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肌が若くて、肉付きが悪い。
それが、雛子がじゅりの身体に対して持った感想だった。比べている相手は、どうせずっと好きだったあのおんなで、全く、そんな自分が嫌になる。
脚を開かせるのに手間取るような女を抱くのは、いつぶりだろうか。
雛子は、やっぱりそうやって、好きなおんなを思い浮かべている。あのおんなは、菜乃花は、はじめての夜にもあっさり脚を開いた。夫がいるくせに、雛子のことなんか好きじゃないくせに、それでも。
「大丈夫。大丈夫。」
痛いことはしないよ、と、全く子供をなだめるみたいな台詞をじゅりの耳元で囁きながら、雛子はせっせと指と唇を動かす。こうやっている間は、菜乃花のことも思い出さないと思っていたし、これまではいつだってそうだったのに、今夜ばかりはずっと、彼女の顔が頭を離れない。独身時代は明るく友人も多かったのに、結婚してからは表情も暗く、家にこもりがちになり、夫の愚痴ばかり言うようになったおんな。そんなおんなは嫌いだし、菜乃花のことも嫌いになるだろうと思っていたのに、なぜだか今になっても、好きで好きでたまらない。
ふさいだじゅりの唇からは、化粧品というよりは、ミルク味の飴玉みたいな、幼い甘い匂いがした。菜乃花の唇からは、いつも化粧品の香料の匂いがしたことを、雛子はくっきりと思い出す。夫の趣味なのだろう、家の中ですら化粧をするようになった、あのおんな。夫の愚痴を話すためだけに雛子を呼び出して、その代償みたいに身体を差し出してきた。
そんなおんな、全然好きじゃない。
頭の中でだけ言ったつもりが、声に出ていたらしい。雛子の腕の中で呼吸を乱したじゅりが、なに? と、膜が張ったように潤んだ目で雛子を見上げる。
「……なんでもないよ。」
雛子はそう言って、じゅりの体内を探る指を増やす。そうされることに慣れていない身体は、まだ青くて硬かった。はじめて抱いたときからこなれていた、菜乃花とは違う。あの夜、雛子は、ずっと思い続けてきた菜乃花を抱けた喜びよりも、彼女の身体を通り抜けて行った男たちや、今現在彼女に触れる権利を有している夫に、深く嫉妬した。
「なんか、別のこと考えてるでしょ。」
はあ、と、熱く湿った息を吐きながら、じゅりが恨めし気に言った。
そんなこと、分かってても口に出すなよ、行きずりのくせに。
雛子は顔にかかってくる髪をかき上げ、じゅりにくちづけた。
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