第6話 ヨッシーさん
まあとにかく、こうして知らない人と平和に話せてるんだから良いことずくめ――
「ねえねえ、思ったんだけどさ、通話もいいけど会った方が早くない?」
「え、なにが?」
「相性とか確認したいでしょ? 画面越しよりリアルが一番じゃん?」
「いや、別に俺はそういうのは……」
「ね、今週ヒマ? カフェでも映画でもいいよ! あと、ちょっと気になるブランドのバッグがあるから一緒に見たいって思っててね」
このパターンかい! 完全に出会い系じゃん!
「あ、明日早いから、そろそろ寝ます! ユキピさん、ありがとうございました!」
「えっ、ちょっと待って! ムックさん、良かったら会員登録してほしいサイトがあるんだけど――」
「それではまたー!」
どこが平和なんだ! 最後完全に騙す気だったし!
「はあ……」
通話を切ったけど、お礼のDMは送らないでおく。リプでまた会員登録を勧められても困るし……。
「あれ、もう一通来てる」
可愛い猫の写真をアイコンにしてるアカウントからDMが送られてきている。さっきの俺の投稿で興味を持ってくれた人がいるのかもしれない。実際、投稿すると、毎回一件はDMが来るしな。我ながら自分の人気に感心してしまう。
相手の人は、ヨッシーさんという女子だった。俺と同じ高二らしい。
【はじめまして。サンプルボイス聴かせていただきましたけど、すごく素敵な声ですね! ぜひ通話してみたいです。普段学校ではなかなか本音で話せることが少ないので、もし仲良くなれたら、悩みとか色々話せるようになりたいなと思ってます】
なんか、すごく真面目で好印象な人だなあ。よし、まだ時間あるし、これからこの人と話してみよう。
俺は【今からでも大丈夫ですか?】と連絡をする。ヨッシーさんも寝る準備をするということで、五分後から繋ぐことになった。
少し緊張しながらアプリの通話ボタンを押すと、数コールして、彼女の声が聞こえた。
「あ、もしもし、ヨッシーさんですか?」
「は、はい、そうです。ムックさんですよね、こんばんは」
「こんばんは。DMありがとうございました」
キンキン声すぎず、落ち着いていて聞き取りやすい、とても耳障りの良い声。そのことを伝えようとすると、先に彼女の方が口を開いた。
「ホントに……カッコいい声ですね」
「え、あ、ありがとうございます」
音声だけとはいえ、こんな風に真正面から褒められるとやっぱり照れてしまう。
さて、何から話そうか。話が上手い人は、いきなりすべらない話を出したりすることもあるみたいだけど、そんな特技はない。というか、会話ができれば十分楽しい。
「ヨッシーさん、今日はもう寝られるんですか? 宿題とか終わりました?」
「はい、全部終わりました。予習もしたし」
「すごい、予習してるんですね! 俺、宿題とテスト勉強で手一杯です。予習ってどんなことするんですか?」
「今日は数学だったんで、
「分かります。俺も数学苦手で文系に進んだタイプです。逆に得意科目って何ですか?」
ほら、こんな普通の話でもどんどん広がるし、色々な人の話を聞いてるのも面白い。俺自身が面白いタイプでも博識なタイプでもないから、こうやって手の届く範囲の会話をするのが合っていた。
話題が変わると、どんどん相手のことを知れるし、相性も分かる。声だけとは言え、やっぱり人によって話しやすい、話しにくいはあって、ヨッシーさんはかなり話しやすいタイプだ。しかも、ユキピさんみたいに出会い目的でもなさそう。
彼女も同じように思ってくれたみたいで、次々と話題を出してくれる。学校でも中心にいるタイプなのか、話も上手だ。俺は相槌を打ちながら、彼女の話に聞き入っていた。
「……で、そしたら友達が『私、やっぱりこのチョコにしようかな』って言いだして。このままだと私が買えないと思って、咄嗟に『そういえばこのアイス、すっごくオススメだよ』って勧めたんですよ」
「あ、その作戦、ナイスですね!」
俺の相槌に、彼女は嬉しそうに「ですよね!」と返してくれた。
「もう案件で紹介してるユーチューバーくらいの勢いでプレゼンしてアイスに乗り換えてもらったんです。それで無事にチョコをゲットしました!」
「やりましたね! そのときのヨッシーさんの話聞いたら俺もすぐにそのアイス買っちゃいそうです」
「ふふっ、ムックさんって聞き上手ですね。ついいっぱい話しちゃう」
「いやいや、ヨッシーさんの話が上手だからですよ。幾らでも聞きたいですもん」
お返しに彼女のことも褒めると、彼女は楽しそうに「嬉しいです」と返事してくれた。
こんな風に、#つわぼは結構相手に素直な気持ちを伝えることができて、それも魅力の一つだ。対面で会うわけじゃないから、普段なら言えないような前向きな言葉も言えてしまう。俺もはじめのうちは恥ずかしかったけど、次第に慣れてきた。
と、彼女は急に「はーあ」と小さく溜息を吐いた。
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