晩成型のオーガさん

ハチ

魔物の気楽な旅

第1話 追放

「おい!まだ討伐できないのか!!」

「す、すみません、あのオーガ、とてつもなく体力が多くて…」

「オーガは討伐ランクAの魔物…だが、我が団の冒険者ランクA相等の実力を持った精鋭が3人と、団員が10人は集まっているのだと言うのに、この有様はなんだ?まったく、情けない奴らだ……。 もういい、下がれ!俺がやる。」


雨が降っている…俺の忌々しい思い出…だが、忘れたくない記憶だ…こんな雨で洗い流される訳が無い。あぁ、確か15年前にも、こんな雨が降っていた…

この15年で、俺は大きく成長した。

仲間もできた。だからこそ、あの時の記憶を覚えていよう…。





オーガは普通、12歳から18歳の間に強さのピークを迎える。

20歳を超えると体が衰える代わりに、高い知能を獲得する者や、稀に上位種へと覚醒し、更に能力を増すものもいる。 


俺は、14歳のオーガである、

本来のオーガであれば今が全盛期のはずだが、俺はなぜか5歳の頃からあまり能力が伸びていない…。

そのせいで村のみんなからは馬鹿にされ、よく虐められている。


「お、あそこに小鬼ちゃんがいるぜ?」

「はは、相変わらずボヤッとしててマヌケな面だなぁww」


こいつらは。よく俺のことバカにしてくる2人組みだ。

コイツらも俺と同じ14歳のオーガだが、才能の差は一目瞭然。

俺では到底敵うわけがない。


タール「なんだよ、そんなに俺のことをからかうのが楽しいのか?」

シラコス「楽しいに決まってるだろwなんせお前は村一番の【役立たず】なんだからな」


ラプレス「悔しかったらお前も俺達みたいに強くなってみろよwおっと、俺達はこれから任務があるから行くぜ。それじゃ、精々小鬼よりは強くなれよww」


行ってしまった…アイツらは、鬼守護者オーガーディアンという、役職についている。鬼守護者は村の警備したり、他の勢力の偵察などを行うなど、かなりの実力の他に、知能や生き残るための技術も必要な、かなりのエリートである。


俺の夢は、そんな鬼守護者のリーダーである、鬼守護星オーガディスタになることだったが、今の実力では到底無理そうだ…


そうしてるうちに日が暮れてきたので、家に帰り、休むことにした。


次の日

早朝、今日は雨がぽつぽつと降っている。

そんな村で一番最初に目覚めるのはこの俺、タールだ。


俺は戦闘面で役に立たない分、こうして早く起きて、雨や風も関係なく、食料となるベリーの収集や、家畜の世話なんかをしている。

その後はいつものように筋トレやランニングをしていると、村長から呼び出された。 


もしや、俺の努力が認められて、褒めてくれるのかもしれない…そう期待をして浮かれていた。しかし、そんな期待はしないほうがよかったのかもしれない。


村長「お前には、もうこの村から出ていってもらう。」


村長から出された弱々しくあるが、何処か威圧感を感じる言葉。それを聞き、俺は奈落の底に突き落とされたような感覚になった。


その言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。


タール「え…?い、今なんと……?」

村長「ふん、お前にはこの村から出ていってもらうと言っているのだ!」


俺はしばらく理解できなかった。確かに戦闘面では頼りにならないばかりか、足手まといですらある。


ただ、俺は他の方法で村に貢献しているつもりだった。

農業、家畜の世話、子供の世話や、お使いまで。さまざまな雑用をこなし、村の役に立っているつもりだった。  

そして、村長は続けて口を開いた。


村長「オーガは力が最も大切なのだ。女であればまだしも、お前は男だ。このような鬼人族がいると知られれば、我が村の看板に泥を塗ることになる。お前には明日の早朝に旅立ってもらうとする。それまで精々この村を脳裏に焼き付けておくといい。」


