第4話

俺の名前は健太。

俺にはおじいちゃんがいた。

もういないけど。

おじいちゃんの名前は岳。


そんなおじいちゃんの

最後の話を聞いて欲しい。



あの日おじいちゃんは

病気で入院していた病院で

俺にこう話した。

「わしはもう長くないだろう。

そこで頼みがあるんだ。

わしより先にあの世へ

行ってしまったあの人に

妻に会いたい。

死ぬ前にもう一度だけ会って

伝えきれなかった感謝を

伝えたいんだ。

今の時代は時間旅行とやらが

できて様々な時代に行けるのだろう。

わしの妻にも会えるだろう?」

「会えると思うけどさ

おじいちゃん。

僕が言いたくないけど

過去でおばあちゃんに会うと

寿命を払わなくちゃいけなくなるんだ。

払う寿命より残りの寿命の方が

少ないとその分

生き返れなくなるんだよ。

おじいちゃん、

それでも良いの?

それにその体じゃあ

選ばれるの待つのもきついし、

施設に行くにも

どうやって行くのさ。

病院の外に出る許可だって

もらわないと。」

「かまわないよ。

そんなことより

あの人に感謝を伝えられるなら。

病院など抜け出せば

いいだろう。

その手伝いをして欲しいんだ。」

「過去に行くのは分かったけど、

先生に外出許可と

お母さんたちにも許可

もらわないと。

俺だけじゃ判断できないよ。」

「そうか。

じゃあ今から全部先生呼ぶから

許可もらってくれ。」

そう言うとすぐに

おじいちゃんは

呼び出しボタンを押した

「岳さん、どうしましたか。」

「あっ先生。

一日だけおじいちゃんの

外出許可をもらいたいんですけど。

もう長くないから

最後に時間旅行して

妻に会わせてくれって

どうしても、

譲らなくて。」

「···本当は許可できないですし、

私の立場では、

言ってはいけないことですけど、

·····確かにもう、岳さんは、。

それに寿命足りないとか

あるかもしれませんよ。」

「かまわないって言ってるんです。」

「分かりました。

外出許可は出します。

何かあったら

時間旅行せずに

すぐ戻ってくることと

岳さんの娘さん達にも

許可もらうことが

条件ですよ。」

「ありがとうございます。

母に連絡して聞いてみます。」

先生は病室から去っていった。

「おじいちゃん、

外出許可はもらえたよ。

あとはお母さんが許可してくれるか。

今から、

お母さんに連絡しようと思ってる。」

「そういうことなら

貸してくれ。

わしがあいつに許可をもらう。」

俺はおじいちゃんに

母の応答を待っている状態の

携帯をそっと渡した。

携帯を受け取った

おじいちゃんには

見たことのない気迫を

感じた。

今までにないほどに

真剣な目をしていたからだ。

母と電話が繋がった瞬間、

「真理、真理子。

わしだ。

お母さんに会いたいから

時間旅行したいんだが

許可くれないか。

もちろんくれるよな。

健太と先生は許可してくれたぞ。」

『ハァ、もうお父さん、

どうせ強引にでしょう。

私はもうお父さんが

長くないだろうって

覚悟決めてるし、

先生が許可したなら

最後にお母さんに

会いに行ったら。

健太、聞こえる?

おじいちゃん施設に

連れていくの手伝う?』

「いや、大丈夫。

明日、おじいちゃんを

施設に連れていくね。」

『分かった。じゃあ切るね。

お父さん、健太に迷惑かけないでよ。』 

強気なように見えて、

怖がっていたのか

おじいちゃんはホッとした表情で

携帯を返してきた。

それを受け取って、俺は

「また明日ね。

明日は大変だから、

良く寝るんだよ。」


翌日

朝の光の中、俺は

おじいちゃんを車椅子に乗せて

施設まで連れていった。

「おじいちゃん、

ここから先は

一人で行ける?」

「ああ行けるとも。

健太ありがとな。

健太を育てる真理子と

すくすく育つ健太を

見ることが出来て、

楽しい余生だった。

またな。」

そう言っておじいちゃんは

施設の中へ入っていった。

俺はおじいちゃんに

またねって返せなかった。

だって、

本当はおじいちゃんに

行って欲しくなかったから。

もうお別れだと

分かっていたから。

施設の自動ドアの音が大きく響く。



施設の中に入ると

職員さんがいた。

名札には時生と書かれていた。

年齢は30代くらいだろう。

そんな時生さんが

「おとうさん、

ご家族の方に許可もらってますか。」

「ええ、もらってます。」

「ではあの装置の中に入って

聞こえてくる声に従ってください。

ちょっと揺れるような感覚がしますけど

大丈夫ですか。」

「大丈夫です。

あの、装置の中に入る前に

手紙書いても良いですか。

わしが装置に入り終わったら、

外にいる孫に渡して欲しいのです。」

「いいですよ。紙とペン渡しますね。」

渡されたものを受け取って、

わしは手紙を書いた。

あっちに遺す家族に宛てた手紙だ。

手紙を書くわしの手は、

想いが溢れ震えていた。

手紙を書き終え、時生さんに

渡したあと、

わしは装置の中に入った。

装置の扉が閉められた。

強がってはいたが

不安を感じていた。

中に入ると時生さんの言っていた

声が聞こえてきた。

〖どちらに行かれますか。〗

「過去に、15年前の過去に。

出来れば、病院の前に。」

15年前は妻の容態が

悪くなってきた年だ。

何故か若い頃の妻に会う勇気は

湧かなかった。

〖15年前ですね。

分かりました。

それでは行ってらっしゃいませ。〗

少し揺れるような感覚がした。

空気が今と違っていて

15年前に来たという感覚があった。

望みは薄いと思ってたが

しっかりと病院の前だった。

妻の号室は覚えてる。

心臓が鼓動を打つ。

わしは病院の受け付けに向かった。


病室には妻がいた。

「あらあなた、

ずいぶんと老けたように

見えますけど。」

ああ懐かしい

変わらない 

妻だ。妻に会えてる。

「実はな、未来から来たんだ。」

「そうなんですね。

やっぱり

あなたより先に、

あの世へ私は

行くのですね。」

「ああでも、すぐに会える。

どうだ。話をしよう。」

笑顔で私達は話をした。

穏やかな時間の流れの中で

昔に戻ったように。



おじいちゃんが施設に入ってから

少し経ったとき、

自動ドアが動き

職員さんが出てきた。

どうやら

おじいちゃんは最期に

俺達家族に向けて手紙を

書いていたようだ。

俺は堪えていた涙が溢れた。

職員さんの目にも

優しい涙が流れていた。

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