第4話
「ソージュ、今いいか?」
訓練中の息子を何とか捕まえる。
「何のご用ですか?」
ソージュが冷たい。視線が訓練の邪魔だ、早く帰れと言っている。
「お前のこの先について話し合いがしたい。今から私の自室で話そう。ついてきなさい」
真面目に話すと、ハッとして
「分かりました。直ぐに伺います」
と、使っていた剣や防具を片付けて、エストラゴンに了承を得て、頭を下げてからこちらに戻ってきた。
エストラゴンはこちらに目だけ向けてニヤリと私に頑張れと伝えた。
部屋に行くまでに何人ものハーレムの住人や従僕とすれ違った。
そのうち、何人かはハグとキスをしていった
息子も同様にハグをしてキスをした。部屋に入る頃には、息子は大層機嫌が悪そうだった。
「ソージュ?嫌だったか?済まないな」
声をかけると彼はしまった!て表情をこわばらせた。
「心配するな。責めているわけではない。
先日エストラゴンと、お前の将来について話をしたんだよ。ソージュの心の底からの望みを父に教えてくれないか?」
苦しまないでくれ
「父様、心配して頂きありがとうございます。私のことは大丈夫です。王族としてちゃんと向き合って行きます」
ソージュは下を向いて頭を下げている。
「お前は、この国を出てゴルドファブレンに留学するつもりはあるかい?私は昔学園でエストラゴンと出会って親友になったんだ」
ソージュが「え?」っと表情を崩した。
「お前が望むなら、留学もその先他の国に行くのも、いくらでも後押しするぞ?私を誰だと思っている?お前の父親だぞ?私は息子の幸せの為なら頑張るぞ?」
ソージュが目をぱちぱちしている。理解が追いつかない様だ。
「だから、お前の今の、この先の、将来の望みを教えてくれ。頼む、少しは父親らしい事させてくれ!このままでは、エストラゴンがお前の父親みたいではないか!」
最後に本音が出たが、まあいいや。ソージュがクスクス笑い出した。
「お父様、確かにエストラゴンが父親の様には思いますが、残念ながら僕の顔はお父様にそっくりですから、僕の父親はお父様です」
確かにソージュは私によく似ている。色男に育ってきたな。じゃなくて、
「残念は余分だ!で?望みはなんだ?」
父で遊ぶでない。
「僕は、ハーレムの在り方に馴染めません。皆、良くしてくれるのはありがたいし、この国の王子に生まれたからには、責任を果たさなければと頑張っていたのですが、必要以上に構われる事が多くて、1人になりたくても皆寄ってきて、嫌な顔も出来ず、段々と苦しくなってきて。
ずっと何でなんだろうと考えてました」
やっぱり合わなかったか。可哀想だったな
「僕は、唯一の人と添い遂げたいし、誰かと共有なんて出来ないしされたくない。恥ずかしい子供じみた考えかも知れませんが[真実の愛]に、憧れがあります」
言い切った後に真っ赤になるのは狡いぞ?可愛すぎるだろ?
「可能なら、留学したいし、許されるなら国外で生きて行きたいです」
言いたい事が言えてスッキリとした顔をしている。
これでいいんだ。
「お前の気持ちは良くわかった。その様に手配しよう。学園には王子として行きたいか?それとも、どこか養子に入るか?ハーレム出身者はあちこち居るぞ?」
どこにでも親戚は居るしな。
「出来れば王子である事は内密に、一般貴族として学園に通い騎士になりたいです。可能なら養子ではなく在学中に功績を上げて、当主としてエストラゴンの住む、ヴァルド国に共に行きたいです。間に合わなかったらその時は養子縁組をお願いしてもいいですか?」
やっぱりエストラゴンかそりゃそうだよな
「王子じゃなくなると、色々大変になるが本当に大丈夫か?私の元を離れ国を出てもお前は私の息子だ。何か必要ならいつでも頼っていいのだからな?」
音信不通はやめてくれよ?
