第6話
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領地の農業改革にも励んだ。
優しい夫と、周りが驚くほどスポンと産まれてきた小さな息子がいつも一緒だ。
わが国ではまだ広まっていないマンダリンという皮の薄いオレンジを植えた。
ワインの一件からお世話になっている輸入業者に頼んで、東方のカラという国から仕入れた苗木だ。
別に未来が見えたわけではない、
夫が私のために、オレンジを慣れない手つきで剥いた時、指を切ってしまった事を思い出したからだ。
広い畑が作れない山がちな領地、
温暖で日当たりだけは良い。
そしてこれはナイショだけど、
聖女の力で、苗木はかなり早く成長する。
指で皮が剥ける小さなオレンジは領地の特産品になった。
たわわに実るオレンジ畑を見下ろして、
息子が突然言い出した。
「僕は、
お母さんから生まれてきたかったんだよ。」
「あら、ありがとう」
「僕はね、この世界に来た時
最初間違えちゃったんだ、
自分で作った世界なのにね。
でもどうしてもお母さんから生まれてきたかったんだよ。」
私はじっと息子の顔を見た。
「あなたが鵜p主だったの?」
「あっちの世界からの生まれ変わりだけどね。」
「何を喋っているんだ?」
「うん、僕はお母さんの子供で良かったってこと。」
「当たり前だ、お母さんは世界で一番強くて優しい人なんだぞ、
だからそんなお母さんのことが、お父さんは大好きなんだ。」
ハッとして、顔を見ると、彼は私を見て少し照れたように笑っていた。
口数の少ない夫から、はっきり“好き”という言葉を聞いたのは初めてのような気がする。
嘘でしょう?
涙が溢れてきた。
「お母さんも、大好きよ、
お父さんも、あなたのことも。」
いつも一緒だから気にも留めなかったけど、
そうか、
いつのまにか私は夫に恋をしていたんだ。
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