19話:スイッチ

 二手に別れてから二十分程経ったところだろうか、結果としては僕はなんにも成果を得られなかった…。


 いやアデラと別れてちょっと経ったくらいでもう大体予想ついてたよ、もしあったとしても痕跡何か殆ど残ってないくらい、でも夢見ても良いじゃん!魔女なんてこの世界でも居ないもんだと思ってたんだから。


 まぁ無いものは無いんだから…兎に角今日はもう戻ろう。

 そう思いアデラの方に光球を飛ばそうとした時奥の方から物凄い勢いで光が近づいてくる。


「アデラよく迷わなかった──なぁ!?」


 走ってくる彼はそのまま勢いを殺すこと無く僕の手を掴み、もと来た道の方へと全速力で走る。

 気付けば森を抜けミナツの家の前まで来ていた。


「何がどうなってんだよ!」


 僕は掴まれている手を振りほどき震える少年に問い掛ける。

 全く…急にどうしたって言うんだよ。

 そう思いながら返答を待っていると彼はとても焦っているような、恐怖しているような顔で振り向き肩を掴む。


「ろ、老婆が黒髪ロングで!そんで何かドス黒くって!!」

「分かんない、分かんない!一回落ち着けって」


 アデラを落ち着かせるようなだめる。

 一度深呼吸をし、落ち着きを取り戻したところで一度家の中に入り話を聞こうとする。

 僕達の泊まっていた所の扉を開いた矢先そこには笑顔で、だが明らかに怒っているのが分かるミナツが立っていた。


「こんな時間に二人でお出掛けとは、随分仲が良いんだね…二人ともっ☆」


 ヤバい……返答次第では即刻シメられるのが分かるくらいヤバい。

 てかミナツって怒る時あんな感じなんだと思っていると無理矢理笑顔を作る少年が先に口を開いた。


「あはは…俺達冒険大好きなもんで~」


 アデラは苦笑いをしながら冗談交じりに応える。

 バカーーーーッ!絶対その受け答えは間違いでしょ!?これは最悪怒られるだけじゃすまないよ絶対!!


 僕は恐る恐るミナツの方に顔を向ける。

 もしかしたら許してもらえるかもと小さな希望を抱いたが、そんな希望はするだけ無駄だったことが一発で分かる表情をしていた。

 あー、次は真顔なんだ…もう野宿確定じゃん僕達……そう思っているとミナツは大きなため息をつく。


「そんな怯えないでよ、どうせ行くだろうなって思ってたし」

「「はぇ?」」


 僕達は揃って気が抜けた声が出る。

 どうせ行くだろうなって、最初から僕達彼女に泳がされていたってことか。

 まるで背骨が抜かれたように一気に力が抜ける。


「もう良いから早く部屋に戻って早く寝て!」


 僕達は思わず敬礼をし部屋へと入る。

 取り敢えず野宿になることがなくて良かった~

 そうして一息ついた後アデラの話を聞くことにした。

 まとめるとアルシアを殺すよう頼んだお婆さんが若い美女になったとの事だ。

 あのアデラの焦りようから、魔術が存在する世界でも若返りなんて都合の良いものは無いんだと分かる。


 そのお婆さんが何者か、魔女と言う線が最も有力だろうが、確証が持てない以上どうしようもない。

 だとしても知っているような感覚、そしてドス黒い何か、この二つは特に気になるところだが今考えても答えはでないだろうと言うことで一先ずお互い疲れに疲れている事もあり、今日は寝ることにした。

