13話:過去と真実
この国にはこんな童話がある。
その内容はとある一人の獣人が皆を魔術で笑顔にしていくと言った内容の物語だ。
「わぁ…!私も大きくなったらこんな風になれるかな?」
「ええ、アルシアなら必ずなれるわよ」
私のお母さんは優しい声でそう言う。
私の両親は医療について知識があり、獣人の中でも少ない医者だった。
私は幼い頃、この物語が大好きで主人公に憧れていた。
その理由は私自身も魔術を使えるからだろう。
でもそれ以上に誰かの笑顔を見るのが好きだった、誰かが笑っているのを見たら私も自然と笑顔になれたから。
「でも
お父さんが話しかけてくる。
「なんで?魔術だったらいろんな人を笑顔に出来るよ?」
「アルシアは本当に優しい子だね。でも魔術を見た皆は笑顔になる前に驚いちゃうかもよ?」
両親は私に魔術を使わないように話す。
それは私が獣人の中で魔術が使える
でも一番は私の身に危険が起こらないようにしたかったのだろう。
なのに私はそんな両親を裏切った。
五歳の頃だっただろうか、私は初めて人前で魔術を使った。
「うわぁぁぁん!」
「痛かったね、大丈夫だよ」
小さな女の子が泣いていた。
慰めているのはあの子の母親だろう?膝から血が出ている少女を見て、私はあの子の怪我を治せば二人とも笑顔になると考え少女に声をかけた。
「大丈夫だよ、すぐに治すから」
そう言いながら私は女の子に駆け寄る。
膝にそっと手を被せ、魔術を発動する。
女の子の膝は優しい光に包まれていき、見る見るうちに傷は塞がり血は引いていった。
「はい、もう大丈夫だよ!」
私は胸を張って得意気に言う。
両親が医者と言うこともあり怪我を治せた事にも喜びを感じていた。
目の前の少女とその母親はポカーンとした顔でいる。
(あっ!無闇に魔術を使っちゃ駄目って言われてたんだった…)
そう心の中で思い少し不安になるが、そんな不安は直ぐに打ち消された。
「スゴーい!今のどうやったの!?」
少女は目をキラキラと輝かせながらこちらに顔をグイっと近づけてくる。
「ねぇ今のってもしかして魔術?」
少女と同じように母親も私に話しかけてくる。
「あ、嫌…その~」
私たちの話し声に周りの皆もガヤガヤと集まってくる。
私は少しアワアワとしてしまう。
そんな時少女は私の手を強く握る。
「ありがとう!もう痛くないよ!」
少女は眩しい笑顔でそう言ってくれた。
その笑顔が見れたことで私も不安がなくなり、元気良く答えることが出来た。
「どういたしまして!」
その日の夜、私が魔術を使ったことは私の両親にも知っており、怒られるかと思ったが私の事をぎゅっと抱きしめてくれた。
でも両親を心配させてしまった、私はそう思うとポロポロ涙をこぼし、ぐっすりと眠った。
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
次の日、外の賑わう声で私は目覚めた。
(何だろう?お祭りでもあるのかな?)
私は窓から外を眺める。
人々はガヤガヤと賑わっている。
どうやら今日は本当に祭りの日のようだ。
私は直ぐに着替え、両親の元に急ぐ。
「パパ~ママ~」
辺りを見渡すが両親の姿はない。
きっと今日も仕事で朝早くから居ないのだろう。
私は「行ってきます」と言い、家を出る。
外はキラキラとしており、とても賑わっていた。
辺りを見渡していると一人の男性が声を上げた。
「あ、神々の子だ!!」
「本当だわ!」
神々の子?一体誰の事なのだろう?私は周りを見るが子供は私しかおらず、直ぐに私の事だと察した。
そうしていると奥から両親と一人のご老人が歩いてくる。
「パパ!ママ!」
トテトテと走り両親に抱き付く。
一緒にいるお爺さんは誰なのだろう?首をかしげ眉を潜めているとお爺さんは口を開く。
「困惑させてごめんね、私はこのガレア王国の"国王"じゃよ」
国王…お爺さんが……国王様!!?
