念場だ。風を魔剣に纏わせ、構える。
お互い、動き出すタイミングは同時。魔剣とサーベルが勢いよくぶつかり合う。今、最重要である戦いの火蓋は切られた。
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