第17話 お風呂とケガ

「あの、こっちこそ急にDMしちゃってごめんなさい」

「いやいや、嬉しいよ。さっきまでさ、#つわぼして別の人と話してたんだけど、あんまり話が弾まなかったというか、悩み相談ばっかりされてたというか……」


 そう話すと、いったん通話口からの声が止まる。


「ふうん……それって、女の子ですか?」

「え? うん、そうだけど」

「そっか……そうなんですね」


 どうしたんだろう、めちゃくちゃテンション下がってるけど。


「だから、ヨッシーさんと話したいと思ってたんだよね」

「え……ホントですか?」


「ホントだよ。DM来て嬉しかったし」

「そっか、なら良かったです!」


 一気にテンションが上がって元に戻る。えっ、これってもしかして……妬いてる……?


 まさかな、そんなことないよな。


「ヨッシーさん、今日は忙しかったんだね」

「そうですね、別にたくさん予定があったってわけじゃないんですけど、実はちょっと長めにお風呂入ってて」

「そ、そうなんだ……お風呂ね」



 さっきまで「別人格として話せる」なんて言っていた自分を叩きたい。


 ヨッシーさんから「お風呂」という単語が出た瞬間に、ヨッシーさん=桜さんと完全にリンクして、桜さんがお風呂に入ってるシーンが頭に浮かんでしまった。


 いや、これは不可抗力だよ! だってそりゃ想像しちゃうでしょ! クラスメイトの女子がお風呂の話題出して想像しないで過ごせる男子高校生が何人いるのよ!


 髪を洗ったとしたら、やっぱりお湯に浸からないように束ねて入ってるのかな……でも個人的には今のセミロングのヘアスタイルが分かる感じで入ってほしい……。


 浴槽は白かな、だとしたら白に明るい茶髪の色が映えそうだ。お湯にずっと入ってると、ぱっちりした綺麗な目もとろんとしてきて、ピンク色の唇は熱を帯びてよりピンクになって……


 待てよ、最近は半身浴してる人も多いって聞くぞ? は、半身浴! 上半身が露わになった状態で……それはヤバい! 見てるこっちが耐えられない!


 落ち着け、お前は何も見てない。妄想の中で桜さんのお風呂シーンを完全に再現しているお前が一番ヤバいんだぞ。




「あの、ムックさん、大丈夫ですか?」

「えっ、あっ、はい、なんとか!」


 完全に意識が別の世界に行っていたところを桜さん、否、ヨッシーさんに呼び戻される。


「実は、左足をくじいちゃったんですよね」

「えっ、大丈夫?」


「うん、それで、長めにお風呂に入ってケアしたりしてたんです。病院が長引く可能性もあったんで『夜繋げないかも』って送ってたんですけど、軽傷だったんで連絡しました!」

「そっか、早く治るといいね。ヨッシーさん、陸上部でケガしちゃったの?」


「そうなんですよ、走ってる途中にグキッてやっちゃって」

「うわあ、聞いてるだけで痛い……。あの、大会近いって言ってたよね? 大丈夫なの?」


 本気で心配して尋ねると、彼女は少し明るい声で「大丈夫です」と答えた。


「軽症だから、安静にしてれば三、四日あれば治るだろうって保健室の先生にはお医者さんに言われました。県大会は来週末なんで間に合いそうです」

「それなら良かった。無理しないでね」

「ありがとうございます! 歩くときも左足ケアしながら歩きますね」


 普段頑張ってる桜さんには、万全の状態で大会に臨んでほしい。そういう想いが、正体を隠した本音になって口から零れる。



「はあ、同じ学校なら移動教室の時とかにサポートしてあげられるのに残念だな」

「ええっ! もしそうだったら、どんなサポートしてくれるんです?」

「なんか、荷物持ったりとか……階段で大変なら俺の肩貸してあげてもいいし」


 自分でも恥ずかしいことを言ってるのは分かってる。それでも口に出せてしまうのは、顔を見ずに通話してるからだろう。


 ヨッシーさんは、しばらく黙った後、俺の駆け引きに乗るように、「ふふっ」と照れた笑い声を漏らした。


「そんなことしてもらったら喜んじゃいますよ……?」

「うん、喜んでもらえるなら嬉しいですよ」


 うわー! うわあああ! 何これ、何この会話! 幸せが過ぎる!


 俺は完全に好意を全面に出したわけですよ。それに乗っかって「喜んじゃいますよ?」なんて言われたら、もうヤバすぎるって!


 え、これは何? もう通話では両想いも同然じゃない? しかもこの人、クラスメイトなんですよ! でも明かせないんだけどね!


 そう、絶対に言えない。バレた瞬間に、桜さんはもう俺と通話してくれなくなるだろうし、クラスでも話してもらえなくなるだろう。こんなに距離が近いのに正体を明かせないのは辛いけど、現状ではバレる心配の方が大きかった。


「ムックさん、同じクラスにいたら本当に助けてくれそうですよね」

「もちろん助けるよ! ヨッシーさんとは仲良しだしね!」

「そうですね、仲良しです」


 クスクスと聞こえる彼女の笑い声に、俺の心臓はどんどん鼓動が速くなる。お互いに仲良しって確認しあう、この関係がなんだかぎこちなくて、すごく愛おしくなる。


 ああ、いっそ訊きたい! 「俺たちってどんな関係なのかな? ただの通話仲間?」「俺のことどう思ってるの?」とか訊いてみたい! そこまでする勇気はないけどさ。

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