俺は大粒の雨に打たれながら道を歩いていた。

この村にはもう住むことは許されない…俺が生まれ育ったこの村で、鬼守護星になることも叶わないのだと思いながらトボトボと歩く。

水たまりの水面に写った自分の顔が悲しみに拍車をかける。

俺は少しの悲しさもあれど、自分の非力さへの悔しさが大きかった。自分がもっと才能があれば…そう考えても仕方のないとはわかっているのだが、どうしても考えてしまう。 


気がつけばもう昼になっていた。明日の朝には出て行けと言われてしまったため、荷物を整理し始めなくては…そう思いながらトボトボと家へと帰った。


家に着くと、さっそく荷物の整理を始めた。

明日の今頃は、もうすでに村から出ていっているだろう。


必要な荷物を整理し、部屋の片付けなどをして、ふと外を見ると空が深紅に染まっていた。どうやら、雨はもう止んだみたいだ。

気分転換に少し散歩をしようとドアを開ける。綺麗な紅色の空に大きな雲がかかっている。


しばらく歩いていると、シコラスとラプレスに出会ってしまった。 何か言われる前にさっさと立ち去ろうとしたが、声をかけられた。


シコラス「お、タールじゃねえか。お前、追放されたんだってな。」

タール「それがなんだってんだよ。」

シコラス「なに、これから雑用係とからかえる相手がいなくなると思うと残念だと思ってよ。」

タール「なんだよそれ。結局俺のことをからかいたいだけじゃねえか。」

ラプレス「ま、でも雑用係としては優秀だからな。村長も俺達の手足を減らすなんざ、余計な真似してくれたぜ。」

タール「チッ、結局そんなもんかよ。おい、お前ら。最後に俺と手合わせをしてくれないか?」

シコラス「はぁ?なんでテメェなんかとやんなきゃいけねぇんだよ。」

ラプレス「お前が俺達に勝てるわけないだろ?」

タール「いや、俺がどれだけ動けるか確認したいんだ。頼む。」

シコラス「はぁ…全く仕方のない小鬼ちゃんだ。軽く遊んでやるよ。」

タール「本当か!?ありがとう。恩に着るよ。」

シコラス「ほら、さっさと始めるぞ。木刀を持て。」

シコラスから木刀が投げ渡される。

タール「あぁ、行くぞ! はあっ!」

俺はそれを受け取り、シコラスへ斬り掛かった。


ガシ!

木刀同士がぶつかり合い、乾いた木の音が辺りに響く。

シコラス「どうした?俺の守りを突破してみろよ!」

シコラスに俺の攻撃を簡単に受け流され、ダメージが通らない。

シコラス「へっ、次はこっちから行くぜ!」

シコラスが俺に向かってくる。


ガン! ガッ!

シコラスが次々と攻撃を放ってくる。

タール「くっ!一撃一撃が重い…。これが鬼守護者の強さか…。」

シコラス「まだこんなもんじゃないぜ?」

シコラスが剣を大きく振りかぶった。

タール(!脇腹がガラ空きだ…!)

俺はシコラスの脇腹に向けて剣を振るう。

が、

ゴッ!

辺りに鈍い音が響き、俺は膝から崩れ落ちる。

シコラス「引っかかったな、小鬼ちゃん。」

タール「…っく、何が起きた?」

ラプレス「お前が脇腹に剣を振ってくるとシコラスは読んで、お前に蹴りを叩き込んだ。ただそれだけだ。」

タール「俺は容易くシコラスの罠に引っかかってしまったのか…」

シコラス「はっ、お前は所詮、まだこの程度の小鬼だってことさ。」

タール「そうだな…。今日はありがとう。

それじゃあな。もう会うことはないかもな。」

シコラス「ふん、雑用係として帰ってきてもいいんだぜ。」 

タール「それは無いだろう」


明日、だ。

この村の風景を、しっかりと目に焼き付けておこう。

もう帰ってくることはないと思うけれど…。







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