第21話 決戦は明日!

「俺らで家事はやるからよ、姉貴はまぁ勉強頑張れよ」

家に帰ると、珍しくかいが台所に立っている。

「そうだよ、成績でなんか勝負するんでしょ?」

海二かいじは洗濯物の山に埋もれそうにながら、畳んでいるようだ。

「何で知ってるの?!」

こう兄ちゃんから頼まれたんだよ、家事分担してやってほしいって」

「さすが航平・・・」

ここまで手を回しているとは…さすがは航平だ。

「みんなありがとうね。もうやるしかないな」

ここまで協力してもらってやらないわけにはいかない。

弟たちの生活もかかっているのだ。

「なんかどういう勝負なのかとか詳しく知らないけどよ、絶対勝てよ」

「もちろん!頑張るよ」

「まぁ飯食ってからな」

「うん、ありがとう」

海の頭を撫でると、「ふん」と温かな炒飯が差し出された。

海生かいせいも海にいのお手伝いしたんだよ」

「海生もありがと。じゃあご飯食べて勉強頑張るわ」


チチチチチ・・・

時計を見ると、2時を指している。

航平に言われた課題をやっていると、あっという間にこの時間だ。

弟たちの寝息が聞こえる。


弟たちとの生活も大事だし、青波あおばもいい人だ。

それなのに航平のことが気になる自分もいる。

いつかこの答えを出さなければいけないのだろう。

カラカラと窓を開けると、星空が見える。

「赤い・・・」

月が今日は赤い。

そろそろ寝ないと明日起きれそうにない。

勉強道具を片付けていると、スマホが震えた。


「航平・・・」


“早く寝ないとダメだよ”というメッセージと赤い月の写真が送られてきた。

なんで航平は全部わかっちゃうんだろう。

“今から寝るよ。おやすみ”

それだけ送って、布団に転がった。


今日は天気もいい。

洗濯物をしたらすぐ乾くだろう。

海二は洗濯してくれているだろうか。

なぎさ?集中してないでしょ?」

航平が眉間に皺をよせながら、からかうように「もう」と言った。

「ごめん、ごめん」

「家のことは海たちに任せて大丈夫だよ。ほら、明後日にはテストなんだから、この土日が勝負だからね?」

「うん、頑張る」

今日は最後の追い込みで航平と図書館に来た。

家では家事を弟たちにしてもらって、学校では休み時間も航平に勉強を教えてもらっている。

そのおかげでだいぶ理解は深まった気がする。

そして勉強だけでなく、今回のことでわかったことがある。

弟たちは結構家事ができるのだ。

海里かいり海斗かいとも皿洗いや洗濯物を干すくらいはできるし、海生も物によるが洗濯物を畳むくらいはできる。

家事を教えて事はなかったはずなのに、私の動きを見てやり方を覚えたらしかった。

弟たちはまだ子供だからと自分一人でやらないと思い込みすぎていたのかもしれない。


「うん、よくできてるね」

航平から褒められるが、学年1位に勝負できるかと言われたら自信がない。

「こんなんで大丈夫かな・・・」

「正直入試問題みたいに範囲が膨大なら勝つのは難しいと思う」

「そうだよね・・・」

「でも今回は違う。今回はあくまでも期末試験。範囲が決まってるんだ。だから勝機はある!」

「そうかなぁ」

「ここまで勉強した内容が理解できていれば、期末試験は絶対解けるはずだよ」

「そう?」

「そうだよ、僕を信じられない?」

私が首を横にふると、航平は笑って、「さぁもうひと頑張りしよう」とポンポンと私の頭を叩いた。


そこからもうしばらく数学の問題と格闘していると、気づけば図書館の閉館時間になっていた。

「じゃあ、また」

「明日もここに9時に集合しよう」

「うん」

手を振り合って別れると、撫でられた頭にそっと自分で触れてみる。

顔が赤くなっているのが自分でもわかる。

(何やってんだろ・・)

航平のことを頭から消すようにぷるぷる頭を振ると、すーっと高級車が隣に停まった。


「渚さん」

久遠くおんくん」

青波がにこっと笑って手招きをしている。

「どうしたの?」

「お渡ししたいものがありまして」

青波は照れくさそうにしながら、そっと紙の束を差し出した。

「これは僕が考えた今回の期末試験の予想問題です」

「これ久遠くんが作ったの?」

各科目数枚ずつ予想問題があり、作るのには相当時間がかかったはずだ。

「はい。こんな勝負になったのは、半分僕のせいですから」

青波の顔をみると、目の下にクマがあるように見える。

「寝ずに作ったの・・・?」

「いや、そんなことないです!ぐ、ぐっすり寝てます!」

「・・・ありがとうね」

「はい」

本当は車で送りたいけどバレたらいけないからと寂し気に窓をしめると、青波を乗せた車は去っていった。


トクン・・・


自分の心臓の速度がほんの少し早くなった気がした。



「いよいよか・・・!」

朝目覚めてカーテンを開くと、快晴だ。

今日はテスト当日だ。

ここまでやれるだけのことはやってきた。あとは運を天に任せ、神に祈るのみだ。

「お姉ちゃん、手を出して」

振り返ると、海斗、海里、海生が嬉しそうにニヤニヤ笑っている。

「なにー?」

そういって手を差し出すと、その上に折り紙で作ったお守りがのっていた。

赤、青、黄色、それぞれの好きな色だ。

「お守り?これ作ってくれたの?」

「うん!」

「海生のが一番うまいの」

「そんなことないよ!僕だって・・・」

「どれもぜーんぶ上手だよ。すごく嬉しい。姉ちゃんこれだけで頑張れそうだもん」

やったと嬉しそうに3人は笑って、照れている。

「姉貴、これ」

海がぶっきらぼうにお弁当を渡してきた。

「海が作ってくれたの?」

「海二も一緒にだ」

「海二も海もありがとう」

「お姉ちゃん、頑張ってね」

「うん!」

この勝負に負けたらきっとがくは青波と別れるように言うだろう。

でも今婚約を破棄するわけにはいかない。

生活がかかっているのだ。

「頑張って来る!」

弟たちにそう告げると、私は大きく息を吸って家を出た。

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