第17話 バレてしまった秘密と転校生
「家族ってどういう意味なの?」
家に着くと、これまでのことすべてを話した。
「・・・そういうわけで
静かな沈黙がしばらく続き、「わかった」と一言だけ残して、航平は帰って行った。
「はぁぁぁ」
思わずため息がでる。
視線を感じて振り返ると、隣の部屋にいた弟たちが心配そうにこちらを見ている。
「大丈夫だよ」
「ケンカしてないよ」
(むしろケンカできたらいいんだけど・・・)
航平のあの態度は相当怒っているように感じた。
もしかしたらお金のために婚約なんてと嫌われてしまったのかもしれない。
航平は真っすぐで真面目、優しい。
そして、潔癖なタイプだ。
嫌われてもおかしくはない。
航平に嫌われたかもと思うと、胸の奥が痛くなってくる。
落ち込んでいてもやるべきことは変わらない。
もうお昼だ。そうめんでもゆでようと台所に立った。
翌日、学校に行くとすでに航平は席に座っていた。
本を読んでいるようだ。
航平が読書なんて珍しいなと思いながら、ドキドキしつつ「おはよう」と声をかけた。
「おはよう」
確かに返事は返ってきたが、こちらを見ることもなく視線は本に向いたままだ。
「ど、読書なんて珍しいね。おもしろいの?」
「・・・あぁ」
声は低く、素っ気ない。明らかにこちらと会話したくないという態度だ。
自分が選んだ道だ。
実際に生活を支援してもらったおかげで我が家の生活は楽になった。
弟たちの進学の高校までは行かせるめども立った。
この選択は間違ってない。
そう思うのに、苦しくて涙が出そうになる。
顔を伏せて、窓の方を見た。
今日も雲一つない青空だ。
「ばか・・・」
誰にも聞こえない声で小さくつぶやいた。
翌日も航平の態度は変わらなかった。
こちらをちらりとも見ることはない。
あの優しい笑顔を向けてくれることもない。
なんだか息苦しくて、お昼ご飯を食べる気にもならず、昼休みは校舎裏の木陰でぼんやりと過ごすことにした。
木陰とはいえ、かなり暑い。
「干物になりそう」
「それは困ります」
え?と振り返ると、青波が立っていた。
「これ、飲んでください」
ペットボトルの水を差し出している。
「ありがとう、でもこんなところ見られたら」
「クラスメイトと少し話すくらい普通のことだと思いますよ」
そう言われればそうだ。
青波は隣に腰かけた。
「何か悩み事ですか?」
「いや、別に・・・」
「大森君と何かあったんじゃないですか?」
「・・・」
「大森君とは幼馴染なんですよね?」
「・・・うん」
「小さなころから高校生になるまでずっと仲良く過ごすってすごいことだと僕は思います。実際僕にはそんな友人はいません」
航平とは本当に長い間仲良くしてきた。この婚約の話以外は何でも相談していた。
母が亡くなった時は泣きそうなのを我慢して、私の背中をずっと撫でてくれ、父が出て行って途方に暮れた時も適切なアドバイスをくれた。
「大事なお友達なんですよね?」
「・・・うん」
「じゃあ、仲直りしないといけないですね」
「仲直り・・・したいけど、どうしたらいいのかわからない」
「何がったのかわかりませんが、どんなことも誠心誠意謝って、仲良くしたいと伝えればわかってくれるものですよ」
青波はにこっと笑うと、「大丈夫です」と安心させるように言った。
「じゃあ、謝ってもらおうか?」
どこからか男の声がする。
びっくりして辺りを見回すと、木の上に男の子が座っている。
「な、なになになに!?」
私が驚いて声を上げていると、ストンと木から降りていた。
「久しぶりだな、久遠」
明るい金髪に青色の目をしたハーフ顔の男の子だ。
着ている制服はこの高校のものではない。
「・・・
青波の目から温かさが失われているようにみえる。
「名前は憶えていたようだな」
「あの、久遠くん、この人は?」
「お前は知る必要ない」
冷たい目でこちらを見ると「いずれまた」と去っていった。
「何なの、あの人・・・」
青波はそれに答えることなく、冷たい目をしたまま校舎へ戻っていった。
なんだか嫌な予感がする。
そしてこの予感は、翌日当たることになる。
翌朝、いつも通りにぎりぎりに教室へ入る。
航平の方へ目を向けると、今日もまた本を読んでいる。
胸の鼓動が早まる。
「おはよう」
「・・・おはよう」
航平はこちらを見ることなく、挨拶だけ返してくる。
「あのさ、航平。話があるんだけど、今日の放課後・・・」
最後まで言い終わる前にチャイムが鳴り、担任が入ってきてしまった。
そしてその後ろには見たことある少年が付いてきている。
「今日からこのクラスに転校してきた、
岳の青波とは違う美しい顔に女子から感嘆の声があがる。
「久遠様もいいけど、あの方もかっこいい」
そんな声が聞こえてくる。
青波はこのことを知らなかったのか、目を丸くさせている。
「じゃあ、津久井くんはあの席に・・・」
担任が後ろの空席を指差したが、それを無視してこちらに向かってくる。
しかも、すごく睨みつけてきている。
「津久井くん、そっちじゃない・・」
さらに担任の言葉を無視して、どんどん近づいてきて、机の前まできて立ち止まった。
ビシっと指をさしてくる。
「俺は絶対にお前に騙されないからな」
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