第3話

 ディヒバルト様は、隠れ家に連れて行ってくださった。

 お姫様だっこで運ばれたのは久しぶりです。

 お風呂をお借りして身体をきれいにして、きちんと衣服に袖を通して戻ると、お茶とお菓子を用意してくださっていた。

 向かい合わせで座ると、ディヒバルト様から口を開く。


「それにしてもまさに運命だな。君もそう思わないかい?」

「え、ええ。けれど、ディヒバルト様は、従者も従えずにお一人で? 物騒では?」


 私が率直に伝えると、ディヒバルト様は軽く笑う。お茶を一口すすり、理由を話す。


「単純な話だよ。息抜きでね。家臣達も理解してくれている」

「まあ。よほど信頼されていらっしゃるんですね」

「……どうかな。実は、先程のリーゼッタという少女の話なんだが」

「は、はい」


 ――あのリーゼッタなのかしら?


 私は熱心にお話に耳を傾けた。

 態度や見た目からするに、やはり彼女だと確信する。

 ため息をつきたくなるくらい。

 なんといっても、リーゼッタはディヒバルト様の旅の途中を邪魔して、シュナイズまでくっついてきた挙げ句、家臣の何人かの弱みを握って、無理矢理城内に入り込んだというのだから。


「泣きながら謝るのを見かねて、内密にする事にして帰したのだが、おかげで女性にうかつに声をかけられなくなってね」

「彼女らしいですわ」

「うん? 知り合いなのかい」

「はい」


 私はついつい己に何が起きたのか、この国にやって来た経緯を細かくお話してしまう。


 ディヒバルト様の顔つきはだんだんと険しくなっていき、とうとう椅子から腰を上げた。

 私の両手を掴み、語気を強めに言い放つ。


「許せん! 私をカイン王子とリーゼッタにあわせてほしい!」

「え、ええ?」


 ――これは、こまったわ。


 出会ったばかりだけれど、私はディヒバルト様の性格を理解した。

 とても惹かれてしまう。


 ――私のためにお怒りなんだわ。


「ひとまず落ち着いてくださいな」

「できない! 愛する君を馬鹿にするとは! 観衆の前で無礼極まりない!」

「まあ、ディヒバルト様ったら」


 あまりにも熱心な様子に、少し意地悪な気分になる。


「それにしても、リーゼッタのせいで一種の女性恐怖症になられたディヒバルト様が、なぜ私に遠慮なくお声をかけられたのか……私は、そんなに魅力的ですか?」

「……っそうだ。一目でその長い銀髪に青い澄んだ瞳に吸い込まれた。何よりも、湖の精霊のように見えた」



 ディヒバルト様のあまりにも熱い告白に、握られた手のひらが震えてしまう。


 ――こんなにも好いてくださるなんて。


 あの王子とはなんていう違い。


「君は私が守る。シルフ」

「あ……」


 気づけば、私の唇はディヒバルト様に奪われていた。

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