ライン

秋乃ねこ(旧安土朝顔)🌹🌸

第1話

 刺激もなにもない退屈な毎日。登校すれば、連日デジャブの光景が延々と繰り返されている。教室では、群れから取り残されないように、誰もが必死にテレビ番組や芸能人の話しで関わりを持とうと必死だ。僕は教室の入り口を見ながらいつも思う。あの入り口から精神異常者が飛び込んできて、周りを一掃してくれないかと。だが早々ある訳もない。僕は溜息をつきながらそんな願望を胸に外へと目を向けた。


 清々しい青空の下、グラウンドでは先程まで野球部の朝練があり、金属バットが心地よい音を出していた。汗臭い男達の声も響いていたが、今はもうない。

 僕には友達らしい人間はいない。初めはレジャーランドのマスコットに接触するような感覚で話し掛けられたりしていた。その時は一応、馴染める様に話を合わせていた。だが次第に無理に合わせるのも面倒になった。態度を変えると、古ぼけた気ぐるみには近寄りたく無いというような雰囲気になり、自分の周りから喧騒が消えた。別に寂しいとは思わなかった。一緒にいてもつまらないのなら、一人でいる方が気が楽だ。遊びに行くにも、都心のようにキラキラした心をくすぐるような場所はない。駅前にショッピングモールはあるが、楽しむに楽しめない中途半端な街だ。


 予鈴のチャイムが鳴ると、一人の生徒が教室に飛び込んできた。興奮気味にいつも一緒にいるクラスメイトへと駆け寄る。周りにも聞こえる声で、わざとらしく得た情報を自慢げに話し始めた。


「転校生が来るらしいぜ」

「マジで!」


 蟻が砂糖に集まるように、人だかりができていた。


「でも今の時期って、中途半端だな。二学期が始まって一週間は経つのに」

「でも、大野も五月の連休明けからだったもんな?」


 急に話を振られた僕は、肘をついたまま答えた。


「ああ、中途半端な時期だったよ」

「いや、そういう事じゃないんだけどさ……」


 別に嫌味で言った訳でもなかった。どの道いつ入ってきても、このクラスでは中途半端なのだから。父親の転勤で地方へと引っ越ししてきたのは、今年の五月の連休明けだった。予定では四月の新学期に合わせて編入する予定だったが、バイクとの接触事故で足を複雑骨折してしまい、少し時間がかかってしまった。そのために時期がずれてしまったのだ。本当は引っ越しなどしたくはなかった。でも片道三時間という条件には無理があった。それで仕方がなく、合格していた都立進学校よりも低いけれども、この地域では一番高い中高一貫の学校の特進クラスに編入した。


 三年間、この特進はクラス替えがない。しかし成績が落ちれば普通科へと移される。僕は常にこのクラスでトップだった。でもこのつまらないクラスメイトとまだ二年半近くも同じかと思うと、わざと成績を落として毎年クラスが変わる普通科へ移った方が気分転換できるような気がしていた。この毎日を退屈とは思わず、何の疑問も持たないクラスメイト。疑問を持たずに生活している働き蟻の群れに入ってくる転入生に、心からお悔やみを申し上げたい気分になった。


 周りは女か男かで盛り上がっている。たかが性別で盛り上がることができるクラスメイトに、尊敬さえ覚えた。その様子を横目で見ながら、自分はこの教室に存在するはずなのに、別世界にいるような感覚に陥る。それが無性に気持ちがいい。本鈴が鳴っても、半分以上の生徒がまだ席を立っていた。


 教室のドア開いた。立っている生徒は慌てて座る。クラス中の視線が担任である中津川(なかつがわ)杏(きょう)香(か)へと注がれた。いつもの様に眼鏡を掛け、長い髪を一つにまとめている。三十代前半らしいが、それよりも少し老けて見えた。コンタクトに変えてしっかりメイクをすれば、輝く素質は持っていると僕は思っている。中津川が入ってきた扉は開かられたままだった。


「おはようございます皆さん。このクラスに編入生が来ることになりました。さあ、入って」


 入口から現れたのは、細身だが肩はしっかりしていて、何かスポーツをしているように見えたが、肌の色は白く、焼けてはいない。髪は少しサイドを刈り込んでいる。目が大きく輝いているように見えたのは、教室に差し込む光のせいだろうか。

 中津川はテレビでよく見る光景のように、黒板に大きく名前を書いていた。諏訪部(すわべ)岳(がく)。

 僕は名前と彼自身のイメージが合っていると思った。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


あとがき

どうも作者の安土朝顔です。

いつも読んでいただきありがとうございます。

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