 そうして朝日が登り僕達は起床する。


「おっはよー二人とも~!」


 バンッと扉を開きながらミナツが入ってくる。

 僕はビクッと身体を跳ねらせ飛び起きる。


「ビックリした~、やめてよ心臓に悪い」

「昨夜心配させた仕返しだよ!それにそっちはまだ夢の中みたいだし」


 そう言われアデラの方を見るとベッドから転げ落ち床でぐっすりと寝ていた。

 嘘でしょ今ので起きないとか、てかこれじゃ僕が床で寝た意味ないじゃん……僕は少しため息をつきながらアデラの肩を揺らす。


「ほ~ら起きろアデラもう朝だぞー」

「んぁ?…夜だよ」


 そんな訳ないだろ、目を瞑ってるからそう思うんだよ。


「いいから早く起きろっ!」


 力強くアデラの体を押し、ゴロゴロと転がせる。

 そうすると端まで転がった少年はドンッと壁にぶつかる。


「って~!なんだよ気持ちよく寝てるってんのに」


 彼は頭をかきむしりながら声を上げる。


「いつまでものんびり寝てるからでしょ」

「いや、アンタもだからね」


 ミナツに冷静に突っ込まれてしまった。


「あ、二人ともやっと起きたご飯作ったから早く来てね」

「アルシアちゃ~ん君は本当に良い子だねぇ!」


 ミナツの後ろから獣の耳を持つ少女がピョコっと顔を出す。

 そんなアルシアを甘々な声を出しながら彼女はわしゃわしゃと頭を撫でる。


 それに対して顔を赤らめる少女は頬を膨らませながらも抵抗しないし、何時の間にこんなに仲良くなってたんだ…ちゃっかり朝御飯まで作ってるし。

 そんな事を思いながら僕はアデラの手を引いて一緒に部屋を移動する。


「ところでネフィは?」

「あの子ならあそこ」


 そうしてミナツが指さす方に目をやるとすやすやとネフィが寝ていた。

 僕達を起こしたんならネフィも起こしてよ!そうミナツに伝えようとするとそれを察したのか言葉を遮られる。


「言わんとしてることは分かるよ、ただあの娘はめっちゃ寝ないと動けないんだ」


 確かに初めてあった時もとても眠そう、と言うかほぼ寝ていたような気もするけど過去に何かあったみたいだし、しょうがないか。

 そうして僕達はアルシアの作ってくれた朝御飯を食べ、男組はまた部屋に戻りゆっくりとしていた。


「さて・・・僕の話したいことは勿論分かってるよね」

「ああ。昨日の魔女かもしんねぇヤツの話だろ」


 やはりアデラも昨日の事については思うことがあるようだ。

 魔女かどうか…勿論そこも気になるところではあるが僕が一番気になっているのはあの老婆が何故そこにいたかと言うことだ。

 僕はそれを彼に伝える。


「老婆が居た原因か…単にもと居た場所に帰ってきたとかじゃないか?」

「それもあるかも知れないけどミナツが言うには昔、それも十年…他のエルフも居るってのにそう簡単に戻ってくるものかな?」


 と言っても何処に行っていたか、そもそも移動していたのかも分からないけど。

 まぁどう考えようと今はただの予想でしかない、明確な答えは出ないのだからそれまでは“分からないけど居るのは確か”、それくらいの考えで良いだろう。


「それもそうだな」


 僕達は話を止め、アルシア達に会おうと部屋を移動する。

 しかし明かりは点いておらず誰も居なかった。


「あれ?皆出掛けちゃってるみたい」

「んだよ、それなら一言くれりゃ良いのに」


 部屋の明かりをつけ辺りを見渡すと机の上にある書き置きを見つける


[アルシアちゃんとイチャラブデートに行ってくるから、その辺散歩でもしてな二人とも~! 追記、森には入るな]


 この軽い感じはミナツだな。

 デートって…多分ただの買い出しとかだろうに。

 ともあれこの書き置きの事をアデラに伝え、床に座り込む。

 女子組は女子組で仲良くて何よりと思いゆったりとしていると目を瞑っている少年が口を開く。


「なぁさっきから虫でも居んのかこの部屋?」


 虫?羽音などは一切聞こえないし、聞こえてくるとしたら窓の外から見える木が揺らめく音くらいだろう。

 そう思いながら首をかしげていると彼は床に耳を当て始める。


「虫の羽音なんじゃなかったの?」


 半分呆れながら尋ねると、しーっと人差し指を口に当て静かにしろと言う目を僕に向けてくる。

 さっきから何だってんだ!僕はため息をつきアデラの奇行を見ていると突然立ち上がる。


「虫じゃねぇ、床下から小刻みに何か聞こえてくる」


 そう言いながら部屋をうろうろして何かを探し始める。

 僕はもう何でもいいやと思い寝っ転がるとベッドの下にキラリと光る何かを見つける。


「なんだこれ?」


 ベッドの下に手を伸ばし光る何かに触るとカチッと音がした後、ベッドが僕の方に移動してくる。

 立ち上がり迫りくるベッドを回避すると下にあった床がズレており、地下室に繋がるであろう階段を見つける。


「嘘ぉ…」


 驚きを隠せず放心状態でいると奥を凝視する彼がその階段の先にある暗闇を指さす。


「こっからだ、こっから聞こえるぞ」


 そう言いながら階段を降り始める。

 僕は戸惑いながらも彼の後を追い暗闇の中に入っていった。

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