クラスイベント

修学旅行が終わって二週間後のLHR、教室の空気は明らかに違っていた。

みんなソワソワしている。

どこか浮かれている。


そう、今日は席替えの日。


教室の前に立つ担任の先生が、にやりと意味ありげに口元をゆがめる。

「はい〜今日はみんな大好きな席替えしますよ〜」

\ うおおおおおおお!!! /

教室中から歓声があがった。

壮太はというと、心の中でこう叫んでいた。


「来た……!この瞬間を俺は待っていた……!」

「アフロディテよ……どうか俺に、チャンスを……!」


「それでは、今回はクジでいきまーす!引いた番号でその席ね!」


小さな箱が教卓の上に置かれ、名前を呼ばれた生徒から順に前へ出てくる。


「頼む……近くでなくてもいい……話せる距離、せめて視界の中……!」


「深山君?」「深山君?」先生は二度彼の名前を呼んだ。「ごめんなさい、少しぼーっとしてました。」咄嗟に嘘をついた。「なーんだ、返事してないからいないと思ったよ、夜は早く寝なさいね!」先生は冗談混じりに注意をした。


「危ない、危ない、なんとかバレずに済んだ」そう思いながら教卓へ向かった。


握ったクジを開く手が震える。


【21番】


壮太はほっとした。とりあえず教卓の前じゃない。

窓際の一番後ろの列である。あまり授業中、先生に指名されにくい場所だ。

「まあまあ……悪くは……いや、むしろこれはラッキー……?」


しかし問題はここからだ。

愛美は――どこだ?

回ってきた座席表と黒板を確認する。


彼女が引いた番号は【8番】。


前の方の、ど真ん中。

しかも、陽キャの金田俊(かねだ しゅん)が隣だった。


「終わった……」

「前より距離できてるじゃん……」


机を運ぶガタガタという音の中で、壮太はその席順表を見つめていた。

望んでいた“近さ”は手に入らず。

いや、前よりも悪化していた。


「……アフロディテは俺を見放した」


だが、心のどこかで――彼はまだ諦めていなかった。

「距離が離れても、気持ちまで離れるわけじゃない。次の作戦を考えないと」彼はそう思いながら帰りの会に臨んだ。

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