22話:あの場所へ
「アルシア!?/アルシアちゃん!?」
僕達は同じ反応をする。
いつの間にそんなところに居たんだ…足音なんて一切聞こえなかったぞ。
と言うかアデラの奴は良く気づいたな、同じ位置に居た僕は全く気付かなかったのに。
「ご、ごめん!驚かせるつもりはなかったんだけど」
「それは大丈夫だけど、いつから居たの?」
気まずそうに目を泳がせながらこちらに近づいてくる。
「えっと…お誕生日の所辺りから」
ほぼ最初じゃん…流石獣人と言うべきか、随分と長い間気配を殺せるもんだ。
と言うか、話に集中していたとはいえ何だがアデラに負けたような気がして複雑な気持ちだ。
「アルシアちゃん…魔女の事なんだけど」
「そんなに気にしなくて良いの!私はもう逃げないって決めたから」
言葉に詰まっていたミナツにぐいっと顔を近づける。
そうして少し距離を離し優しい笑顔を向けた。
「アルシアちゃぁぁぁぁん!!」
涙ぐみながらおもいっきりハグをする。
少しよろけ、戸惑いながらもその身体をアルシアはしっかりと抱きしめた。
「こりゃあ何時置いてかれるか解らねぇな!」
アデラが僕に向け意地悪な笑みを向けてくる。
置いてかれるか…そんなつもりは微塵もないしそっちこそ置いてかれないように気を付けてほしいものだ。
そんな会話をしているとアルシアがジトーっとした目で僕達、もとい隣の意地悪な男の事を見ていた。
「な、なんだよ」
「いや~アデラは酷いこと言うなーって。私の意思で寝てた訳じゃないのに」
どうやらアルシアは寝坊助と言われたことを気にしているようだ。
ギクッと身体を強張らせる男を横目に、さっきとは別の意味で泣きそうになっている女性を"ミナツちゃんは悪くないから"と慌てながら慰めている獣人を見る。
なんだか収集が付かないようなこの状況に、僕は頭を抱えるしか出来なかった。
「とっ、兎に角魔女を探しに行くんでしょ!それなら早く行こうよ!」
何とか状況を落ち着かせようとアルシアはぎこちなく発言する。
アデラをからかった事でこうなったのだから少し責任を感じたのだろう。
元凶はアデラなんだし感じる必要も無いような気もするけど、丸く収まったようだしこれでいいか。
一旦僕達はベッドで寝ているネフィをそのままに、この部屋を後にした。
「それで、会うのは前提として作戦とかはあるの?」
「あっ…」
僕の一言で勝ち気なエルフは身体が固まる。
…無いんだな、予想は出来たが本当にノープランで行くつもりだったのか、正直先が思いやられるぞ。
「とりあえず魔女はあの場所に変わらず居ると思う」
「だな、多分俺が女を見た場所はそこだと思う」
「場所は解ったけど会ってどうするともりなの?」
素朴な少女の質問に全員がう~ん…と頭を捻らせる。
会ったとして記憶を戻してもらえるのかも謎だし、聞いた感じそもそも話し合いが通じるような相手でも無いように思える。
「いっそのことネフィを戻して下さい!って頭下げてみちゃう?」
「本気で言ってるのそれ!??」
あまりにも出ないだろうと思っていた事を言われ、思わず身をのりだし大声を出してしまう。
皆はギュッと目を瞑り耳を塞いだ。
声が大きすぎたようだ、僕は頬を少し赤らめながらコホンッと咳払いをする。
「まぁそう言う反応になるよねぇ」
「なるに決まってるでしょ!ならない訳がないよ!」
アデラがまあまあと僕を宥める。
「危険すぎるよ!昔は話も通じないような感じだったんでしょ?」
「それはそうだけど、この十年でもしかしたら何か変わってるかもだし…それに話し合いが出来るならそれに越したことはないって言うか…」
はぁ…と僕は思わずため息をついてしまう。
そうかもだけど、もっと他に方法があるような…ダメだ考えがまとまらない。
疲れきった顔をしながら頭を抱える。
「まぁ良いんじゃねぇの?」
「え?」
ミナツの考えに賛成の声が上がる。
この男は何を考えているんだ?それで何かあってからじゃ遅いじゃすまないぞ!!
「どのみち会わない事には始まんねェんだし、無駄な争いはしたくないってのは俺も同意見だ」
「だとしてもっ……あーもう!その考えに乗るよ!乗りますよ!!」
半ばヤケクソになりながら賛成する。
コイツは一度決めたらテコでも動かない男だ、ここは僕が折れるしか方法はないだろう…不本意だけど。
事が収まったからなのかホッと少女は胸を撫で下ろす。
てかアルシアはこっち側っぽかったんだからアデラを止めようとしてよ。
「んっ…そんな目で見ないでよ」
「ナニモオモッテナイヨ」
「思ってる人の言い方じゃん!」
目を逸らした僕に何か言ってきているがここは気にしないようにしよう。
「賛成するけど相手が妙な動きをしたら、すぐにでも戦闘に以降出来るようにだからね!」
「分ァってるって~!」
本当に分かってるのかこの男は。
何はともあれすべき事は決まったんだしここに止まっている理由は無い。
すぐにでも行動に移すことにしよう。
こうして僕達はあの湖へと向かい始める。
出発が遅くなったこともあってか湖へと着く頃には随分と空が暗くなっていた。
「真っ暗って訳ではないけど…見づらいね」
「もうちょっとだから!多分!いや絶対!!」
「どっちなんだよ!?」
各々が色々言い合っているのを気にも止めず、真っ直ぐに進んでいく。
あの場所をちゃんと知っているのはミナツ何だからしっかりしてほしい所ではあるが念のため"
そうしていると木々の間からキラリと光るものが見える。
「あ!あれだ!!」
アデラが真っ先に走り出す。
本当に何でコイツは後先考えるような事をしないんだろう。
「待てって!お前ちょっと考えるってことをだな!…おぉ」
月明かりを反射する湖を目にした時さっきまで考えていたことが一瞬で吹き飛んだ。
その光景は星をとても近くで見ているような、幻想的で…どこか物悲しくなるそんな輝きに僕達は包まれていた。
「こんな所だったのかよ」
「なんて言うか言葉が出なくなるね…」
二人も思わず感動して息を飲む。
何だが吸い込まれて行ってしまいそうになり足を一歩踏み出す。
「止まれ。奥から一人来る」
アデラに肩を掴まれ正気を取り戻す。
固唾を飲み、少し待っていると草村から女性が紙を
「此処は美しい場所だろう?」
そう問いかけながら月明かりに照らされながら姿を現した女の姿はあの時ミナツが語っていた女と酷似した姿をしていた。
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