私は両親に抱き上げられたままあたふたする。
「フッフッフッそう焦る必要はないよ」
国王様は優しい眼差しでそう言ってくれる。
「ねぇ皆私を見て神々の子って言うんだけどなんで?」
私は両親に問いかけると少し目を反らしながらこう答えた。
「それはアルシアが魔法で人を助けたからだよ」
それを言われ私は昨日の出来事を思い出す。
「獣人の中で唯一魔術を使え、怪我を治した君に折り入って頼みがあるのだが、この国の人々を救う手伝いをしてくれないかい?」
救う手伝い?それってつまり……
「君の想像している通り皆を笑顔にすることだよ」
国王様は優しい笑顔でそう言う。
"皆を笑顔に出来る"それを聞いて私はいてもたっても居られなくなったが、一度ママの顔を見る。
ママは優しい顔で頷いてくれ、それを見た私は笑顔で国王様に返事をした。
「私皆を笑顔にする!!」
そう答えると国王様はとても笑顔になり、大きな声で皆にこう伝えた。
「皆、今神々の子アルシアは魔術で我々を助けてくれることを此処に宣言してくれた!!」
ワァァァァァッ!!!
人々が盛り上がり歓声を上げる。
何だかとても偉いことをしたみたいでとても誇らしい気持ちになった。
これが悲劇の始まりだと言うことは考える事すらしていなかった。
私は何日も狩り等で怪我をしてくる人達の傷を癒し、感謝されていた。
最初は私も目の間の人の笑顔が見れること、感謝されることが嬉しく感じこれっぽっちも不満なんか無かった。
私も皆の役に立つことが出来て何だか大人になれたような気がしていた。
それでもある日魔術を上手く扱えない日が来てしまった。
「あれ?」
「どうしたんですか?アルシアさん」
キラキラと光る指輪をつけた女性が私に問いかけてくる。
両親が仕事で居ない私に、いつも私に何かあってはいけないと一人メイドさんを私の傍に置いてくれるのだ。
私は魔術が使えない事を伝えると酷く驚き、見開いた後"それは大変ですね国王様に伝えてきます"そう言うと走って行ってしまった。
私はそのまま家に帰り両親の帰りを待っていたが、結局その日帰って来ることはなかった。
「どこ行っちゃったんだろう、パパ…ママ……」
私は何か両親を見つける手掛かりがあるかもしれないと思い、夜遅くに誰にも見つからぬよう一人で街を歩いていた。
暗い夜道の中誰かの話し声が聞こえてくる。
私は物陰に隠れ耳を澄ませる。
「なぁそろそろ良い頃なんじゃないか?あんまり長くするときっとバレるぜ」
バレる…?何の事だろう?
「正直神の子か何だか知らねぇけど、魔力がありゃなんでも良いんだよなぁ」
「さっさと魔石作らせて、後は両親ごと
男はケラケラと嫌な声で笑う。
え?両親ごと棄てるってどう言うこと?
