雨降り町の物語

黒本聖南

雨降り町の屋上にて 前

 雨降り町に連れてこられて数日が経つ。


 エリス・シェフィールドは寝起きをしている建物の屋上へと侵入し、赤いキャミソールワンピースと肩までの真っ白な髪が濡れるのも構わずに、仰向けに寝転んで雨に打たれていた。

 彼女は靴も靴下も履いておらず、素足。多少汚れてしまっているが、傷などはできていないようだ。

 暗い灰色の空からは雨が絶え間なく降り注ぐ。雨は彼女を濡らし、体温を容赦なく奪っていくが、彼女はその場から離れることはしなかった。

 白い肌がどんどん白くなる。薔薇色の唇が紫色に変化していく。それでもエリスはどこにも行かず──自分を呼ぶ声を無視していた。


『エリス!』

「……」

『エリス!』

「……」

『エーリース!』


 一応、彼女のいる屋上には扉がある。本来であれば、管理人から受け取る鍵を使い扉を開け、そこから入ることが望ましいが、エリスは窓枠からジャンプして侵入した。


 そして、彼女を探す者も、正規の方法で入りはしなかった。

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