第2話 あおちゃん、さようなら。

――キーンコーンカーンコーン


「あおちゃん、遅いなぁ……いつもなら、僕より先に着いてるのに」


日直でもないし、僕はホームルームが終わってすぐ靴箱まで着いた。

でも校門前、あおちゃんご指定の場所に、見慣れた姿がいない。


もしかしたら、ああ見えて成績の良いあおちゃんのことだし、勉強誰かに教えてる……とか?

でもそんな状況になったら、真っ先にメッセージ来るよなぁ。

もうちょい待ってみて何も連絡無かったら、電話してみよう。


――30分経過


あのあおちゃんが30分遅刻なんて、絶対おかしい。

僕が待ち合わせに1分遅れただけで、鬼電してくるのに。

なんか、かなり嫌な予感がする……

あおちゃんは(黙っていれば)アイドル級の顔面偏差値だし、学校の制服は可愛くて有名。

ナンパとか……いや、誘拐!?とりあえず、怖いけど電話してみよう……


「あおちゃん、お願いだから、早く出てよ……」


いつものあおちゃんは、僕が電話すると1コール鳴り終える前に、元気な声を聞かせてくれる。

でも、今日は何回かけ直しても、電話は繋がらない。


「あ、そういえばこの前、勝手にGPSアプリ入れられたっけ……」


これを僕が見ることになるとは、夢にも思わなかった。

アプリを開くと、あおちゃんのアイコンはずっと同じ交差点から動かない。

信号待ちにしては、長すぎる。


僕は、あおちゃんが隣にいないだけで、こんなに動揺するのか。

とはいえ、ずっと待ってても両親が心配するし――


そのとき、母さんから着信。


『もしもし、陽斗はると!あおちゃんが、あおちゃんがっ……』

「母さん……どうしたの?」

『……交通事故に遭ったって、あおちゃんママから連絡が来て――』

「え……?」

『救急車で運ばれて、今病院で手術を……』


そこから先、母さんと何を話したのか全く覚えてない。

これは……夢?

でも、アプリのアイコンは止まったまま。

全然、意味が分からないよ……


僕は気がついたら、来たこともない公園のベンチに座っていた。

あおちゃんが勝手に変えたスマホのロック画面を見て、ハッとした。


――『あおちゃん、息を引き取ったって……』


泣きながら話す母さんから、ついさっき聞かされた事実。

あおちゃんが……死んだ?

嫌だ、嫌だよ。そんなの嘘に決まってる。

あおちゃん、今日はエイプリルフールじゃないよ……


「僕と、ずっと一緒にいるんじゃ、なかったの……?」


急に胸が苦しくなって、涙で学ランが濡れていく。

もう、あのキラキラした笑顔を僕は見れないのか……?

もっと、もっと、あおちゃんの重くて尊い愛を、ちゃんと受け止めればよかった。

いつも、守ってくれてありがとうって、言いたかった。


僕のために、急いで校門前に向かってたんだとしたら、僕のせいだ。


「悲しみに暮れているあなたに、希望を与えましょう」

「は……?」

「取引をするのです」


顔を上げると、全身黒尽くめの怪しい女性が目の前に立ってた。


「勧誘なら、他所行ってください……」

桐原きりはら あおい、享年16」

「な、なんで、あおちゃんのことを……!?」

「私は霊媒師。取引をしませんか?」

「……」

「あおいさんを取り戻したいなら、私はそのお手伝いができます。条件はただひとつ――」

「……なんですか」

「あなた、佐倉さくら 陽斗さんの視力を少々、頂きます」


僕の名前まで知ってる……この人、本当のこと言ってるかもしれない。


「本当に、そんなことであおちゃんは帰ってくるんですか!?」

「信じられないのも当然です。では、あおいさんをここにお連れしましょうか」


自称霊媒師の女性が、何かを唱えると、そこには――


「ちょっと、オバサン何!?離してよ!」

「え、今の声……」

「そうです。あなたに姿は見えないでしょうが、たしかにここにあおいさんは来ています。さぁ、どうしたいですか?」

「ねぇ!オバサン、さっきから誰と話してんの!?ねぇってば!!」


間違いない。ここにあおちゃんがいる。

同性に対して当たりが強いから、多分あおちゃんにも僕が見えてない。


「あのっ!」

「決心がつきましたか」

「もちろん」

「ではおっしゃってください、あなたの答えを……」


「僕の視力なんてどうでもいい。あおちゃんに、もう一度会いたい……」


僕がそう言うと、視界がどんどんぼやけていく。

公園の遊具もぼんやりとしか見えなくなった。


「はるくん、おっっっっっっっっそい!!あおいのこと、見えるでしょ!!今日で遅刻、累計89回目だよ!?……ずっと、待ってたんだからね。はるくんの意地悪」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る