「はい、父様。ありがとうございます」
息子の心からの笑顔を見れたのはいつぶりだろうか?
ソージュと話した後、エストラゴンと飲みながら話をした。
「真実の愛か!素敵な事じゃないか!まあ、あれだけ美しい顔だ、かなり苦労はするだろうな。在学中に功績を上げるか。目標としては今のところなら大丈夫だな。ただ、お願いがある。何人かソージュが気を許している奴らを、従者として連れていって良いか?特にペリル、ソージュより年下だかソージュになつき憧れていてな、ソージュも弟の様に扱っている。実力は正直かなり高い。後、兵舎のやりくりを統括しているレヒテハントを軸にして生活を支えてやってほしい。レヒテハントは断らないはずだ」
ふむ、確かにしっかりした従者は必要か
「ペリルとレヒテハントか、レティヒハントはなぜ断らないのだ?」
何か特別な関係なのか?
「レヒテハントはソージュが小さな時から俺が連れ回す時にいつも付き添いを買って出てくれたんだ。あいつも子供が好きだったんだろうな?良く面倒を見ていたよ。ちゃんとソージュを見守っていたし、出来ない事ができる様になると自分の事以上に一緒になって喜んで、泣いて笑って共に過ごしていた。王子としての苦しみに真っ先に気付いたのもあいつだ。器用な奴だから筆頭執事に向いてるだろうな」
凄いな。我が子ながら知らない事ばかりだ
「恥ずかしながら、我が子の事が余りにも理解出来ていなかったらしい。連れて行きたい奴は連れて行け。持つまで行きたい物も持っていけ。金なら払う!後は任せても良いか?俺が考えるのは専門外な気がしてきたよ」
ソージュが良ければそれでいい。
「王族なんてそんなもんだろ?上位貴族ともなれば産まれて直ぐから乳母が育てるし。スキンシップもコミュニケーションもあまりとらないぞ?寧ろナトゥーアは関わっている方だろう?良くやっていたと思うぞ?」
そんな風に見ていてくれたんだな
「ありがとう。息子をよろしく頼む」
エストラゴンが国に帰って2年が経ち
息子は10歳になっていた。
エードラントから連れて来たハーレムの住人と従僕見習い達を交えた歓迎会は終わり、10歳のソージュと今は2人で話している。
「明日には学園に行くのか?準備はできたか?足りない物は無いか?」
分かっていても心配で堪らない
「父様、落ち着いてください。準備はレヒテハントが手配してくれました。ペリルも従者として同行を許してくれてありがとうございます。明日、夜明けと共に旅立ちます。今まで育ててくれてありがとうございました。皆によろしくお伝え下さい」
あー泣いて縋って止めたいが辞めておこう
「皆、宴の間泣いて騒いで大変だったな。まあ、いっぺんに挨拶が済んだから効率はよかったか?」
地獄絵図だったし、ソージュ途中から埋もれて見えなかったな。
「こんな自分を惜しんでくれた皆に報いるためにも、必ず自立してみせます」
なんだろうな、手を離すのが早過ぎるな
「分かった。頑張りなさい便りを楽しみにしている。必ず幸せになりなさい」
「ありがとうございました」
頭を下げて部屋を出て行く。涙が出て来たが誰も見ていないからそのままにしておいた
明け方、部屋から息子を乗せたであろう馬車が出るのが見えた。見送りは大惨事になるから要らないと言われたので昨夜が別れだった。息子は他にもいる。それぞれともっと向き合ってしっかり話をしようと誓った。
何度か便りは来た。
息子よりエストラゴンの頼りね頻度が高く、こちらで生活していた時より息子を近くに感じるとは思わなかった。
ソージュはあっという間に功績を立て、
あろう事か、エストラゴンを下し、エストラゴンが付いていた特殊部隊の隊長となり、女神の寵愛が行き過ぎて、女性不振に陥った。
一体いつになったらソージュは
[真実の愛]を見つけられるのか?
それはもう少し先の話だ。
ハーレムの王子様 黒砂無糖 @kurosunamuto
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