凍子ルート

22話

凍子を止める


「やめろ、凍子!」

気がつくと俺は凜々を襲う凍子の腕を掴んでいた。

「離して!」

「ダメだ!お前は俺と凜々を殺して死刑になったんだろ!?」

「あんた、記憶が……?」

「断片的だけどな」

カランと凍子がナイフを落とす。

「ならなんであたしを止めるの?あの子を守ればいいじゃない!」

「前世では偽りだった。けど、塗り替えられた記憶であっても、今は俺はなんやかんやでお前が好きだったんだ。ホントはずっと前から気づいてた。けど、凜々を餌にお前を突っぱねようとしてただけなんだ」

「健人……!」

ぶわっと凍子が大粒の涙を流して俺に抱きつく。

俺はその背中をぎゅっと抱きしめた。

「それがあなたの答えですね?今村健人さん」

水を差す様に現れた神先生。

「先生は以前自分は神だと仰ってましたね?」

「電池専用の神、話したんだ」

「電池専用!?え!?電池式なの!?」

「そんなわけないじゃないですか」

ニコーっとしてるけど、背後から怒りの炎が見える見える。

「私は正真正銘、全知全能の神です」

「なら力を見せてください」

「いいでしょう。あなたと緑葉凜々さんの前世の記憶を見せてあげます」

右腕を空へと掲げる。

ピカーと淡い光が俺たちを包む。


「けーんと♪はい、修学旅行のお土産」

差し出されたのは右目に眼帯をつけた武将、伊達政宗をデフォルト化したキーホルダーだった。

「サンキュー、俺も三年後にお前に絶対お土産買ってくる」

「楽しみにしてる♪」

ここで映像が切り替わる。

「おばあちゃん、今日も死ねなかった」

「凜々ちゃん!死んじゃいかん!凜々ちゃんまで居なくなったらあたすは……うぅ……」

壁に隔てられた空間で、女の子とおばあちゃんが悲しそうに会話をしていた。


「今流れた映像は今村健人さん、いえ、叢雲健人さんが天野冬子さんと過ごしている時に緑葉凜々さん、いえ、春川凜々さんが送っていた日常です」

叢雲健人、そう、前世の俺だ。

「あなたは前世で春川凜々さんに恋心を抱いていました。そしてプロポーズをします。しかし、天野冬子さんが母親に頼み、あなたは事故にあいます。そして軽い記憶障害に陥ったあなたに冬子さんが自分がプロポーズされたと記憶を塗り替えてあなた方は恋人同士になりました。この真実を知ってなお、あなたは凍子さん共に人生を歩みますか?」

「はい、たとえ凍子が偽りの記憶へ塗り替えたとしても、前世でこいつと過ごした記憶は本物です」

「わかりました。障害は多いですが、私はあなた達を応援しますよ」

スタスタと去っていく神様と入れ替わりに雄一郎が一人でやってきた。

「健人ちゃん、本気なんだな?」

「ああ」

「だったら俺は全力でお前らの邪魔をしてやる」

「前世で俺を何度も殺したのは、凜々のことを想ってのこと。だったもんな」

「ああ」

「お前が何度邪魔をしようとも俺はもうお前には負けない」

「雄一郎くーん」

パタパタと明菜さんがやってくる。

睨み合う俺たちを見てたじろぐ彼女。

「あ、あれ?もしかして私、お邪魔だった?」

「そんなことないよ」

女を悩殺させるスマイル炸裂。

切り替えが子を叱ってる時に電話がかかって対応する親みたいだ。

「じゃあ、そういう事だから。健人ちゃん」

「健人ちゃん、私も行くね」

凜々の横顔は涙が伝っていた。

その表情に俺の心はズキっと傷んだ。

ごめんな、凜々。

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