014 馬車に揺られて

「ガープス様は20年もの間騎士団長としてリベルテを率いてきたお方なんです。ただ……若い冒険者様に突然襲いかかって腕前を試すのは……どうかと……。」


「そういうわけにはいかねえな。ワシももう年だ、あとどれだけ生きられるかも分からねえくらいのな。」

「いい加減後釜を探すべきだって王様に言われたんで物色してるわけだ、止めてくれるなよ。」


「いややり方もう少しあるだろ!」


 今朝待ち伏せして俺に襲いかかってきたのはマリが説明してくれたとおりの大御所だったらしい。こんな白昼堂々暗殺をしに来ているとまでは思ってなかったが、騎士団長って……。もはや通り魔とかの方が適切だろ。


 なにやら重要な用事みたいで近い距離であるにも関わらず馬車を使って移動することになっていた。初めて乗ったが意外にも悪くない乗り心地だ。


「それで、どうして王様が私たちなんかを呼んだの?正直私たちに依頼ってのは人選ミスじゃないかな?」


「依頼もなにも、もうお前たちにはこちらの想定以上の働きをしてもらったばかりだ。ワシからすれば十分お前たちは十分に期待できる実力を持っているとも。」

「で、どうしてって話だったな嬢ちゃん?どうやらお前ら異世界人に用があるらしくってな。ついでに依頼の礼ってことで料理も出そうって話だが……。」


 へえ、そんなものまで出してくれるのか。馬車を使ったことといい随分と歓迎されているな。


「…………私は、遠慮しておきます。」


 沈んだ顔でマリは呟いた。王様のことで何かあったのか?


「色々出るらしいぞ、良いのか?王様が出す料理とかあるらしいが。」


「……城内に図書館がありましたよね?そこで本でも読んでいますね。お二方様は私のことは気にせず楽しんでください。」


 気を使って……という感じというよりはまるでそこに行くことそのものが辛そうな面持ち。佳澄は不満げだが別れて行動するのが彼女のためか。


「わかった。マリが良いのならそういう形で、俺たちだけで話を聞いてこよう。昼食は別々になるかもしれないから、何か食べておいてくれ。」


「お気遣いありがとうございます。」


 マリは申し訳なさそうにぺこりとお辞儀をした。なにがあったのかは……あいつが話したくなったら聞けば良いか。


「……そろそろ着くか。よし、お前ら降りる準備しな!大した荷物も無いだろうけどな。」


 窓の外を見ると、そこにあったのは純白の城。青空に背に聳え立つ巨大な城。

 

 ……確証は無いが、馬車から見た城の画角に見覚えがあり、気味が悪かった。


 ♦︎


「騎士団長様!もう戻られましたか。彼らの腕前はどうでしたか?」


「盾の方はまだだが、もう片方は骨のある奴だった。騎士団向きのやり方じゃないのが惜しいが、あれならお嬢様の護衛として十分な戦力になるだろう。」

「ところで王様はどこに?玉座で大人しく待ってるようなタマじゃないだろう?」


 マリと別れて城に入ってから、ゾロゾロと騎士団と思われる人が押しかけてきた。初対面の時点では想像できなかったが、随分と信頼されてるみたいだ。

 ただ……お嬢様って、偉い人の警護でも頼もうとしてるのか?異世界人だっていうのが関係してるんだとしたら、レイシャが秘密にさせたことも的外れではなかっただろうな。


「君が探してる王様ならここに。はじめまして、かな?」


 奥にある扉から歩いてきたのは王と呼ぶにはまだ若い、それも俺たちよりも若い、15歳くらいの空のような青い髪の少年。


「リベルテの若年王こと、クロノ・マルフィーレ。以後お見知りおきを。」

 

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