まだ話し声が続く、私は鼓動が早まるのを感じながらひっそりと息を潜める。
「家族三人殺すだけで莫大な金が手に入るなんて狩りしてるよりずっと良いよな!」
「なぁ、この際先に両親殺しちまうのはどうよ?国王様だって魔力が手に入りゃ方法は問わないって言ってたじゃねぇか」
「グズだなぁ、まいっかどうせ国全体がこの話しに乗ってるんだし獣人とかもう腐った奴らの集まりだしな」
ゲラゲラと笑い声が聞こえてくる。
何を言っているのか理解しようとしても頭がそれを拒む。
でも理解しなきゃ家族皆死んじゃう……私は焦る思いをどうにか落ち着かせようとする。
その時ガタッと物音を立ててしまう。
「誰だ!?」
コツコツとこちらに向かってきているのが足音で分かる。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
私はぎゅっと目を
やがて足音は聞こえなくなり歩みを止めたのだろう、そう
・・・どうやら本当に居ないようだ。
そう思ったのも束の間、背後から口を押さえ付けられ気絶させられてしまう。
焦りや恐怖で気が動転していたこともあったのだろう。
獣人は敵に気付かれないため足音を消すことが得意な事を忘れてしまっていた。
獣人として自分を恥ずかしく思い、同時に悔いたまま私は気を失った。
「んっ……」
意識が戻り目を覚ます。
目の前には国王様と、拘束され眠っている両親がいた。
「パパ、ママ!」
ようやく両親を見つけ起き上がろうとするが手足が動かない。
私はそこで自分の手足が縛られている事に気付いた。
「おぉ目覚めたかアルシアよ」
国王様がいつもと変わらない優しい口調でそう口にだす。
「国王様、お願いパパとママを助けて!」
私は必死に訴えかけるが国王様は表情一つ変えずに立っている。
「アルシアよ、君は皆を笑顔にしたいと言っていたね?」
質問の意図が分からない。
確かに私はそう言ったが、どうして今その質問をしてくるのだろう?
眉を歪ませ不思議そうな顔をする。
「ふむ…良く分からないと言う顔だね、ならこう言えば分かるかな?」
国王様はいつもの優しい口調から一変し、低く冷たい声になった。
「君は奴等の話を聞いていたのだろう?」
「ッ!?」
私は酷く驚いた顔をする。
「ふむ、奴等にはちぃと罰を与えなければな」
国王様はぶつぶつと呟く。
私は不安と恐怖で上手く呼吸が出来なくなる。
「お願いします…パパとママだけは助けてください」
私は涙ぐみながら何度もお願いする。
「なんと素晴らしい家族愛だ、そう泣くことはない。君が魔石を作ってくれればそれで良いのだから」
魔石を作る……でも今の私は魔術を使うことが出来ないのにどうすれば。
私は不安な顔をしていると国王様が一本のナイフを取り出す。
「待ってください!私が魔石を作ればそれで良いって」
「確かに私はそう言った。魔術の発動には感情を揺さぶるのが一番だと聞く・・・・・ならば国王である私が直々に手助けをしてやろうと言うのだ!」
国王はそう言いながらママにナイフを刺そうとする。
その行動を見た時私の中で何かが切れた。
心の底から魔力が煮えたぎる、しかしその魔力はいつもの人を癒すモノではない。
人を傷つけるモノだ。
「その魔力そうだ!その力で
ドゴォン!
私は国王の言葉を遮り吹き飛ばす。
生きてるかどうかはどうでも良い、吹き飛ばせたと言う事実が大事なのだ。
それ以降のことは余り覚えてはいない。
ただ私は内側から来る感情と莫大な魔力に身を委ね、行動をしていた。
そうしてどれだけ時間が経ったのだろう?とても良く聞き馴染みのある二人の声が聞こえてくる。
「「……シア!アルシア!!」」
アルシア……それは私の名前だ。
私を名前で呼ぶ人…覚えておかなければならない人、私の行動に理由をつける人……
ボソボソと小さな声が聞こえてくる。
私は必死に耳を澄ませ聞き取る。
「ごめんなさい…一人にさせてしまって…」
「そんな僕達を許してくれとは言わない……」
あぁ思い出した。
この声の主を、私が最も愛す二人の事を。
「パパ、ママ」
私は目を覚ます。
「え?……」
私は辺りを見渡す。
崩壊した建物、大きなクレーター、大量の血。
その中でも私に最も衝撃を与えたものは、私の直ぐ横に横たわる男女の死体。
「パパ……ママ……?」
死体は腹部が貫かれている等の無惨な状態だ。
それでもハッキリと分かる何度も見てきた愛する両親の顔。
その時私の体に確かに抱き付かれた感触と何かを貫いたような感触が同時に感じる。
「あ…あぁ……」
私はその場小さな体をさらに丸めて小さくし、顔を埋めるしかなかった。
六歳の少女にあまりにも大きすぎる絶望、しかし変えられない事実。
私が両親を殺したのだ。
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